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壮大な世界の物語~絶望の果てで、少年は勇者になる~  作者: おう
アアル王国編

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第一章第二十一話『咎人』


 「──おい、アルス!! ビビって戦えないってことはないよな!!」

 「当たり前だよ。あんなカッコつけた手前、逃げれるわけないよ」


 ユダとディアブロの激闘の裏で、アルスとフェリス。二人の友人の激闘があった。

 

 「あらあら。二人の男の子...とても可愛いですね。喰らいたくなっちゃう♡!」


 眼の前の『敵』は改めて戦闘意思を見せた二人に、赤く興奮した頬に手をつけて喜びを体で表現した。

 そして不気味さを含んだ挨拶をした。


 「──改めて自己紹介を。私は『傲慢の罪人』様が配下の咎人、セラと申します。それで──」


 この咎人との戦闘経緯は至って単純だ。

 

 結界を破壊した後、ユダの下へと急ぐ常世一行をこの女が襲撃した。強力な敵が故、常世が対応するはずであったが、ユダの下に常世、他の隊員達を送り届けることが優先だと考え、アルス、フェリスがこの女との戦いを受け入れることにした。

 

 頑張るユダに触発された結果である。


 故に──


 ((──こいつをユダ達のもとには向かわせない!!))


 二人の考えることは同じで、攻撃も同じ。


 「──っ!!」


 セラの自己紹介の最中、二人はそんなの聞きたくないと言わんばかりに、セラに対して剣を振るった。


 「──あらあら人の挨拶を聞かないなんて不良。でもそこもいいわ♡!!」


 剣閃は確かに速かった。

 だが――届かなかった。

 キィン、と乾いた音が二重に鳴る。


 「……え?」


 アルスの剣も、フェリスの剣も、

 空中で何かに阻まれたかのように止められていた。

 そこにあったのは盾ではない。

 剣でも、結界魔術でもない。


 ――蠢く、黒。


 「……蟲!!」


 フェリスが息を呑む。

 二人の剣先に絡みついていたのは、無数の黒い蟲だった。

細く、節だらけの胴体。

 光を拒むような艶のない外殻。

 それらが、剣を噛んでいた。


 「ふふ……♡ やっぱり若い子は元気でいいわね」


 セラは一歩も動いていない。

 指先すら、持ち上げていない。

 にもかかわらず――

 地面の影、崩れた瓦礫の隙間、魔力の残滓から、黒い蟲が溢れ出していた。


 「気持ち悪い……ッ!」


 アルスが剣を引き抜こうとする。

 だが蟲は離れない。

 それどころか、剣を伝って腕へと這い上がってくる。


 「アルス、離れろ!」


 フェリスが叫ぶと同時、

 蟲の一部がぷつりと弾けた。


 次の瞬間、アルスの視界が歪んだ。

 轟くは爆発音。


 「ぐがぁ!!」


 フェリスが咄嗟に蟲を切り離してくれたが、それでも爆発をくらいアルスは顔面を負傷した。おでこの当たりから血が止まらない。

 急激な出血に立ち眩みがする。痛みは止まらなく、意識が剥奪されそうになる。


 (けどあのままだったら腕が持っていかれていた。贅沢は言えないな)


 痛みに叫びそうになるのを奥歯を噛み締めて堪える


 「迂闊には攻めれない。じっくり行こう」


 アルスはフェリスにそう耳打ちし、言葉を飲み込んだフェリスが静かに頷くと『敵』を真っ直ぐ見た。


 どうやらセラは現在地から動きはないらしい。それが魔蟲を操るうえでの条件か、はたまたアルスを舐めているのか、どちらにしろ今は好都合だった。


 赤く染まっていた視界を目を拭うことで払い、剣を持たない左手に『魔石』を収めた。


 (周囲に罠もない。魔石を使って接近戦に持ち込む!!)


