0.4 少女と、変わり始めた景色
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アルカ・ルーベスト。
「俺の両親と彼女はどういう関係なの? まさか妹!?」
「……いいや、違う」
じゃあ、姉?
もしくは──俺と彼女は昔、何かしらの約束を交わしていて、今日が運命の再会で──
「ルーベストという家名は、貴族に与えられるものだ」
「貴族!?」
予想外の答えに、思わず変な声が出た。
確かに気品はあった。
けど、あの道中の迷子っぷりを思い出すと……中身が伴ってるかどうかはちょっと怪しい。
「優秀な魔法使いの血筋に与えられる称号、それが“ルーベスト”だ。
血の繋がりは関係ない。だから“家名”というより、“称号”と考えたほうが近いだろう」
称号──つまり、能力の証。
あの子は優秀な魔法使いということか。
(魔法……ね)
おじさんが魔法を使えることは知っていた。
薪に火を灯したり、空気を温めたり、手を使わず物を持ち上げたり──
それらは、子どもの頃の俺にとってまるで手品のように映っていた。
けど、それ以上はなかった。
俺にとって魔法は、“見せてもらうもの”であって、“触れるもの”じゃなかった。
俺のこの体では、何を触っても壊してしまう。
魔法どころか、握手すらできない。
だから俺は、魔法の世界に背を向けていた。
羨ましさも、憧れも、ずっと遠くに置いてきた。
「どうする気だ、カース」
「どうする気って……そりゃもう、ありがとうさようなら、しかないでしょ」
この家にあるものといえば、薪と野生の熊肉くらい。
よりによって今朝は黒パンと干し肉。
貴族様にそんなもんを出したら、きっと苦笑いのひとつもされるだろう。
……というか、される前に俺が泣く。
「…………カース」
「なに」
「あの子と──魔法を学べ」
「は? 魔法? 俺が?」
思わず聞き返してしまった。
そりゃ、驚く。だって──
「俺、魔法なんて使えないんだけど?」
魔力があるとも思っていない。
使い方なんて知らないし、教わったこともない。
それ以前に、“触れたら灰にする病人”が、魔法なんて……。
「何も“使え”とは言っていない。
“学べ”と言ったんだ。…………この世界を知れ。魔法という概念を、自分の枠の外から見てみろ」
「……」
おじさんの声は、静かだった。
ふざけた調子もなければ、茶化しもない。
だから怖い。
「お前の中にはずっと、“自分には関係ない”って線引きがあっただろう。
魔法も、社会も、人も──全部、自分とは違う世界だと」
「……まあ、そうかもしれないけど……」
否定はできなかった。
俺の人生はずっと、包帯に包まれた孤立だった。
でも──
「それを壊すには、“外の世界″を見るしかない。
自分にとって関係ないと思ってたものが、いつか、お前を救うかもしれん。
知ることを怖がるな。触れられないのなら、まず目で見て、頭で理解することからだ」
「……」
おじさんは昔からそうだ。
俺が塞ぎ込んだ時も、力を暴走させてしまった時も、怒らなかった。
いつも“前を見ること”を諭してきた。
──でも、魔法を学ぶなんて、俺にできるのか?
いや、できなくてもいいのか。
“知ること”から始めろ。
そう、おじさんは言ったんだから。
おじさんは“魔法”と言ったけど、多分、魔法じゃなくても良かったんだと思う。
外の世界を何も知らない俺に、ただ──
“外”を知るきっかけを与えたかっただけなんだ。
「……分かった。彼女と、世界を見て回るよ。
そして──今までと違う景色が見えたら、ちゃんと報告する」
それは、たぶん自分にとって、今できる“最大の覚悟”だった。
この包帯の中に閉じこもった十五年を、一歩外に踏み出すための──小さな宣言。
「ああ、その意気だ。そうだな、まずはギルドに行く事だな」
おじさんが短く答えた。
その一言が、不思議と心に染みた。
でも、俺は知ってる。
そんなに上手くいくはずがない事を。
「でも──」
と、わざわざ前置きしてから、
「無理って言われたら俺、即諦めるからっ!!」
声が少し裏返ったのは誤魔化せなかった。
けど、それだけは、あらかじめ言っておきたかった。
だって俺はそういうやつだから
殻に閉じ籠るだけの病魔だ。
無理はしない。無理はできない。女の子に断られたら俺、もう生きていけないかもしれない。
でも──やってみるくらいは、今なら……ちょっとだけ、できるかもしれない。
でも本当に断られたら俺行かないからなっ!
---
「いいですよ!」
「あーやっぱそうだよ……な……」
「はい! 見せてあげます!」
……え、いいの? なんでそんなにあっさり?
「あの……俺さ、自分で言うのもなんだけど、相当醜い見た目してるよ?
今までも散々な目に遭ってきた。
だから、もし同情でやってるなら──そんなのは、いら──」
と言いかけた瞬間、アルカが椅子を蹴って立ち上がった。
「違います!!」
バンッ!
机に両手をついた音が鳴り響く。
その迫力に、おじさんと俺は思わず肩を跳ねさせた。
「あ……すみません。でも私、同情とかじゃありません。
ただ……好きなんです」
……え?
それってつまり──俺?
初対面で? 今日会ったばっかで?
「それは、嬉しいけどさ。でも俺たち、まだ──」
「人を助けるのが好きなんです!」
……ああ、そっちね。
うん、そりゃそうだよね。
この包帯ぐるぐる男に一目惚れとか、あるわけないもんな。
俺でいいなら誰でもいいよなあはは……。
「実は私、冒険者ギルドに向かう途中でした」
「冒険者になるのか?」
「はい! でも、まだ駆け出しで杖も持ってなくて……
それで杖を買いに行こうとしたら、貴方が倒れていたので」
「あ、それはごめん」
「いえいえ! むしろ、この出会いに感謝しましょう!
お二人を見ていると、なんだか心があたたかくなりますし!冒険者良いじゃないですか!やりましょう!万が一の時は私が前に出ますから!」
そうか、この子には魔法の才能があるんだっけか。
うーん。よく分からない。 でも、嫌な感じじゃない。
俺と一緒にいることを当たり前のように受け入れて、
それを“良かった”と言ってくれる人なんて──今まで、いなかった。
「俺、冒険者とか考えたこともないし、
戦闘なんて一度もしたことないけど……大丈夫なのか?」
喧嘩を売られたこともない。
売る前に、皆が逃げていった。
そんな俺が、誰かと並んで歩くなんて──想像できなかった。
「では私が、なるべく貴方を守ります!」
「いや、でも君、駆け出しだよね?」
言った瞬間──
「カース」
おじさんの声が割って入った。
「──っ」
その一言で、ようやく合点がいった。
【“ルーベスト”。
それはただの家名じゃない。
魔法の才に与えられる称号──つまり、アルカは本物だ。
“駆け出し”でも、“只者”ではない。】
俺は、おじさんの言いたかったことを、なんとなく察して──無言で頷いた。
それは、言葉じゃない答え。
信頼から生まれた返事だった。
「……」
(カースのやつ……大丈夫だろうか。本当は、「出かけるならシャワーくらい浴びろ」と言いたかったんだが……あいつ勝手に頷きおった……)
──レイスの意図はもちろん、カースに伝わってなどいなかった。
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