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【完結】異世界転生に滅亡フラグを添えて  作者: 焼砂ひあり
第一節 辺境事変
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-008- えびろーぐ?

 アニメア大陸中央に聳える峻険な山脈。


 その中央で一際威容を誇る巨大な山、ネーベル山。

 300年前に魔王を称する魔物が住み付き、以来大陸南部を支配する大国、アニメア聖神国と散発的な戦争を繰り返していた。


 巨大なネーベル山とその周辺には幾つもの洞穴が迷路のように張り巡らされ、魔王ダンジョンとして来るものを拒んでいる。


 その最奥、人類はまだ誰一人到達したことのないフロアで、外見は幼女にボンテージを着せて黒いマントを羽織らせたような恰好をしている自称魔王は、玉座に腰掛けて死にそうな顔で天井を眺めていた。


「……ケーニッヒが討たれたって、マジ?」

 呟きとも問いかけともとれるような小さな声。

 傍らに立つ燕尾服に身を包んだ牛頭の魔物が耳ざとくそれを聞きつけ反応を返す。


「……マジですよ。あの馬面骨野郎、なーにが起死回生の一手ですか。確かに王国を攻め滅ぼせれば当面聖神国からの圧力は減ったでしょうが、初手でしくじるなんてまさに四天王の面汚しですよ」

 辛辣な牛頭の言葉に魔王は同意しない。


「あ奴、魔王軍の最高戦力だぞ? 聖神国の侵攻までに戦力補填できなければかなりやばいんじゃ」

「ヤバいどころじゃないですよ。無理ですね」

 はは、っと肩を竦めながら笑い飛ばす牛頭。魔王は苛立ちにその幼い顔を若干歪めながら手に持つハリセンで牛頭をしばく。


「笑っとる場合か!」

 ズバンと気持ちいい音が大広間に響き渡るが、牛頭は笑い声をあげたままだ。


「笑うしかなーいじゃなーいですか。現有戦力の二割強を失ったんですよ? ここ二百年で一番の大攻勢が三年以内には来るであろうと予測されてる状況で。はぁ、魔王様どんまいです」

 軽い調子の牛頭に魔王は頭を抱える。


「うぅ、王国を扼すれば聖神国の補給を断てるし、上手くいけば移住先にももってこいだと承認した我が浅はかであったか。しかし、ケーニッヒに対抗できる戦力などどこにも前情報はなかったはずだが」


「それはそうですね。平和ボケした農業国ですし、内戦以外の戦争をしたこともない軍事的には大陸一の貧弱国家だったはずなんですがねぇ。それこそ【本物の】魔王でも湧いたとか?」


「やめてくれ。この三百年一番の危惧はそれだぞ! 本物なんか現れたら【勇者】まで呼び寄せるではないか! 『魔王とか名乗ってる輩がいるからついでに殺しちゃお☆』とか言われたらイチコロだぞ!」


「そんな頭湧いたようなセリフは言わないと思いますけど。寧ろ【本物の】魔王の方が気を悪くして攻めて来るかも?」


「どのみち破滅ではないか! ああ、胃が痛い!」

 血反吐でも吐きそうな顔で魔王がまた天を仰ぐ。


「それで、ローラ。実際ケーニッヒは何者にやられたのだ?」

 ローラと呼ばれた牛頭は困ったように首を傾げながら、


「今のところは本当に正体不明ですね。ケーニッヒを倒すとなると最低でも大魔導士クラスの戦力が必要になりますが、そもそも王国は魔導後進国ですしね。あの国の最高戦力は騎士姫とかいう脳筋令嬢くらいで、たかがはぐれのレッサードラゴン如きも単独討伐出来ないクソ雑魚ナメクジらしいので、負ける要素は無いんですが。王国軍全軍に囲まれてようやく互角くらいと見てたんですけどねー」


「精強な騎士団等の類であれば情報の秘匿にも限界があるから、大魔導士クラスの個の戦力を隠していたと考えるべきか。腐っても一国家ということかの」


「んー、でもそれだけの戦力があるなら聖神国に対してもう少し強気の政策をしていそうなものですけどねー。まあ、いずれにせよ隠し立てできる類の話ではないのでそのうち情報は流れてくると思いますよ。せめてその強力な戦力と同士討ちになっていて欲しいですね」


「ふん、希望的観測が過ぎるな。まあよい。起きてしまったことは仕様が無い。いかに悲観的な状況であろうと、最善次善の策を追求するのみよ。マルタとナータンを呼べ。緊急会議だ」


