02. 変人と出会い、世界が少し動いた日
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レイス家は、はっきり言って貧乏だった。
薪を割り、火を起こし、ようやく食事と風呂にありつける。
どれもこの過程が必要だ。
そんな生活のなか、おじさんは口癖のように言う。
「……俺は昔、伝説の魔法使いでな」
初めの頃は真剣に聞いていた。
だが、それが毎年、誕生日のたびに語られる。
「俺は昔──」
「うん、それ聞いた」
このやり取りが、十年続き──
◆
そして現在──。
杖を買い終えた俺は、車椅子生活から“杖使い”へとジョブチェンジを果たした。
……まあ、魔力ゼロのただの木の棒だけど。
「これでもう車椅子は必要ないか……」
感動して泣きそうになるも、包帯が涙を吸収してしまう。
頻繁に取り替えられるものじゃない。
匂いもあるし、黄ばみもする。
風呂に入れない生活がそうさせる。水をかけるか、ドラム缶風呂で包帯ごと浸かるくらいしか手段がない。
「……これ、もう要らないな……すみません」
ここで引き取って貰えないだろうか、そう思っての事だった。
「あ、はい? なんでしょうか?」
「この車椅子、もう必要なさそうなんで……引き取ってもらえませんか?」
「えっと……」
受付のお姉さんは、明らかに顔を曇らせた。
ボロボロの上に、全身包帯男が使っていた車椅子だ。無理もない。
「すみません、無理ですよね」
「申し訳ありません……」
お姉さんは悪くない。こんなもの誰が見ても買い取りたいとは思わないだろう。
「あ、そのいえ大丈夫です!……えっと!壊すんで!」
「えっ!?」
俺はその場で車椅子を破壊した。
正確には、″灰″にした。
俺は女が苦手だ。話していると、異常な程心拍が上がり、自分の意思とは違う行動に出てしまう。
「……今の何……?」
受付のお姉さんが目を丸くしている。
「あ、えっと! すみません! また来ます!」
(やっちまった……包帯を外すなって、あれほど──)
◆
「カース」
「なに、おじさん」
「お前のその包帯、決して他人の前で外すんじゃないぞ」
「うん……分かってる」
「その力は、他人を不幸にする力だ」
「知ってる」
(不幸なんて言葉で終わらない事も)
「……ただ、一つだけ、例外がある」
「知って……例外?」
「守りたいと、そう思った時は──余すこと無く存分に使え」
◆
包帯は、俺の醜さを隠すためでもあるが、
一方で、力を制御するための拘束具でもある。
包帯越しなら、何も起きない。
けれど素肌が何かに触れれば、それは──灰になる。
昔、おじさんの家で飼っていた牛がいた。
触感がほしくて、包帯を外し、直接触れてしまった。
その瞬間、牛は灰と化した。
おじさんがそれを見たとき、俺は怒られると思った。
けれど、怒るどころか、俺を抱きしめてこう言った。
「……すまん」
引き取られて三日も経っていない頃だった。
その一言の意味が、当時は分からなかった。
けれど、今は分かる。
おじさんは、俺の唯一の理解者だったのだと。
──そして、俺は、またやってしまった。
右手の包帯を外し、車椅子を破壊した。
灰にしてしまった。
「まずいまずいまずい!!」
急いで店を飛び出した。
さっきまで物珍しそうに見ていた者達の視線が、今は明らかに恐怖に変わっていた。
(おじさんに……怒られる……!)
買ったばかりの杖に体重をかけ、急ぎ足でレイスの家へ向かう。
ところが──
「あっ」
杖が灰になった。
俺はそのまま前のめりに倒れ、盛大に地面とキスをした。
「くっそ……なんで……あっ」
さっき右手の包帯を外したせいで、巻き直しが甘くなっていた。その為俺は杖を灰にしてしまい、躓いた。
地面に突っ伏したまま動けない。
(マズい。これは本当にマズい)
車椅子も杖も無い。俺は支える物が無ければ一人で動く事すらままならない。地面に倒れでもしたらそれはもう致命的である。自力で起き上がれない。
それが俺の体だ。
「だれか……ダズゲデ……」
情けなく助けを求めたが、通行人は誰も見て見ぬフリだった。
(……そりゃそうだよな)
全身黄ばんだ包帯、風呂にも入っていない。
そんな奴を助けたいと思う人なんて、いるはずが──
「──あの、大丈夫ですか?」
「べ?」
地面と密着した姿勢で答える俺。
「もしかして動けないんですか?」
「ゾウデス」
「……象?」
(ちげぇ!)