 「僕の動きに合わせてフェリス!!」

 「あいよ!!」

 

 アルスが魔石を砕きながら、迫る魔蟲に投擲した。魔蟲が燃え、汚い断末魔を聞きながら二手に別れた。

 セラの周りには魔蟲は展開されていない。

 

 接近戦なら勝機はあるはずだ。

 

 (――行ける!!)


  地を蹴る。

 黒い蟲が反応するよりも早く、間合いへ。

  フェリスの剣が追ってくる、蟲の群れを切り裂く。

 その隙間を縫って、アルスが踏み込んだ。


  「『高速抜剣』!!」

 

 魔蟲が弾け、魔力の残滓が宙に散る。

 セラの表情が、初めて歪んだ。

 

 「……あら?」

 

 楽しげだった声に、わずかな焦り。

 その瞬間を、二人は逃さなかった。


 ――連携。


 「今だ、押せ!!」

 

 だが――

 勝ち切れなかった。

 セラは笑う。


 「とっておきですよ♡!!」


 顕現したのは巨大な魔蟲。アルスとフェリス、その両方を飲み込むことができそうな巨体。だがよく観察して気づいた、単一の生物ではないと。

 巨大な魔蟲の正体。それは魔蟲の集合体。それぞれが部品として動く、セラの命令があってこそ生きる狂気だ。


 「喰らいなさい♡私の子!」


 セラの命令に従い、

 巨躯を形作る、数千の魔蟲が動き、羽の轟音が二人の耳元を襲う。


 (まずい…!!)


 「アルス!!」


 友の呼びかけも遅く、アルスは魔蟲に飲まれた。

 視界が黒に染まり、空気が消えた。




 ―― ―― ――




 (まずった!!)


 目の前の状況にフェリスの頭にはその言葉が先行した。


 「うぉぉぉお!!」


 巨躯に向かって横に一閃。

 何体かの魔蟲を殺し、巨躯に穴が生まれ、飲み込まれたアルスの姿が見えた。が、その穴を埋めるようにどこからか魔蟲がやって来た。


 「アルスを返せ!!」

 「安心してください殺しはしませんよ。だって可愛いですもの♡」


 一閃、また一閃と巨大魔蟲に攻撃を仕掛けるが、アルスが解放される様子はない。

 ここのまま飲まれ続けるとどうなるか、そんなこと考えたくない。


 (クソクソクソ!!)


 額の汗が滲む。

 呼吸は荒く、視野も狭くなっている。


 そんな中、ギルド隊服のズボンのポケットが熱くなった。アアルの目の本拠地で見つけてくすねた怪しいげな石を入れていた場所。


 (砕けってことか…)


 「っ!!」


 感じた通りに、フェリスはその怪しげな石を砕いた。

 

 「「ぎぃぃぃ!!」」


 石を砕くと魔蟲の狂声。

 まるで制御が効かなくなったように、蟲達は自壊して崩れていく。 


 「いったい何をしたのですか?」


 初めてセラが焦りを見せた。

 彼女が困惑するように、フェリスも同様に困惑していた。あのくすめた石がこんな風に役立つとはと。

 蟲が続々と崩れているお陰で、巨躯に飲み込まれていたアルスが解放された。彼はズタズタになりながらも、気力を絞って走っていた。


 「フェリス行くぞ!!」


 その掛け声にフェリスはアルスに心配の声を掛けることを忘れて斬り掛かった。

 ただ目の前の咎人を殺すために。


 「蓄激!!」

 「高速抜剣!!」


 二人の全力がセラを襲った。セラは体を華麗に動かし、二人の攻撃を妖艶な動作で回避していく。

 しかしアルスとフェリスは剣士だ。近距離戦であるならば、この咎人に優位に立てる。


 「あぁぁぁ♡!!」


 ややあって、フェリスの獰猛な剣がセラの胸元が斬った。血が吹き出して、辺り一帯が濡れる。

 セラは荒い息をつきながら、逃亡を始めた。


 「待て!!」


 つかさずフェリスは走り出す。だが視界の端で緑色の髪の少年が地面にどさっと倒れた。


 (アルス…!!)


