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0.6 黒龍の咆哮、呼び起こされる破滅

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 ギルドのお姉さんの説明をざっくり噛み砕くと──


 冒険者には等級というものがあり、基本的には《D・C・B・A》の4段階。

 誰もがまず《Dランク》から始まり、実績や力量に応じて昇格していく。

 ごく稀に、初回の依頼で高難度の任務を達成し、一気にCだけじゃなく、Bへ上がる例もあるらしい。


 ……けれど、飛び級にも限界がある。

 いきなりA──なんて話は、そうそうあることじゃない。


「──では、説明はこちらで以上となります。何か気になることはありますか?」


「なら俺、いいですか?」


「はい、どうぞ」


「DランクからAランクまで昇格した人って、過去に居るんですか?」


  なぜ、そんなことを聞いたのか。自分でもよく分からなかった。


 けれど、胸の奥がざわついた。

 聞かずにはいられなかった。


(……“本物”ってのが、どれだけのものか。

 俺とは、どれほど違うのか──ただ、それを知りたかった)


「いますよ」


 お姉さんはさらりと答えた。


「……やっぱ、いるんですね」


「一人だけですが私の知る限り──」


「それって……カイルって人ですか?」


「あら、カイルさんをご存知なんですね?」


「ええ、まあ。ついさっき知り合ったばかりなんですけど、俺たち、あの人に良くしてもらって」


 隣でアルカがこくこくと頷いている。


「なら話が早いですね。そうです、その方です。

 カイルさんはギルド創設当初からの古株だと聞いています。

 その頃は、まだ等級は三つしかなかったそうですけれど」


(三つ……ならDは無かったってことか?)


「初めての依頼の中で、偶然遭遇した龍を撃退した──それが昇格のきっかけになったとか」


「龍、ですか……?」


「はい。《黒龍アトラセカス》。

 全身を漆黒に包み、長い尾と咆哮で周囲を震わせる“動く厄災”とまで呼ばれた存在です」


(黒龍……アトラセカス)


 さっきまでは、ただの武骨で、ちょっと怖い“いい人”という印象だった。

 けれど、そんな相手が──そんな化け物に、挑んでいたのか。


「それを、カイルさんが倒した……?」


「……いえ。撃退に終わったそうです。

 当時の等級では、そもそも討伐対象にすら入らなかったとか。

 あくまで記録と、カイルさんが酔ったときの“昔話”なので、実際どうだったかはご本人に訊いたほうが早いかと」


「そ、そうですか。ありがとうございました」


(……昔話、か)


 口説き、昔話を語り、笑い飛ばす──

 ギルドのお姉さんの前では、そんな姿もあるらしい。


 俺の中の“カイル像”が、少しだけ柔らかくなる。


 ふと隣を見れば、アルカは目を輝かせながら話を聞いていた。

 この子は、本当にこういうのが好きなんだな。


「他に気になることはございますか?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」


「かしこまりました。では、お気をつけて」


 深くお辞儀をして、俺たちは受付を離れた。


---


 受付を離れた俺とアルカは、ギルド内の一角に設けられた依頼掲示板へと向かった。


 そこには、紙がびっしりと貼り出されていた。

 採取、護衛、討伐──内容は実にさまざまだ。

 そのすべての依頼の下には、対応等級が記されていた。


「この“D”ってやつが、今俺たちが受けられる依頼か」


「そうですね! さぁ、早く行きましょう! 私の魔法、見せてあげます!」


 アルカが跳ねるように言う。


 そんなに俺に魔法を見せたいってことは、どれ程のものだろうか。


「とは言っても、Dの依頼書ばかりだ……かなり数が限られて──」


 言いかけた、その瞬間だった。


 ドォン、と。


 地面の下から突き上げるような衝撃。

 ギルド全体が、いや──街そのものが、激しく揺れた。


「な、なんだ!?」


「何でしょうか!?」


 建物がきしむ音、外から聞こえる悲鳴。

 ただの地震──ではない。


 足元が不規則に揺れている。

 ただの余震には思えなかった。


 そのとき──


 ギルドの階段の上から、ひとりの男が跳躍し、豪快に着地した。


「落ち着け、皆!!」


 それは、眠りに付いていたハズのカイルだった。


「カイル! お前帰ってたのか!?」

「俺たち、お前を心配して──」


 周囲の知り合いたちの声にも耳を貸さず、カイルは怒鳴った。


「皆、ギルドから全員退避しろ!! 今すぐにだ!!急げ!!」


 その声には、圧があった。

 先ほどまでの、どこか余裕を感じさせる空気はもうない。


「お、おいカイル。お前どうしたんだよ」

「トリスの言う通りだぜ……依頼終わったらいつの間にか居なくなっててよ?どうしちまったんだ?」


 二人の冒険者はカイルを問い詰める。


 が、カイルの耳には入ってなど居なかった。


「A級より下の者は、この街から出ろ! 出来るだけ遠くへ!! “ヤツ”が来る!!!!」


(ヤツ……?)


 何かが近づいている。

 それも、ただならぬ“何か”が。


 (……俺の心臓の鼓動が早くなってやがる)


「それから、つい最近A級になった者もだ!

 戦闘経験の浅い奴がいても話にならん!!」


 逃げるべきだ。それは分かってる。

 でも──それでも。


「カイルさん」


 気づけば、俺は呼びかけていた。


「ああ、さっきの二人か。悪いな、冒険者は諦めろ。ヤツが来る」


 その言葉に、俺は思い切って問いかけた。


「……それって、“黒龍アトラセカス”ですか?」


「──っ! お前……なんでそれを知って──いや、今はいい!

 とにかく逃げろ!! この街はもうすぐ、火の海になる!」


「でも……撃退までしかできなかったって聞きました。

 今の実力なら、勝機はあるんですか?」


 沈黙。


 それが、すべてを物語っていた。


「……なら、カイルさんも一緒に逃げましょう」


「そうです! カースさんの言うとおりです!

 私、さっきから足が震えてるのか地面が震えてるのかもう分かりません!!」


 アルカの声が、かすかに震えていた。

 でもそれは、俺も同じだった。


 物理的な揺れと、心の底から湧き上がる恐怖。

 そのどちらが原因かなんて、もう区別もつかない。


「……クソッ」


 カイルが、ぽつりと呟いた。


 そして、遠くから聞こえてくる低く重い咆哮──

 それは、音というよりも空気そのものを揺らす“威圧”。


 獣の声とは違う。

 これは、何かがこの世界を壊すために生まれた存在の“咆哮”。俺にはそう感じた。


「…………あの時、俺にもっと力があれば……あの人にあんな思いをさせることも」


 カイルは何か後悔しているようだった。その言葉が、かすかに震えていた。


 俺はすかさずフォローを入れようとした。

 

「そんなことは──」


 その瞬間。


 ギルドの壁が吹き飛んだ。


 掲示板ごと壁が砕け、建物の中に強烈な風がなだれ込んでくる。

 その衝撃で、俺とアルカは思わず後退した。


 目の前の空間に、黒い影が立っていた。


 漆黒の体。

 うねるような長い尾。

 空気を振動させる熱と咆哮。

 それはまさしく──


(これが……黒龍……アトラセカス)


 身の毛もよだつような姿が、そこにあった。

 掲示板の近くに居た冒険者達が皆、居なくなっていた事に気付いたのはこのすぐ後の事だった。

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『この手は全てを灰にする〜君に触れる為なら俺は呪われた力でさえ利用する〜』

誰にも触れられず、孤独を生きてきた少年カース。
その手が初めて誰かのために動く物語。

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