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0.1 触れたもの全てを灰にする病(呪い)

引き続きご覧頂きありがとうございます!

カース。彼の物語の始まりです。


どうぞよろしく願いします!



 幼いころの記憶は、ひどくぼやけている。

 けれど、あの日の両親の声だけは、今でも耳の奥に焼き付いて離れない。


「どうする? 俺たちの息子は……呪われた子だ」


「どうするって……どうしようもないわよ!これじゃまるで──」


「それだけは言うんじゃない……それはこの子の存在を否定する言葉だ」


 怒号とすすり泣きが、暗い部屋に響く。

 その中で、包帯にくるまれた“赤子”──それが、俺だった。


 生まれたばかりの我が子は、人間とは思えないほどおぞましかった。

 皮膚は爛れ、骨は変形し、体中からじわじわと黒煙のような何かが漏れていたという。


「奴のせいかもしれない……俺が足を引っ張ったせいで」


「……そうよ……あなたよ……あなたがあの人達の足を引っ張るから。

 だから……だから……あの方が今も必死に……」


 母親は既に限界だった。

 父親は何とか支えようとしていたが、目の奥には恐怖が見えた。


 そのとき──


 ガチャリ、と玄関の扉が開く音がした。


「俺が行こう」


 現れたのは、隣に住む中年の男だった。

 両親とは顔見知り程度の間柄だったが、ためらいもなく彼は赤子を抱き上げた。


「お前たちじゃ埒が明かない。俺が医者に連れていく。待っていろ」


 そして、包帯ごと赤子である俺を抱えて、彼は町の外れにある診療所へ向かったという──。



「……これは、原因が分かりません」


 診察を終えた医者は、重い口を開いた。


「お父さん──」


「違う。俺は親じゃない」


「あ、その……失礼しました」


 男は髭を生やし無愛想な顔。それ故、医者も怯えた表情を見せた。


「分からないとはなんだ」


 男は表情一つ変える事なく問う。

 

 「……この子には、現在の医療では手が出せません。仮に何か方法があったとしても、完治するものではないでしょう」


「理由は?」


「検査が……できないのです」


 医者の顔色が、わずかに陰った。


「注射を試みましたが、針が触れた瞬間……灰になりました。

 心音を確認しようと聴診器を当てたのですが──」


 そこまで語った医者は、自身の左腕の袖をまくる。

 そこには、手首から先が丸ごと消えた空白があった。


「私の腕が、一瞬で灰と化したのです」


「……っ」


 男は目を見開いた。


「咄嗟に聴診器を手放しました。反応が早かったから、片腕だけで済んだから良かったものの……もし間に合わなければ、今頃私はここにいない事でしょう」


 男は黙って聞いていた。

 やがて、医者に頭を下げる。


「分かった。助かった。あと、悪かったな」


 そう言って男は、包帯にくるまれた赤子──カースを抱き直す。


 そして、診療所の扉に手をかけた、そのとき。


「……お待ちください」


 医者の声が、静かに背後から響いた。


「なんだ」


「原因は分かりません。ですが──分かったことが一つだけあります」


「……聞こう」


「この子の心臓から、常人とは異なる“力”を感じます。

 例えこの子のそれが病であったとしても……それは、単なる肉体的な異常ではない。

 あえて言うなら、それは“魔力”に近い、けれど決して魔法ではない……」


 医者の眼差しが、どこか遠くを見つめる。


「……医者である私が正しく診断し、言葉に出来ないのがもどかしいですが……この子は、生まれながらにして──“何か”を宿している。そうとしか、言いようがないのです」


 しばらくの沈黙のあと、男は小さく呟いた。


「……そうか。それが聞けてよかった」


 男は赤子を抱え、ゆっくりとその場を後にした。


 そして、医者はその背中を見送りながら、心の中でこう呟いた。


(……あれは、まさか……英雄《破邪の使い》──なぜ彼が、こんな田舎に……?)