「はーい」

 ローラの気の抜けた返事に力が抜けるのを感じながら、魔王は小さくため息を吐いた。




 ◇◇◇◆◆◆



 一週間後。


「なあ、ローラ。我は緊急会議って言わなかったか? もう一週間経つんだが……」

 大広間に据え付けられた豪奢な椅子に腰かけたままの魔王は、隣に立つ牛頭を殺意の籠った眼差しで見つめる。


「いやですね、魔王様。そんなに目を吊り上げて可愛い顔が台無しですよ」

「別に可愛さなぞ求めとらんわ! 他の四天王はどこほっつき歩いてるんだ!」


「さて。何せこの大所帯の魔王軍で管理職が四人しかいなかったところで一人抜けましたからね。忙しいんじゃないですか?」

「ケーニッヒは自前の軍団以外管理しとらんかっただろう! あ奴がいなくなったからと言って増える仕事などあるか!」


「そう言われましてもねー。魔王様直々に呼びに行かれては?」

「我はここを動けないんだって知ってるだろ!」

「ぷりぷり怒る魔王様も可愛いですね。新境地です」

「いい加減に……」


 魔王がいよいよブチ切れそうになったタイミングで、大広間の巨大な扉が開いた。

 そこには漆黒の全身鎧と、半透明の体で宙を漂う露出多めな女がいた。


「四天王マルタ。魔王様に呼ばれて罷り越しました」

 半透明の女が魔王の前まで進み出て頭を下げる。


「同じく四天王ナータン。ただいま御前に到着いたしましたっす」

 漆黒の全身鎧もそれに続いた。


「……うぬら、我を待たせておいて謝罪も無しか?」

 怒りを湛えた魔王の声に、はてと首を傾げるマルタ。


「ローラからは本日この時間にと言づけられていましたが?」

「私もそう聞いていたっすけど」

 ナータンも同意する。


 魔王の怒りの籠った視線は隣の牛頭へ。牛の頭部でそっぽを向きながら器用に口笛を吹いているローラ。魔王は愛用のハリセンを取り出すと思い切りローラに叩きつけた。


「――ああ、いつも通りですか。ほどほどにしないと魔王様の眉間の皺が取れなくなってしまいますよローラ」

「茶目っ気もほどほどにするっすよ」


 他の四天王に窘められるローラだが、牛頭は地面にめり込んでいるため聞こえているかはナゾだ。


「まあ良い。集まってもらったのは他でもない、ケーニッヒと王国の件だ」

 魔王の言葉に頷く二人。


「現在近衛から対聖神国用の戦力を抽出中っす。とはいえ、ケーニッヒがいないと補充のあてが無いのでジリ貧っすね。ダンジョンのリポップだけでは限界があるっす」


「そのケーニッヒについての続報ですが、王国内では現在内乱の兆しがあり情報が錯綜しております。その中で騎士姫が討伐したという言説が主流ではありますが、あまり現実的ではないので、やはり秘匿する戦力があると見るべきかと。そもそも聖神国の後方を扼するという戦略目標が割れた時点で聖神国の方から戦力的なてこ入れが入ると見るべきです。内乱の件についても誘いでないとも限りませんし、これ以上王国に手を出すのは悪手でしょうね」


 ナータンから軍事の現状、マルタから諜報の報告を受け、魔王は唸る。


「元々これ以上王国に割り振る戦力など無いがな。まあ王国への侵攻を警戒していくらでも戦力をそちらに割いてもらえれば、まるきり無意味だったということも無いか」

 最高戦力を失った代償としてはあまりに小さい成果だが。


「王国の秘匿戦力については何か情報はあるか?」

「未確認ですが騎士姫のケーニッヒ討伐を補助した魔導士がいたとの情報はあります。更に未確認ですが、それが子供と言う噂も」

「子供か」


 基本的に魔導士の実力は年齢に比例すると言われている。経験を積むほどに精度と威力が増していき、肉体と違って加齢による衰えはない。無論判断能力などは落ちていくので総合的な戦力としては右肩上がりとはいかないが。


「対ケーニッヒで考えた時、剣士など百人いようが問題にならない。だとするとその魔導士は純粋にケーニッヒより実力が上と捉えるべきなのだが、それが子供?」

 本当であれば恐ろしい話である。


「それこそ本当の魔王なのでは?」

 ローラの疑問に魔王は首を振る。


「魔王にも程度はあるが、ケーニッヒを葬るほどの魔王が顕現したのなら、それこそ王国は滅んでおらねば可笑しい。だとすると、有り余る才能を持った恐るべき魔導士が自然派生的に誕生したと見るべきだろう。まあ、数百年に一人くらい化け物じみた魔導士は現れるからのう」


 そんなところに出くわすとはケーニッヒも運が無い。そして、そんな場所に最強の駒を送り込んでしまった魔王自身も運が無さすぎる。


「何も、そんなピンポイントで」

 世の理不尽に魔王は天を仰ぐのだった。




連続投稿は一旦ここまでで終了です。

次節の執筆完了次第の投稿再開となります。

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