0.8 包帯の下、呪われた力と失われし命(後編)
いつもご覧頂きありがとうございます!
本編の前にまだブクマや評価をされてない方はどうぞポチッとしてやってください!
無料で作者のモチベを上げるチャンスです!
黒龍の瞳孔は、まるで照準のように俺の動きを追っていた。
アルカではない。逃げ惑う市民たちでもない。
この、包帯だらけで病弱な──“俺”を。
鼓動がうるさい。
耳の奥で、ドクドクと暴れるように響いている。
けれど、それすらも、咆哮に掻き消されていく。
(動け……動け……)
俺はアルカを抱えたまま、ぐらつく脚でギルドの奥へと走った。
ギルドの片隅、崩れかけた石壁の裏。
ここも、安全とは言いがたい。
けれど、少なくとも──黒龍の視界からは外れている。
倒れ込むようにして、彼女をそこへ横たえた。
「ごめんな……少しだけ、ここにいてくれ」
起きる気配はない。
気絶したまま、かすかに胸が上下しているだけ。
恐らくパニックに陥ったんだろう。無理もない。
これから依頼を受けようとしていた時に突然、
人類が勝てる存在では無いレベルの奴が現れたんだ。
彼女の額に、汗がにじんでいた。
その顔が、怖くなるほど、穏やかで。
(良かった……今から起こることはなるべく君には……見せたくなかったから。そのまま少しだけ眠っていてくれ)
何故こんな事になってしまったのか。
誰が悪い訳でもない。
こんな結末を求めたわけでもない。
ただ生まれた時から、俺は“そういう運命”だっただけだ。
俺が居るだけで他者を不幸にする。
(……そんな事分かってた事じゃないか)
俺は立ち上がる。
膝が笑っていた。
杖に体重を預けながら、少しずつ、足を前に出していく。
そして──黒龍の前へ。
その咆哮は、止んでいた。 それは俺を待っていたかのように、不気味な程静かに居座っていた。顔だけを出して。
けれど空気が重い。そいつが存在するだけで、まるで水の中を歩いているみたいに、足が鉛のように重たい。
『オマエ……オレノコトバ、ワカルカ』
言葉が、“声”ではなく“意識”として脳に刺さる。
「……分かるよ」
自然に、口が動いた。
返事をしている自分に、吐き気がするほど戸惑いながら。
「……何しに来た」
『コエガ、キコエタ』
声──
誰かの“命令”か?
「誰の声だ。……誰が、お前をここへ呼んだんだ」
『シラナイ。タダ、ウルサイ。……オマエヲコロセト』
脳の奥が疼く。
明らかに“正常”じゃない。これは言語じゃない
何故俺が理解出来ているのかも分からない。
そんな俺も正常じゃない。
「で、さっきの男……カイルさんを殺したのも煩いってのが理由か?」
『ウルサイ。ジャマダッタ』
(たったそれだけの理由で──あんなにも良い人が……)
喉の奥が焼けつくようだった。
怒りか、恐怖か。
あるいは、両方か。
「……俺を殺す理由は、それも“邪魔”だからか?」
『チガウ。オマエ、キケン。……オマエ、ニオウ。マエノモノ、トオナジ』
「前……?」
『コロセナカッタ、モノ。オマエ、アレトオナジニオイ』
(“殺せなかった”……?それを俺と同じだと)
黒龍は、“俺”を恐れている。その感情が伝わってくる。
まるで“獣”のように、直感で危険を感じているのだ。
それでも──殺さなければならないと、思い込んでいる俺がいる。
『コロセ、コロセ、ウルサイ……アタマ、ヤブレソウ』
「……じゃあ、俺が何者かなんてどうでもいいんだな。お前にとっては、俺もカイルもただの“ノイズ”って事か」
『……オマエ、シズメバ、オレハラクニナル』
「……楽になりたいんだな、それが答えか」
喉の奥で、笑いがこぼれた。
情けないほどに乾いた笑いだった。
(俺は──生きてるだけで、誰かを苦しめる存在)
昔から、そうだった。
両親には捨てられ、こんな見た目で友達なんてできるはずもない。
そんな俺を救ってくれたのがおじさんだ。
俺の大切な家族同然の人。
『──守る為に使え』
不幸にするこの力を″守る為″に。
そう教えてくれたのはあなただ、レイスおじさん。
そんなのいつ起きるか、正直話半分に聞いていた。
でも──
「今は、俺が誰かを守ってる」
ふと、壁の向こうで眠るアルカの顔が、頭をよぎった。
「……守る為なら」
俺は、右手に巻かれた包帯を握る。
ギリ、と力がこもる。
(使いたくなかった。二度と──こんな力)
けれど──今だけは。
「……ごめん、おじさん。
今回は使わせてもらう。だってこれは──」
誰かを守るためだから。
ギュッ……と包帯をほどいた。
腐った肉のようにただれた皮膚。
血管の色も見えない、くすんだ肌からは黒い瘴気が微かに滲み出ている。
それは“呪い”そのものだった。
『……ナ、ナンダ、コレ……』
黒龍が、明らかに怯えていた。
ブレスを溜めていた口が、わずかに震え、
喉が、ひゅう、と音を漏らす。
俺は、歩を進める。
ゆっくりと。確実に。
黒龍は動かなかった。
そして──触れた。
黒龍の頬に、俺の右手がそっと触れる。
……瞬間。
黒龍の鱗が剥がれ、皮膚が崩れ、
肉が、骨が、“灰”になって風に舞っていく。
抵抗すらしなかった。
いや──できなかった。
『……ココマデト……オモワナカッタ……アトハ、シラナイ……ヨブ……ヨビヨセル……』
「……呼び寄せる? 何を言って──」
けれど、もう遅かった。
俺が問い返す前に黒龍は、完全に崩壊した。
音もなく、漆黒の巨体は灰になり風に溶けていった。
──その静けさを破ったのは、かすかな声だった。
「…………あの力は……いったい……」
「──ッ」
振り返ると眠っていたはずのアルカが、立っていた。
震える足で、石壁の裏から、よろよろと。
そして、俺の右手を──その“呪い”を、見ていた。
何も言わなかった。
ただ、見ることしかできなかった。
その目には恐怖と──
それでも、どこか拭いきれない“感情”が、確かに宿っていた事に俺は気付いていた。
(……見られてしまった)
最後までご覧頂きありがとうございます!
もし続きが気になるなと少しでも思って頂けたら、ブクマや評価、感想、リアクションお願いします!