 その五年後、俺の両親は亡くなった。

 心中だったらしい。


 それが、俺──カースと男レイスの出会いの始まりだった。


 ◆


「……お前、一人になったんだってな」


「うん」


「かわいそうに。あんな勝手な親……育児放棄もいいとこだ」


 男の名は、レイス・ハウスト。

 かつて“魔導具の使い手”として名を馳せた(と自称する)隠居の男だ。


 両親を失った俺は、彼に引き取られることになった。


「……ウチに来るか?」


「……うん」


 その時の俺には、断る理由もなかった。

 行くあても、生きていく手段もなかったのだから。


 それに目的も。



 あれから、十年が経った。


 俺は今でも、包帯を巻いている。

 この原因不明の病が何故俺を選んだのかは分からない。

 そもそも病なのかすら……。


 けれど、ひとつだけ分かったことがある。

 それは──包帯だけが、俺の体に触れても灰にならないということだ。


 それ以来、俺の体はずっとこの白い布で覆われたまま。

 包帯がなければ、俺は誰かに触れることすら許されない。


 素肌は爛れ、見るに堪えない。

 皮膚の下からは、今もじわじわと“黒い霧”のようなものがにじんでいる。

 

 目が合えば、誰もが顔を背ける。

 それが、俺という存在だった。



「……あの」


「ひゃっ!?」


「あ、驚かせてすみません。実は、杖を探していて……」


「……あ。お客様ですね! 大変失礼しました! どのような杖をお探しでしょうか?」


 俺がやってきたのは、冒険者たちが集う、魔法の杖専門店だった。


「えっと……とりあえず、歩ければ何でもいいです」


「……となりますと、魔法職ではなく──」


「はい。見ての通りです」


 俺は魔法が使えない。

 欲しいのは、戦うための武器でも、魔力を込める道具でもない。

 

 ただ、歩くための、丈夫な杖がひとつあればそれでいい。


 受付の女性は戸惑っていた。

 当然だろう。ここは魔術師専門の店だ。

 

 辺りを見渡せば、ローブを着た者、とんがり帽子の者──いかにも“選ばれし者”といった連中ばかりだ。


 そんな中俺は木製の車椅子に座り、全身を包帯で巻かれている。誰がどう見ても明らかに場違いだった。

 

 全員の視線が、痛いほど突き刺さってくる。


「……あれ、なんだ?」

「多分、病気なんだろ」

「にしても、全身包帯はやばくね?」

「いや、俺が知るかよ……」


 ささやき声が、店内のあちこちから聞こえてくる。

 でも──そんなものには、もう慣れていた。


 俺にとってその言葉は、もうナイフにすらならない。


 しばらくして、受付の女性が戻ってきた。


「こちらでよろしいでしょうか?」


「はい。ありがとうございます」


「……本当に、こちらで……?」


 恐らくお姉さんは、こんな棒切れで……?

 と言いたいのだろう。だが仕方ない。なんせ──


「魔力なんて、俺にはありませんから」


「……かしこまりました」


 そうして俺は、最も安く、最も飾り気のない一本の杖を手にした。


「ありがとうございました!」


「……あ、ひゃいまた来ます!」


 そう言ったあとで、俺は少しだけ後悔した。

 来る予定なんてないのに、“また来ます”だなんて。


 (また恥をかいた……)


 俺は女が苦手だ。

 これまでの人生で、女性と接した時間なんて、ほとんどなかった。


 微かに覚えているのは、母の姿だ。

 けれど──その母は、もうこの世にいない。


 原因は、俺だ。


 “病魔”として生まれた俺を恐れ、母は父と心中した。

 その事実が、俺の人生のすべてを変えてしまった。


 ──たった一度の接触で、誰かを灰に変えてしまう。


 だから俺は、誰にも触れられないし、俺から触れようとも思わない。


 そうして俺は今日、包帯を巻いた手で杖を握る。


 その後、ある少女と出会うとも知らずに──。

最後までご覧頂きありがとうございました!


カースは初対面の女性が苦手です。

これは人気のない田舎そだちの為です。


ちょっとお茶目なカースくんでした。


次回は少女との出会いの回です!


続きが気になると思って頂けた方はぜひ、ブクマ、評価、感想で応援よろしくお願いします。

投稿頻度に繋がります!!

では次回!

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『この手は全てを灰にする〜君に触れる為なら俺は呪われた力でさえ利用する〜』

誰にも触れられず、孤独を生きてきた少年カース。
その手が初めて誰かのために動く物語。

少しでも心を動かされた方は、
★★★★★評価ブックマークをぜひお願いします。


感想・レビューも大歓迎です。
あなたの声が、次の一歩を照らしてくれます。

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