0.9 拒絶と遺された名
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お互いに見つめ合ったまま、動けなかった。
正確に言えば──動こうとしても、体が拒絶していた。
恐怖か、それとも気まずさか。
いや、多分そのどちらもだろう。
あれだけのことが起きた後だ。何をどう言えばいいかなんて、すぐには浮かばなかった。
「……あの」
震える声で、アルカがようやく口を開いた。
その声には、確かに怯えと、ほんの少しの勇気が滲んでいた。
「……なんだ」
「助けて頂いて……ありがとうございます」
「ああ」
その一言に、何を込めたらいいのか分からなかった。
俺は何を考えていたのだろう。
嫌われるかもしれない──そう感じていたのかもしれない。
(……それは、嫌だな)
すでにギルドは半壊し、幸いにも──いや、皮肉にもここには俺とアルカの二人しかいない。
つまり、あの力を見たのは──彼女だけだ。
「冒険者……楽しかったよ。こんな俺でも、生きてて初めて“希望”ってやつが見えた」
けど、同時に“絶望”も突きつけられた。
「だからもう……君は、俺と関わるな」
その言葉は、俺自身への“決別”でもあった。
もう誰も不幸にしたくない。それが今の、心からの願いだった。
「じゃあな」
そう言って俺は、ゆっくりと包帯を巻き直す。
右手を隠すこの作業が、まるで“儀式”のように思えた。
そして、杖を突き、歩き出す。
来た道を辿るように。
(……おじさんに怒られるだろうか)
でも、それでもいい。
俺がいるだけで、あの子を──いや、誰かを不幸にする。
アルカだけじゃない。カイルも──彼もその一人だった。
すべて、俺のせいだ。
俺の、呪いの力のせいだ。
──俺さえいなければ、誰も死なずに済んだかもしれない。
「待ってください」
背にかけられた声は、どこか震えていた。
それでも強くあろうとする意志が、にじんでいた。
だけど俺は振り向かない。
ここで立ち止まってしまえば──また夢を、希望を、抱いてしまいそうだった。
それはダメだ。
俺のせいで、これ以上誰かが死ぬのはもう……ごめんだ。
「その力」
「……俺が怖いだろ。自分でもそう思ってる」
前を向いたまま、俺は答える。
「……いいえ。怖くなんて、ありません」
その言葉に嘘はなかったのかもしれない。
でも──
(声が震えてる。心臓の音だって聞こえてくる)
きっと、彼女自身にも分からないのだ。
“怖い”と“それでも”の間に立っている、その自分の気持ちが。
「確かに……怖かった。おぞましいとも思った。けど、それは“あなた”じゃありません、カースさん。……あなたの“力”です」
「…………世辞はいい」
気休めだと思った。そうでなきゃ、あんなものを見て笑っていられるはずがない。
「違います!私は本気です!」
その一言に、力がこもっていた。
泣きそうな顔で、それでもまっすぐ俺を見ていた。
……だからこそ、厄介だと思った。
「待って──」
「やめろッ!」
近づこうとしたアルカの手を、思わず払いのけた。
それでも、彼女は──止まらなかった。
「そうやって突き放して……あなたは、また一人で傷ついて生きていくんですか?」
「……」
「あなたが傷つくのを見て、苦しむ人が居ること。
それを……忘れないで下さい。
あなたのおじ様だけじゃ、ありません。
私も──その一人です」
「君が? 何故?」
今日、会ったばかりの相手がどうして。
俺に何の価値があるというんだ。
「まだ冒険は始まっていません!……それに、私の魔法。まだ見せていませんから!」
「魔法、か……。俺のこの力を見て、まだそんなこと言えるのなら──お前は、まだまだ甘いな」
「……どういう意味ですか?」
「魔法なんて概念、俺には通じない。
そもそも魔法が使えない俺に、見せてどうするってんだ。俺はただ──」
「そこまでです、お二方!」
「──ッ!?」
鋭い声が割り込んできた。
反射的に振り返ると、そこには──
金髪をまとめた、見覚えのある女性の姿があった。
「……ギルドのお姉さん?」
「なんで……あなたがここに? まさか……見ましたか。俺の、姿を」
心臓が跳ねた。
鼓動が、喉まで響いてくる。
(見られた……俺の、“あの姿”を)
「……念のため申し上げますと──ゴホン。見ました」
「……言う必要あります?」
「ええ、疑われても困りますので。ここはハッキリさせておかないと」
ため息が出た。
「どこから……?」
「全部です」
「マジか」
「マジです。ただ、映像だけで音までは届いてませんので。そこはセーフ……ということで」
(……セーフじゃねぇだろ)
「……はぁ」
「なぜそんなに落ち込むのです? あなたは、この街を救った英雄ですよ?」
「……英雄なんかじゃない。これは俺が……いや、何でもない」
言いかけて、飲み込む。
──俺が“呼び寄せた”んじゃないか。
そう言った黒龍の言葉が、胸の奥に残っていた。
「じゃあな」
再び歩き出す。
決意と後悔を胸に抱えながら。
「だから待ってください! カースさん!!
……バカ! わからず屋! 世間知らず!……えっと、バカ!」
(2回目な……)
思わず、口の端がわずかに緩む。
でも──足は止めない。
止めたらきっと、もう前に進めなくなる。
「お待ち下さい、冒険者カース様」
「……まだ何かあるんですか。俺の考えは変わりません。
それと──このことは誰にも言わないでください。他に知られれば、誰かに害が及ぶかもしれませんから」
「カース様。こちらを」
差し出されたのは、一冊の分厚い──“日記”のようなものだった。
「……これって、日記?」
「はい。黒龍を倒した“あなた”にこそ、見てほしいんです」
「俺に? ……どうして」
俺は渋々、開かれた一ページ目を覗き込む。
『愛する私の娘、エリスへ。
これを見つけたということは、私はもうこの世にいないのでしょう。
でも、それは私が選んだ道。
だからあなたは、この記録を読み、探しなさい──
“強者”を』
「一ページ目から、だいぶ重いな……」
「間違っていませんよ」
「いや、そうじゃなくて──」
目の前の受付嬢──その表情が、急に変わった。
「私の名は、エリス・ハウスト。
このギルドの“現ギルド長”。
そして、母であり前ギルド長だった、エリアス・ハウストの娘です。
これは“あなただからこそ”見てほしい記録です」
「…………ハウスト……?」
その名前が、頭の奥で反響した。
聞き覚えがある。どこかで……いや、ずっと、俺の近くにあった名だ。
(……まさか、そんな……)
思考が止まった。
心臓の音が、一瞬だけ消えたように思えた。
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