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壮大な世界の物語~絶望の果てで、少年は勇者になる~  作者: おう
出雲遠征編

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第二章第一話『遠征』



 「ギルドマスター。こちらを」

 

 場所はギルドマスターの執務室。愛も変わらず殺人級の書類仕事を処理していたところ、声をかけられてアルデバランは書類の手を止めた。

 筆を適当なところに置いて、差し出される手紙を何の躊躇いもなく受け取る。質感と手触り両方とも素晴らしく、少し触っただけでそれが上等なものでできていることが分かった。

 余韻に浸るのも束の間、アルデバランは顔を上げた。


 「サミュエルか......これは何だ? 恋文か?」

 

 完全に冗談なつもりだったが、アルデバランの予想に反して特務部隊隊長のサミュエルは明らかに頬を赤らめた。


 「そういうのは分かっていても口に出さないものですよ。......まったく、乙女子は分かっていていないですね」

 

 アルデバランは眉をひそめた。アルデバランには野郎を愛す趣味はないのだ。

 ギルドマスターと特殊部隊隊長の禁断の恋は絶対に始まらない。 

 その予兆すら生み出させてたまるものか、そんな意味を含めてアルデバランは鋭い一言を言い放つ。

 

 「やめろ。気色悪い。俺にはもう心に決めた人がいるんだよ」


 侮蔑を込めた目でサミュエルを見上げた。

 第三者からしたらアルデバランはサミュエルを嫌っているように見えるかもしれないが、実際のところ、アルデバランはサミュエルには感謝していた。彼もしくは彼女が暗い仕事をしてくれるおかげで、ギルドは成り立っているのだ。それを汲みしても、サミュエルはふざけすぎているが。


 (もう少し真面目になってくれたらいいんだが)


 そう思ったところでアルデバランは内心苦笑した。自分が言えたことではないと。

  

 「コホン、冗談はさておきそちらは国王陛下から送られてきたものです」


  (あぁそういうことか)

 先日行われた『アアルの目』の捕縛作戦。それはアアル王国の中心部にいる大罪教との内通者を探すために行われた。

 内通者が宰相であった外務大臣だと判明し、それをアルデバランが報告すると、後々に内容をまとめた書状を送ると約束してくれた。


 (...ってことは例の書状がようやくきたか)


 「呪詛魔術などがかけられていません。どうぞ安心してください」

 

 サミュエルの言葉に安堵する。

 アルデバランはナイフで封蝋を外すのではなく、パチン!と指を交えて関節を動かし軽快な音を鳴らすと、微弱な炎が封蝋の部分だけを焼いた。

 そして手紙の内容を見た。


 「──」


 内容を一通り見終えると机の上にそれを置き、サミュエルのことなどお構い無しに両目をつぶって思案にアルデバランは浸った。

 内容自体は複雑なものではなかった。

 まず第一に内通者に感謝する旨の内容。それに付随して、話題に上がっていたギルドをアアル王国の警備の任を降ろし、アアル騎士団を再編するということは白紙に戻された。

 第二の内容。これが一番大切な内容だ。

 元宰相であるオットーの口から、『大罪教が何らかの目的を持って、五大国の出雲、共和国に手を伸ばそうとしている』という大罪教の今後の行動に関する情報を得られたことだ。


 「情報をくれただけでなく、行動に移せる大義名分を俺達にくれたか...」

 「ええ、そうですね」


 手紙などに呪詛魔術などがかけられていないか、それを確認するためにギルドに来る書類全般を確認しているサミュエルは、手紙の内容を知っているのか頷いた。


 「アアル王国と出雲の同盟を結ぶための使者。それの護衛をギルドに任してくれるか。ありがたいが...」


 アルデバラン椅子に座りながら、アルデバランは体を仰向けにして天井を見上げた。

 それがギルドに与えられた出雲に赴くための大義名分だった。

 民間組織といえど、ギルドは王都の治安を守っているアアル王国の大きな要だ。もしも戦争が起きれば、ギルドはアアル王国の戦力として戦うことになっている。

 そんな組織が気軽に他国にいけば、外交問題に発展しかねない。故に大義名分が必要だった。

 

 (まぁ、少人数ならバレずに送りこめるんだがな)


 実際、ちょくちょく他国に隊員を送って調査をさせているが、それは少人数の話だ。

 

 「どうされるのですか?」


 手紙の内容に乗り、まだ不確定な情報を信じて出雲ギルドの戦力を送るのか。それの決定権はアルデバランにあり、『特務部隊』の隊長であるサミュエルは応じるか否かをアルデバランに問うた。


 「少し待ってくれ」


 (いつかこうなることは分かっていたが、実際になるとまた違うな)

 

 アルデバランは机の上に乱雑に置かれている書類の山。そこに隠れている一冊の分厚い本を取った。そしてそれに書かれている文字列をパラパラと読むと、アルデバランは覚悟を決めた。

 息を呑んで、言葉を出そうとする。

 やはりアルデバランは慣れない。きっとこの一言で傷つく命や失う命が生まれてしまう。そう考えると言葉を出すのが億劫になってしまう。それにアルデバランが殺してしまった仲間の顔を思いだす。

 

 ──今までの犠牲を無駄にできない 


 親友に最愛の人が、好敵手と。もう多くがいなくなってしまった。しかしそのかけてくれて命を無駄にしないために──


 「遠征だ」


 ギルドのやることは決まっている。

 遠征。大罪教が魔の手を伸ばしているという『出雲』に赴き、その目論見を完全に潰す。それが『勇者』を勝たせるための組織ギルド。否、大罪教に私怨を燃やす人間の集まりであるギルドの存在意義であるのだから。

 「そして遠征には『勇者』が...いや、ユダがいる第一部隊を向かわせる」



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