顕現
「あぁ、やってしまった。」
死体と少ない家具だけが置かれた王の間。
俺以外には誰もいないので、声だけが響く。
転がり落ちている冠を拾い、頭に被せる。
縦長の鏡を見てみると、そこにはに退屈そうな表情をした冠の似合わない”もの”がいた。
「そういえばBさんは無事に逃げられたのだろうか?
ここを新しい家とするには、お掃除をしなくてはならないね。
生活魔法、≪オール・クリーン≫」
あらとあらゆる”汚れ”が宙に舞い、一点に集まる。
長年蓄積されたゴミと、まだ暖かい死体が合体された。
黒く濁り、何とも言えない臭いを放っている。
「深淵魔法、≪ホール≫」
空間に穴が開き、そこに集合物を投げ入れた。
これで掃除はおしまいだ。
しかし、これでは殺風景すぎてどこか寂しい。
そこで、外に生えている綺麗な植物を持ってこようと思った。
この部屋には一個しか扉が無いので少々不便だったが、扉を開け、廊下に出た。
先ほど使った、生活魔法の範囲はこの城全体。
ここも綺麗になった。
ふと床を見てみると、素が垂れているのに気付いた。
「そうか、まだ治癒してなかったねぇ。
治癒魔法、≪リ・ライフ≫」
瞬時に身体に開いた穴が塞がっていく。
身体から抜けていた力が元の器に戻っていく、そんな感じがした。
そのまま廊下を進み、庭園の方に出た。
ここの植物たちは何も知らない。
いつもよりエルフが少し騒がしかったぐらいだろう。
たくさん咲いている中から、生命力の弱そうな植物を数本抜き取る。
「祝福魔法、≪ギフト≫」
魔法を与えた植物たちは元より丈夫に、生命力がより強化された。
植木鉢に、ふかふかな土を入れ、そこに挿す。
それらを部屋に持ちかえり、飾ってみた。
これである程度は景観がマシになったと思うが、どうもまだ落ち着かない。
少し考えてみた結果、分かったことがある。
「広すぎるんだ、ここ。」
以前いた家に比べ、天井も高く、内装も豪華で、ここに独りで居るのは寂しい。
と、いうことで人を呼ぼう。
と、思ったけど、呼べる人もいない。
「そういえば、ロマネツェル・ベールはどこにいるんだろ?」
居場所を聞くのをすっかり忘れていた。
もう、彼は”冷めちゃった”し、八方ふさがりになってしまった。
遥か昔にやった宣戦布告もあまり盛り上がらなかったし、何をしようか。
「あ!フェル!」
そうだ、俺にはフェルがいるじゃないか。
彼女をここに招待...、違うな、ここに住まわせれば退屈しのぎになる。
次合うまで、まだ日数があるし、それまで別のことをするか。
今までやったことのない規模の魔法を使ってみようかな。
「召喚魔法、≪バベル≫」
「?」
「ご苦労様、続けてで悪いんだけどちょっと手伝ってほしいな?」
「承知。」
召喚した生き物の指を捻り千切った。
「!?」
声にならない音が聞こえてきた気がする。
ドバドバと垂れ続ける血を綺麗になった床にぶちまける。
三角形と円型の印を複数個描き、真ん中に生き物を配置。
「輪廻、永劫、回帰、反魔法、≪エール・ドムノミュ、生命を冒涜せよ!」
久しぶりに使う6節の詠唱魔法、身体がすこしだけ軽くなった気がする。
魔法印は紫色に発色し、大きな揺れが発生した。
不可視の雷が空間を切り裂き、それを掴むどす黒い手が見える。
言葉で表せない音が空間を支配し、”それ”が顕現する。
「GYAAAAAAA!!!」
耳を壊すような凄まじい不快音をまき散らす生物、エール・ドムノミュが再び生を得た。
「やぁ、久しぶりだね、エール。」
「VG$%&'?_OMY?」
「俺は今、退屈なんだ。
気分屋なのを知っているだろおまえは?
この世界にちょっと混沌を生み出してくれないか?
全ての憎悪を俺に向けてくれ。
頼んだよ?」
「$%('&G'D%&U!」
「ん?」
突如遠く、かなり離れた場所から睨まれた気がした。
前にも感じたことのある気配、なんだったかは思い出せないけど、今は無視しよう。
一瞬、呼吸が止まるような感じがした後、巨大な生物は姿を消していた。
「フェルに住所が変わったことを伝えないといけないから、元の家の場所に戻ろうかな?」
そう思い、再び汚れた部屋を出て、エルフの国だった場所を去った。




