第二話
星羽と一緒に食べたあの晩飯以降、灰色だった俺の人生が少しずつ色づいていくようになり、ただの隣人かつクラスメイトだった俺と星羽の関係にも少しずつだが、変化が訪れていた。
今日は休日ということもあり、マンションから少し離れたモールに初めて来てみた。だが、流石にこの人混みは精神的に参る…。人混みに揉まれながら数分間、流れるままやっと人ごみを抜けたと安堵していたところで、背伸びをして物を取ろうとする星羽を見つけた。
「あれ、星羽?」
星羽は俺の声に気づき、振り返った。
「……黒崎くん」
彼女は小さく頷きながら、手を伸ばして取ろうとしていた商品を指差した。高い位置にある棚から小さな箱を取り出して、彼女に手渡した。
「これ、探してたの?」
「……うん。ありがとう」
星羽は物静かに答えた。彼女の顔には小さな笑みが浮かんでいた。なんとなく照れ臭くなって、俺は視線を逸らした。
「それにしても、こんなところで会うなんて偶然だな」
「……買い物、しに来た」
「そうか。俺は家で毎日ダラダラするのもなって思って、一回ここに来たかったからって感じ」
俺たちは自然と並んで歩き始めた。モールの中を歩きながら、店のウィンドウを眺めたり、小さな雑貨を見たりして過ごした。
「ねぇ……黒崎くん、今日も……お邪魔してもいい?」
星羽が不意にそう尋ねてきた。彼女の大きな瞳が俺をじっと見つめる。
「ん? ああ、もちろん」
その後、俺たちはカフェに立ち寄り、ゆっくりとお茶を楽しむことにした。星羽は紅茶を頼み、俺はコーヒーを注文した。二人でカフェの窓際の席に座り、外の景色を眺めながら穏やかな時間を過ごした。
「星羽、普段はどんなことをして過ごしてるの?」
「……本を読むことが多い。あとは、料理とか、散歩とか」
「料理か。だからこの間食べた晩御飯もあんなに美味しかったのか」
「……ほんと? リアクションがなかったから、あんまり美味しくなかったのかなって」
「人の手料理をあんまり食べたことなかったから、実家にいる時も弁当かカップ麺だったし、数年振りにあんな美味しい手料理食べて美味しいって言おうと思ったんだけど、美味し過ぎて言葉が詰まった」
星羽はその言葉を聞いて、頬を赤らめながら、小さく微笑んだ。
「……そう。なら、よかった」
星羽は少しだけ安堵したような表情を見せた。それが微笑ましくて、俺は続けた。
「そういえば、散歩ってどの辺りを歩いてるんだ?」
「……近くの公園とか、川沿いとか。静かな場所が好き」
「それ、いいね。俺もたまには散歩してみようかな」
「……一緒に、行く?」
彼女の誘いに驚きながらも、俺は頷いた。
「ああ、ぜひ」
カフェを出た後、俺たちは公園へと向かった。途中、星羽が小さな花を見つけて立ち止まり、それを優しく見つめていた。
「この花、好きなの?」
「……うん。小さくて、可愛い」
そんな星羽を見ていると、彼女の柔らかい一面が少しずつ見えてきて、ますます彼女のことを知りたくなった。
公園に着くと、静かなベンチに腰を下ろし、風に揺れる木々を眺めながら話を続けた。
「星羽、あれから毎日一緒に昼食食べてるけど、大丈夫か? 今までいた場所にいなくて」
彼女は少し考え込んだ後、静かに答えた。
「……大丈夫。黒崎くんと一緒にいる方が、落ち着くから」
その言葉に驚きながらも、嬉しさが込み上げてきた。俺たちの距離は、確実に縮まっているのだと感じた。
その日の帰り道、星羽との時間がますます大切になっていくことを確信しながら、彼女と並んで歩いた。