「ダズゲデ……ヴゴゲバゼン……」
「あ、なるほど! やっぱり動けないんですね! 分かりました、すぐ起こしますね!
……あれ? でも動けない人って、仰向けと……うつ伏せ、どっちがいいんでしょう?」
(とりあえず何でもいいから起こしてくれ!!)
悲痛な叫びだった。
「ダズゲデ……」
「あ、はいっ! とりあえず仰向けにしますね!」
彼女に支えられ、俺はようやく視界を上げた。
空が青く、雲ひとつない晴れだった。
「助けてくれて、ありがとう……」
(まだ仰向けになっただけだけど)
「いえいえ! 困ってる人を助けるのは当然ですから!」
俺を助けてくれたのは、同い年くらいの、銀髪ローブの美少女だった。
(……可愛い)
仰向けで空を見る俺を覗き込むその姿についそんな事を思ってしまった。
(そうだ!しっかりお礼の言葉を言わなければ!)
「あ、えっと、その……ああええ……なに?」
「はい? 私、何か言いました?」
(またやってしまった……女の前ではいつもこうだ……)
「……あの、もし良ければですが、手をお取りしましょうか?」
彼女が俺の“右手”に触れようとした瞬間──
「ダメだ!」
「──っ!?」
「あっ、いや、その……触れたら……君が不幸になる」
つい怒鳴ってしまった。
本当は不幸なんてレベルじゃ済まない。
でも、美少女を前にした俺は、なぜか格好をつけたくなってしまった。
いや、違う。
触れたら灰になるなんて言って、怖がらせたくなかった。
「不幸……?」
彼女は少し考え込んだあと、こう言った。
「……じゃあ、左手にしましょう! それなら大丈夫ですよね!」
「……あ、ああ」
彼女はそう言って、左手を取ってくれた。
「ありがとう……その……」
「失礼しました! 名前ですよね! 私はアルカです、アルカ・ルーベストです!」
彼女は身なりを整えそう名乗る。
(ルーベスト……どこかで聞いた気が……)
「……俺はカース」
「……以上、ですか?」
「……あ、ああ。俺は早くに両親を亡くして、引き取られたから……あまり名乗る家が無くて」
おじさんの家名ハウスト。
使いたくないのは、嫌いだからじゃない。
迷惑をかけたくない。ただ、それだけだ。
それを察したのか、彼女──アルカは微笑んだ。
「カースさんですね! では、カースさん!」
「あ! はいっ! 何用でありましょうか!」
(また変な口調に……!)
「一人では帰れなさそうなので、肩をお貸ししますね! 家はどちらですか?」
「……え」
驚いた。
今まで、誰ひとりとして俺を助けようなんて思わなかったのに──
この全身包帯の男を、彼女は迷いなく支えようとしてくれる。
「……やめておいたほうがいい。俺、臭うから」
「……確かに、ちょっと臭いますね!」
(この子、はっきり言うな……)
「でも、それでも。困ってる人を見て見ぬフリなんて、私にはできません!」
「……そ、そうか」
正直動けない以上、彼女の助けが無ければ帰ることも出来ないのも間違いない。
なら有難くその申し出を受けよう。
「……その、なら頼む」
「はいっ!」
戸惑いながらも、俺は彼女の肩を借り、家の方向を伝えた。
……彼女は、すごくいい匂いがした。
「あ、そっちじゃない」
「え? あっ、こっちですね!」
「いや、だからこっちだって!」
「知ってますって! こっちですよね!」
「だから違うって!」
「……こっち、でしょ?」
「だから違──」
──俺の恩人は、どうやら変人だったようだ。
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今回は、運命の出会いを果たした回でした!
アルカ・ルーベスト。彼女は一体何者なのか!
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