 こいつはもう限界だったんだと、フェリスは悟った。処置をしなければ死に至るかもしれない。だがここで止まったらあの咎人を殺せない。

 友の命を助けるか、咎人の命を刈り取るか。二択の答えは簡単だ。


 「友達の命に決まっているだろが!!」


 レッグポーチから包帯や、マナ副隊長から貰った回復薬を取り出し、応急処置を開始していく。


 「おいアルス! 負ぶってやる。さっさと常世隊長の方に行くぞ」


 もう体を動かすことが困難なアルスを背中に抱え、二人は常世隊長やユダ、大勢の仲間がいる方に行くのだった。

 



 ── ── ──




 「はぁはぁはぁ!!」


 二人から逃れたセラは、虫の息で安全な場所を見つけ、束の間の休息をセラは取っていた。


 (想定外だったわ♡)

 

 よもやあの未熟な二人の剣士に瀕死に持ち込まれるとは、想定外な出来事にセラは酷く興奮していた。

 叶うなら熟したあの二人と再戦したい。


 しかし残念かな。咎人であるセラには未来の展望を許されない。何故なら――


 「やっと見つけた」

 

 「アルデバラン…!」


 ギルドマスターにして、後追い星が罪を持つ者の生存を許さないから。

 忽然と現れたアルデバランにセラは瞠目せず、その事実を淡々と受け入れた。

 薄々分かっていたことだ。アアル王国内でギルドマスター管理が届く範囲で事を起こせばこの冷徹な処刑人がやって来ることは。

 

 「ご友人の敵討ちですか…?」


 巨木に身を任せて、倒れ込んだセラは上目遣いでアルデバランに問うた。呼吸は荒く、全身の出血、特にフェリスに斬られた胸元の損傷は酷い。


 「…当たり前だ。お前の魔蟲に俺の友人のララは殺されたんだ」

 「ははっ! 百年も前のことをよく覚えていますね。 そんなに私を憎み、『愛』してくれるなんて、私は愛されものですね♡」

 「相変わらずキモい反応をするな。お前には散々、苦汁を飲まされたよ。…けどこれで終わりだ」


 もう会話は終わりだ。


 「あぁそうですか。ですか最後に一つだけ、ギルドには『勇者』がいますが、本当にそれだけですか? 実はギルド内には二つの権能が…」


 ――その言葉を、セラは最後まで紡ぐことはできなかった。

 アルデバランの瞳から光が消え、代わりに、この世の物理法則を無視した「熱」が森を支配したからだ。言葉すらも焼失させるほどの、圧倒的な殺意。


 「『烈火』」


 (嗚呼、何て素晴らしい憎愛!!)

 

 抗いようのない炎がセラの心臓を突き刺す。身を焦がし、魂にへばりつく罪すらも許さない業火。

 さながら魂が燃える感覚を覚えながら、セラは絶叫などしなかった。


 ただ一つ。


 「あははは!! 大罪者様の栄光があらんことを!!」


 


 ── ── ──




 「ふぅ」


 処刑を終えたアルデバランは視界の下に映る燃えくずに一瞥をくれず、過去を追憶しながら浅い息をついた。


 彼女の昔の声が聞こえてくる。


 ――『アル!! 貴方が組織の頭だ!! 私達は貴方に死ねと命令されたら従順に従う!! だからここで私に言え!! 生き残るために私にしんがりになれと!!』

 

 (だからってそんな命令下せるかよ)


 「ララの敵。とったぜ」 

 

 復讐の後は虚無であった。 

 センチメンタルな気分になっていると、アルデバランは懐かしくて蒼い魔力を身に染みて感じた。


 (勇者? チッ、ユダが勇者の権能を使っちまったのか。今の状況で使っても碌なことにならねーぞ)


 『どうするつもりだ?』


 「今回は常世に任せる。けど終わったらユダにちゃんと話すよ。権能のこと。管理者のこと。俺の百年分の努力全部、あいつに教える」


 魂に宿している『聖獣』フェニックスの問にアルデバランはそう答えるのだった。



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