0.3 記憶に刻まれた名と、血の証明
いつもご覧頂きありがとうございます!
本編の前にまだブクマや評価をされてない方はどうぞポチッとしてやってください!
無料で作者のモチベを上げることが出来ます!
俺はアルカの力を借り、ようやくおじさんの家に帰ってきた。
玄関先に立つと、いつもの木の香りが鼻をくすぐった。
焦げた薪の匂いに混ざって、どこか安心する空気が漂っている。
「カース、遅かった……な……お前、車椅子はどうした」
「えっと……」
途端に、言葉が詰まる。
焦って包帯を外してしまったこと、右手の力で杖も車椅子も灰にしたこと──
そんなこと、正直に言えるわけがない。
おじさんの目線が、俺の右手に落ちていた。
俺はすぐに気づき、慌てて背中へ隠す。だがもう遅い。
視線の先に引き寄せられるように、そっと自分の右手を見やる。
(……あ)
包帯が、いつの間にか解けていた。
白だったはずの布が、埃と汗でくすんでいる。
そして、その隙間から、灰を纏った肌が覗いていた。
──完全に、バレていた。
「……とりあえず、中に入れ」
「うん……」
言葉を返しながらも、心の奥にじんわりとした罪悪感が広がっていく。
何も言わなかったおじさんの声が、妙に静かだったのが、逆に怖かった。
---
おじさんの家は、簡素な木造の平屋だ。
外観はログハウス風で、壁は手作り感があふれている。
木材の節がそのまま残された柱は、ところどころに傷があり、歴史を感じさせた。
おじさんいわく、「魔法で建てた」らしい。
──毎回そう言うけど、俺は一度も本気にしたことがない。
けれど、こうして雨風をしのげる場所があるだけでも十分だと思っている。おじさんには本当に感謝している。
「……まぁ座れ。そちらは?」
おじさんが促すと、アルカがすっと姿勢を正した。
見慣れない来客──それも、女性。それだけで部屋の空気が少しだけ緊張しているのを感じた。
「はい! 私はアルカ・ルーベストと言います! この方が道端で倒れていたので、ここまで運んで来ました! ここまで来る道中で色々話は聞きました。大変だったようですね」
ハキハキとした声。
どこか眩しすぎて、俺は視線を落とした。
(……いや、大変だったのは、ここに来るまでの道中の方だ)
通行人の視線、杖の消失、そして──
何よりも、アルカのとんでもない方向音痴。
まっすぐ家に向かってるはずが、三度も道を曲がり間違えたあげく、同じ橋を二回渡ったのには正直ゾッとした。
(……いや、感謝はしてるんだけど限度があるでしょ)
とはいえ、助けてくれた相手に愚痴をこぼすわけにもいかない。
「……」
おじさんは黙ったまま、どこか遠い目をしている。
俺は訝しげにその様子を見ていたが──次の瞬間、
「……おじさん? どうしたの?」
「……………………ええええええええええっ!?」
「うわっ!」
いきなりの大声。
おじさんは椅子から転げ落ち、頭をごつんと打った。
(ビックリした……)
さすがの俺も、心臓が跳ね上がった。
「大丈夫ですか、おじ様!?」
「ああ、うん……ああ、大丈夫よ? え? 何?」
おじさんは混乱しながら立ち上がり、アルカの問いかけに対して、逆に問い返している。
何をそんなに取り乱しているのか、俺にもさっぱり分からなかった。
「何って……それはこちらのセリフなのですが」
アルカは少し困ったように微笑んだ。
(この方たち、血は繋がっていないとは聞いていましたけど……言動はよく似ていらっしゃいますね)
思わず納得してしまうような、静かな感想だった。
おじさんは姿勢を整え、椅子に座り直す。
何事もなかったような態度に戻っていたけれど、その目だけは冴えていた。
「それで、アルカ・ルーベスト……と言ったな」
名を確認するように繰り返す。
おじさんは態度をスっと変え、まるで何事も無かったかのように話を始めた。
思っていても、口には出さない。
「はい!」
「……カース、ちょっと来なさい」
杖は灰になった。
自力で歩けるほどの体力もない。
そのことを踏まえたうえでの、静かな沈黙。
手招きされるも現在俺は椅子に座っており、動く事が出来ない。それをおじさんに伝えると──
「…………なら、俺が連れて行く。アルカ・ルーベスト殿」
殿? どうしたんだおじさん。
「ちょっと二人で会話してくるから、少しだけ待っていてほしい」
「あ、はい! 全然大丈夫ですよ!」
「感謝します」
(……敬語二連続。何があったんだおじさん!)
何かがおかしい──そう感じながら、俺はおじさんに支えられて別室へと向かった。
---
案内されたのは、家の裏にある古い牛小屋だった。
天井は低く、埃の匂いが鼻につく。
床には干からびた藁が散らばり、昔のフンの痕跡がまだ残っていた。
牛はもういない。
俺が、この手で灰にしてしまったからだ。
あれ以来、おじさんは牛を飼おうとしなかった。
きっと、俺に気を遣ってのことだ。
……包帯に染み付いた臭いの正体も、多分ここだと思う。
そんな場所に、俺たちは入った。
おじさんは扉を閉め、鍵こそかけなかったものの、確実に“二人だけ”の空間が作られた。
そして重い沈黙が流れる。
「カース。よく聞け」
「なに、その深刻そうな顔して……とうとうボケた?」
冗談のつもりだったが、おじさんの顔は変わらない。
「それならまだいいんだが」
(良くはないと思うけど……)
いつもなら、この手の軽口に呆れながら付き合ってくれるのに。
今日は違った。
その目に、冗談の色はなかった。
「……真剣な話、なんだね?」
「……ああ。彼女だが、アルカ・ルーベストと言っていただろう」
「うん」
「ルーベストという名に聞き覚えはないか?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
(……ルーベスト)
確かに、聞いたことがある。気のせいじゃない。
でも、どこで? いつ?
どうしても、思い出せない。
名前だけが、耳の奥にこびりついているのに──意味が繋がらない。
「『ルーベスト』は……お前の両親の家名だ」
「……え」
おじさんはそう言って、静かに頭を抱えた。
その仕草はいつもの大げさなものじゃなくて、
本気で困っている大人の、それだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
普段レイスはカースの前ではクールを決め込んでいます。
決して口には出さないですが、カースを我が子のように思っているからです。
もし続きが気になるなと少しでも思って頂けたら、ブクマや評価、感想、リアクションお願いします!
有料じゃありません!無料なら押しちゃいましょう!
お願いします!それではでは次回!