彼と近づく数ヶ月
あれから、私はケアに専念していた。月に一度はお店(どちらでも可)に顔を出す。
今夜は、その日だ。
脱毛も終わりに差し掛かり、口腔ケアも終わり、なんというか、やはり、どことなく安心したり、少しだけ自信がついたりしていた。
確かに当初は色々考えた。というか、疑心暗鬼になり、疑い、不安になり、怯えた。
だが…。
「いらっしゃい。今日は何か食べる?」
あの日から蓮谷…シロウはすぐに、私に接客するなど、距離感を変えた。
だが、決して不快感はない。
疑心暗鬼になるが、見抜かれて、打ち明けて、安心させられる時間も増えた。
「うん。オススメをお願い。」
お酒と共に注文する。
「わかった。…まってて。…今日も、柔らかな雰囲気だ。…今日さ、話しをしようよ?色々聞きたいんだ…、大丈夫かな?」
私は恥じらい俯く。
「ええ。大丈夫」
私は答えて料理を待つ。
しばらくしてー。
「美味しかった。ご馳走様でした。」私はふんわりと、笑う。
「良かった。…もう少しまってて。店じまいするから送るよ。」
そうして、ケアに専念する数ヶ月、食事をしては、車で話す…または、彼の趣味と実益を兼ねた自宅で話しをした。
趣味と実益を兼ねた自宅のドアを開け、彼は、ソファへお酒を持ってきてすわる。
「…今日は…少し踏み込んで聞くよ?」
私の気持ちが落ち着くまで、そのまま、沈黙して、お酒を飲んだ。
「…男性は恋愛や性の対象だけど、こわい。…なんで怖いのかな…?」
静かに、ゆっくりと、低い声で彼は聞いた。
私はお酒を飲み、考える。
何度か、深呼吸をして私は話し始めた。
辺りは抑えられた照明に落ち着くように静かに音楽が流れている。
「怖い…のは…」
シロウの指先が、私の指先を優しく弄び撫でている。
「怖い…のは………。命が危険に晒されるから。」
そんな気がするから、とかではなく、「危険に晒されるから」
シロウはその言葉を聞くと、優しく睡の指先を握りしめ、そばに寄り、彼女をそーっと抱き寄せた。
「ん。わかった。…よく、教えてくれたね。頑張ったね…。」
シロウの指が目尻に触れ、シロウを見つめる。
「………気づいてない?……睡、泣いてる…」
私はその言葉に驚いた。
「えっ。泣いてる?なんにも理由ないよ?あれ?」
シロウがソファを立ち上がり、どこかへ行こうとした。
私は思わずシロウの手を握り、引いた。
しばらくシロウと見つめ合う。
「タオルを取ってくるよ。」微笑み彼は言った。
タオルを棚から出しながら、シロウは慌てていた。
(えっ。今の何?今の睡の表情、ヤバい。子犬がうるうる見つめるみたいに。なに、この不意打ち。)
シロウは胸が痛み、高鳴るのをしばらくやり過ごして、睡にタオルを渡す。
そばに寄り、肩を抱いて慰めた。
「泣くなんておもわなかったから…ごめん。」睡が謝る。
「謝る事じゃないよ。」
俺は睡を安心させるように、それからの夜を過ごした。
「…そろそろ…帰らないと…」
「うん。…口腔ケアとかほとんどおわったんだよね?」
「ええ。…どうして?」
「…キスしていい…?したい。…さっきの睡、ヤバい。子犬がうるうる行かないでって言ってるみたいだった。」
「あ……。」
やはり、私は一時の事で、本気で女性としては……、ぐるぐると思考がまわる。
「また、なんか考えてるね。…不安にならないで。」シロウが言い、唇が近づいて触れた。
…柔らかで、熱くて…
段々とを深くなるキスに頭はボーッとしてくる。
疼きが生まれそうになり、私は止めた。
「ごめん。嫌ではないの。…だけど…」
その夜はそんな感じに終わった。
そういった幾日かを過ごして、シロウに会ってから1年が経とうとしていた。
今夜は仕事がうまく行ったので、お祝いにシロウの店に来ていた。
いつもはきっちりめに纏める髪を無造作に纏め、柔らかみのあるブラウスシャツに、スカートという、すこし抜け感のある、柔らかな雰囲気でスツールに座る。
食事も終わり、隣なら声が…かかる。
「一杯、奢らせてください。」
洒落た男性だ。
だが、私は笑顔に警戒心かくして断る。
なんとか、彼は納得し、退店してくれた。
カウンター内を片付けるシロウが襟元を緩めたり、袖をまくる。
………私は…その首筋に、腕に目を奪われた。
…だが…シロウの瞳が暗く光る。
「送っていく。」
戸締まりをし、私を車に乗せて自宅へ向かう。駐車場に車を停めるまで、シロウは何もいわない。
「……やっぱ、寄ってってよ。」
いつものシロウらしくない、強引さで、趣味と実益を兼ねた自宅に、引き入れれると、
唇を塞がれて激しくキスをされた。
「…ん…っは…ん…し、シロウ…」
しかし返事はない。
両手首を掴まれて、口づけは激しくなり、シロウの掌が私の乳房を包んだ。
「…ん…は…ん…やめ…て…やめ…」
なかなかやめてくれない、シロウの唇を噛む。
「っ痛。」
「どうしたの?急に。無理矢理はやめて。」
私は言った。
「ふっ。…そんな溶けた表情で言われてもね、」
髪飾りを取り、睡の髪を下ろす。
しばらくシロウは深呼吸すると
「…帰らないで…あなたはこのまま、誤解したら…また遠くにいくんだろ?
言い訳でもなんでもいい。聞いてくれないか?」
いつもと様子の違う…シロウに警戒心しつつも、私は2階の自宅へついて行った。