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第一話

 放課後の夕暮れ、いつものように学校からの帰り道を一人で歩いていた。俺、黒崎遥斗くろさき はるとは特に目立つ存在じゃない。日々を平凡に過ごしている高校生だ。そんな俺の日常が、その日から大きく変わることになるなんて、想像もしていなかった。


 アパートの鍵を開け、玄関をくぐる。狭い部屋だが、一人暮らしには十分だ。学校の鞄をソファに放り投げ、ため息をつく。


「今日は何を作ろうかな……」


 そんなことを考えながらキッチンに向かおうとしたその時、突然ドアベルが鳴った。誰かが訪ねてくるなんて珍しい。訝しげにドアを開けると、そこには隣の部屋に引っ越してきたばかりの美少女が立っていた。


「こんばんは。これ、作り過ぎたから……」


 星羽めぐる。物静かで、どこか掴みどころのない雰囲気を持つ彼女が、手にタッパーを持って立っていた。俺は驚きのあまり、しばらく彼女の顔を見つめていたが、すぐに我に返った。


「あ、ありがとう。えっと、どうぞ上がって?」


「……いいの?」


 星羽は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに無表情に戻り、俺の部屋に足を踏み入れた。彼女が入ると、狭い空間が急に違う世界になった気がした。


「ここ最近、コンビニ弁当ばっか食べてたから、作ってるご飯食べるの久しぶりで嬉しい」


「そう……」


 二人でテーブルに向かい、彼女が持ってきた食事を一緒に食べ始めた。星羽が作った料理は見た目も味も完璧で、俺は感心しながら箸を進めた。


「星羽は、なんでそれに引っ越してきたんだ?」


「親の仕事……忙しいから、あまり家にいない」


「そっか……お互いに色々と大変だな」


「……うん」


 その夜、俺たちは星羽が作ってくれた料理を味わいながら、俺は久しぶりに家庭の温かみを感じていた。こんなに美味しい料理を作れるなんて、彼女の見た目だけじゃなく、内面も凄いんだなと感心していた。


「美味しいよ、星羽。ありがとう」


「……良かった」


 短い返事だけど、その一言がとても嬉しかった。彼女の物静かで掴みどころのない雰囲気は、不思議と心地よい。


 食事が終わった後、星羽は静かに立ち上がり、片付けを始めた。俺も一緒に手伝おうとすると、彼女がふとこちらを見て口を開いた。


「……これからも、こうして一緒にご飯食べたい。……いい?」


 予想外の質問に一瞬戸惑ったが、すぐに笑顔で答えた。


「もちろん。むしろ、こんなに美味しいご飯を毎日食べられるなんて、願ったり叶ったりだよ」


「……ありがとう」


 星羽は微かに微笑んだ。その笑顔は、どこか儚げで、それでも温かかった。


 その後、星羽は自分の部屋に戻っていったが、部屋に残った彼女の香りと温かさが消えることはなかった。俺の生活に、彼女が少しずつ入り込んでくる予感がした。


 ---


 次の日、学校では特に大きな変化はなかったが、俺の心には小さな期待が芽生えていた。昼休みになり、俺はいつものように教室を出て屋上に続く扉の前に向かった。そこは人目を避けるには最適な場所で、俺のお気に入りの昼食スポットだ。


 いつものように弁当を広げ、静かに食べ始める。周囲の喧騒から離れ、一人の時間を楽しんでいると、ふと足音が聞こえた。顔を上げると、そこには星羽が立っていた。


「……ここ、いい?」


「もちろん、どうぞ」


 彼女が隣に座ると、周囲の喧騒が遠ざかり、静かな時間が流れ始めた。星羽は自分の弁当を広げ、黙々と食べ始める。


「昨日の星羽が持ってきてくれた晩御飯、美味しかったよ。ありがとう」


「……良かった」


 短い返事だけど、その一言がとても嬉しかった。彼女の物静かで掴みどころのない雰囲気は、不思議と心地よい。


 二人で黙々と食事をする中で、俺たちの距離は少しずつ縮まっていった。他のクラスメイトには気づかれないように、静かに、しかし確実に。


 昼休みが終わる頃、星羽がふと口を開いた。


「……また、一緒にご飯、食べてくれる?」


「もちろん」


 彼女は微かに微笑んだ。その笑顔は、どこか儚げで、それでも温かかった。


 ---


 続く日々、星羽との食事や学校での交流が増え、彼女の物静かで掴みどころのない魅力にどんどん惹かれていった。彼女がなぜ一人でいることが多いのか、なぜ俺の部屋に来るのか、その理由が少しずつ明らかになっていくのだろう。


 俺たちの物語は、まだ始まったばかりだ。

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