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壮大な世界の物語~絶望の果てで、少年は勇者になる~  作者: おう
アアル王国編

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第一章第十九話『捕縛作戦⑥』

 


 ──時はユダが結界内から抜け出した頃に戻る


 「おいユダ! ヘマするなよ!! もしここでヘマしたらお前の女とっちまうぞ!!」

 「フェリスの相手は大変なんだ!! ユダがいなくなったら僕が困るんだからな!!」


 結界によって音が遮断されるのに、アルスとフェリスが必死に結界の外にいるユダに声をかけているのを常世は、どこか哀愁を漂わせながら見ていた。  

 目があった少年に対して、頑張って常世は心配そうな顔をしようとした。しかしそれはできなかった。

 人間性を失っていっている常世には、大切な部下の身を案ずることも許されないのだ。

 常世は可愛くない人形のように、ただ無表情を貫くことした許されていない。


 「……すまない」


 目の前で必死に呼びかけにかき消される声で常世は呟いた。

 この謝罪には二つの意味がある。

 一つはユダに危険なことを任せたこと。

 二つはそんなユダを無表情で送り出したこと。


 (どうする?)


 常世は心の雑念をすぐさまに除去して、深い思考の海に浸る。

 結界に取り残された常世たちは、今はユダが持ちこたえているが、そう長くは続かないことは分かっていた。だからこそ皆、焦燥感に駆られている。

 結界魔術に囚われた時の対処法は古来より決まっていて、結界を構成する媒体を破壊することである。

 しかしこの結界内に媒体を見つけるのは困難だ。ならばすることは一つ。結界を内部から直接破壊をすること。

 そんな無理難題を可能にする方法が常世にはある。 

 

 「これしか方法がないのか」

 

 そう言って常世は自身の腰に帯刀している『刀』に手をかける。この『刀』は通常の武器とは違い、『魔剣』という特別なもので絶大な力を秘めている。

 しかしその魔剣に呪われている常世は、それを抜刀するために『人間性の消失』という大きな代償を払わないといけない。

 正直言って抜刀したくない。しかしユダが命をかけているのに、自分だけ全力を出さないのは許せないと、考えて覚悟を決める。

 

 「……『常世』」


 (……ギルドマスター殿の王室にはギルドの真の実力を隠せ」という非公式の指示を覆すことになる。だが、これしか方法がない)

 

 呼んだ名前は自身の偽名ではない。腰にかけている魔剣の名前だ。

 魔剣『常世』。

 五大国である出雲で一番有名な刀鍛冶が作った最強格の魔剣──それを常世は使いこなすことができず、呪われてしまっている。

 しかし幾ら呪われようともこの世の悪を倒すため、ひいては人を助けるためにならば、常世は魔剣を抜刀することを躊躇しない。


 「──ふぅ」

 

 静かに息を吐いた。そして迷いなく魔剣の柄に触れる。その瞬間、脳内に忌々しい過去の記憶が流れた。


 『や、やめろぉぉぉぉ!!!』 『俺には帰りを待つ家族がいるんだぁぁぁ!!!』 『もう二度とこんなことをしない!! だから命だけは!!』 『この人殺しがぁぁぁ!!!』 『殺人を楽しむな!!』

 

 常世は脳内に直接入ってくる絶叫の声に気後れした。


 (俺を呪ってもいい、人間性を失わせて最後に無残な死を迎えさせるのもいい! だが! それは今じゃない!! ユダ君の命が大切だ!!) 

 

 自分を奮起させた常世は過剰な程の力を持って、魔剣『常世』を抜刀した。

 刀身に血の雨のように伝うのは数多の幾何学的な文様だ。それらが『常世』が形作るものだったのか、やがて剣先に集結して『それが』現れる。

 鞘から漆黒の刀身が現わになる。多くの罪人を斬り、血の海を作ることができるぐらいに血を浴びてきたとは思えない、美しい刀身だ。

 

 「──ぁ」

 

 魔剣を抜刀した常世に、フェリスやアルスを含む誰もが目を奪われる。美しい、魔剣を持つ常世の姿はその一言に尽きる。

 今いる隊員が、常世が自身の獲物を本気で使用するところを見るのは初めてであること、それを踏まえても隊員が抱く感想が同じなのは不思議なことだ。

 

 「──すごい」


 多くの隊員が感嘆の声を漏らす中、常世は極限まで集中して今斬るべきものを見つめる。

 今常世が斬るべきは、自分含めた隊員を束縛している結界だ。通常なら結界の直接破壊は容易なことではない。

 しかし魔剣を抜刀した常世には可能だ。

 

 「アルス、フェリス」


 常世が堂々たる様子で一歩前に出た。 

 声をかけられた二人は王道を邪魔しないように、常世の行く道からよけた。

 その両者を一瞥もせず常世が全身を続ける。常世の目に映るのは、自分たちを囚われの身にする結界だけだ。


 「──ふぅ」


 理想の場所にたどり着くと、雑念を消し去るように息を吐いた。それもつかの間、常世は構えを取る。

 理想の場所で理想の構え。戦闘では早々できることではないが、今ならそれができる。故に常世は全力を出すことが可能だ。


 「──っ!!」

 

 たったひと振り。

 常世が行ったのは、研ぎ澄まされた一振りだけだ。

 常世がそんな究極な一撃を放った瞬間、この場にいたもの全員が時間が停滞したように感じた。

 静止画のように止まった世界、そこで唯一動いているのは常世の放った斬撃だ。

 その斬撃が透明な壁に到達した瞬間、再び世界が時間を取り戻す。


 皆がその事象を観測した次の時、遅れてガラス細工が割れたような音が響く。音よりも早い斬撃それが──。


 ──結界が壊した


 結界の直接破壊、それがどれだけ難しいものなのかは語るまでもないことだ。それを成し遂げた常世に、第一部隊員の心の中での常世への尊敬の念が高まる。

 当の本人と言うと──


 「はぁはぁ! はぁはぁ!!」

 「常世隊長ちゃん!?」


 常世は呼吸を荒くして、地に伏していた常世。そこに血相を変えたマナ・イハートが飛び出してくる。


 肩書では第一部隊の隊長である彼女であるが、実際には医務室で怪我人や病人を治癒することが多い治癒者だ。そんな彼女だからこそ、常世のことをほっとけずにすぐさま治癒魔術の詠唱を始めようとする。


 しかしそれを常世が手を差し出して静止させて、立ち上がる。

 常世が幼女の顔を見ると、心配で胸が弾けとぶのではないかと、そう思ってしまうほどに心配そうな顔をしていた。


 (……すまない、副隊長)

 

 彼女の優しさを無下にしてしまったことに心の中で謝罪すると、またまだ自分に体の痛さをしることが許されているのだと、安堵感を覚えた。

 視線を隊員たちの方に向ける。


 「結界は破壊した。ユダの元に向かうぞ」

 

 当の本人は結界を破壊した余韻に浸ることも、治癒魔術を受けることもせずに、優先事項を口にした。

 他の隊員たちは顔を見合わせる。そして常世隊長なら大丈夫だろうと、結論づけると皆が同じ反応を示す。

 

 「「おお!」」

 

 雄叫びをあげた隊員たちは、獣の行進のように地面を侵しながら走り出したのだった。



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