-027- はっぴーえんど?
本当の面倒事は戦争の後にやってくる。
戦後処理とは本当に面倒なことだが、本来それは為政者の仕事であって、アルバイト的に手を貸しただけの僕にはそう大きな面倒事は降りかからないはずではあった。
しかし、聖神国戦で竜神が顕現したこと、そしてその竜神が僕との交渉で撤退したこと、その光景が情報規制が出来ないレベルの衆人環視の中で行われたことで、非常に面倒くさい事になった。
ライプニッツ枢機卿との戦いで既に僕の噂は出回ってはいたが、そこにこの事件である。
僕が竜神と対等に会話ができる存在であるということが、既成事実として王国民に広まってしまった。それを良い事に、ガブリエーレや国王、宰相が、プロパガンダに僕を利用しやがった。
曰く、竜神と交渉できる英雄が誕生した。
竜災についても、解決策を竜神と交渉している。
彼の男児は、永劫の呪いから王国を解き放つ真の勇者である。
等々、本人に聞かせたら地面を転げまわりたくなるような話が、真実かのように王国中に広がってしまったのだ。
「まぁ、今更隠したところで益もあるまい。むしろ積極的に情報をコントロールしてやらねば、お主、神格化されるぞ?」
噂を止めることなど出来ようはずもなく、最早どうにでもなーれ、と言った感じである。
聖神国側については、竜神の介入があったのは向こうの諜報部隊経由で確認されていたので、王国への手出しは厳禁となった。まだ大敵である魔王軍がのさばっている状況で、それ以上の存在である竜神を敵に回したくは無いという至極真っ当な判断であるが、できれば戦争前にその判断をしてほしかった。
神を信仰していても、人間は間違えるまで止まれない生き物であるというのは変わらないもののようだ。
この状況にかこつけて、不平等条約の見直しを行うつもりでいるらしく、国王や宰相は大分鼻息が荒くなっている。
そんな感じでゴタゴタしているうちに、あっと言う間に春月も終わった。
夏月の一日。
政治的な混乱は残しつつも、対聖神国戦を戦勝しての論功行賞である。
「リヒト=リンドブルム。其方はスタンピードの収束、ウーラント公の反乱、及び聖神国との戦争において絶大なる功績を上げ、更に竜神との交渉に置いて竜災解決のための糸口を導き出した。これは始祖王アベル=ウーラントを越える功績であり、全王国民の悲願でもある。これを讃え、十星大勲章と親竜公の位を授ける。親竜公は王国法で国王の上位にあたり、国政への直接的な発言権は無い代わり、王国内のありとあらゆる制約に拘束されない特権を有した階級である」
元々、王国法で縛れるわけもないのだから、いっそのことそれを法律で保証してしまえ、とは宰相の談。まぁ、勘違いした貴族とかに言い寄られる心配が減るだけありがたくはあるのだが。
因みにリンドブルムは貴族になるのに姓が無いのは問題なので適当に付けた奴である。
「また、親竜公の希望で、タールベルク家三女、騎士姫ブリュンヒルデ=タールベルクとの婚姻をここに認めるものとする」
結婚式はまた別にすることにはなるのだが、そういうわけで目出度く僕も所帯持ちである。
まだ、十歳なんですけど?
隣を見れば、ヒルデがいつものようにすました顔で立っていた。
こんな子供に嫁ぐことに関して思うところは無いのだろうかと聞いてみたら、「自分より強い男に嫁ぐのが夢だったから、これ以上は無い」という男前な返しをされた。
相変わらず脳筋である。
将来的にはディルクでも良かったのだろうけど。
「で、次は誰と戦うんだ?」
「竜神はまだ早いし、聖神国に逆侵攻かけようぜ」
なんて、仲の良い姉弟のように脳筋で戦闘狂な事を話し合っているのだし。
まぁ、好みだから別にいいんですけど。
国王から新造された勲章と、親竜公としての格を表すためのなんだか仰々しい杖を渡され、
なんか喋れと促される。
お歴々の貴族様方はすっかり委縮しているようで、それでもどこか期待するような眼差しをこちらに向けている。子供に何を期待している。民衆を扇動したフィリクスとかいう若者の気持ちが分かる。仕事しろお前ら。
「えー、取り敢えず色んな巡り合わせでこのような功績を上げることが出来ましたが、僕は元々平民であり、別段偉くなりたかったわけでも英雄になりたいわけでもありません。どちらかというと平凡に暮らしていたいというのが望みであり、心からの願いでもあります。
しかしながら、十歳の平民の子供であった僕が、こんなにも働いて功績を上げざるを得ない状況となりました。何故でしょうか? 僕に力があったから? くそくらえです。行き掛かり上竜災の対策は僕も協力しますが、本来僕がやるべきはずの何かでは無かったはずです。では誰が? 此処にいる王族と貴族のあんたらの仕事でしょう。
ここにいる全ての皆さまが、自らの地位と職責を果たし、これ以上平民で子供である僕が仕事しなくていい国を作ってくれることを心よりお願い申し上げて、僕からの挨拶としたいと思います。ご清聴ありがとうございました」
王族を越える地位を与えてくれたので、僕は言いたいことを取り敢えず言ってみた。
後ろで国王と宰相が苦笑している。
なにわろてんねん。本当にわかってるのかこいつらは。
兎も角、こうして滅亡フラグが乱立した、僕の十歳の春は終わりを告げたのだった。
まだ、これからも何処からともなくフラグが立ってくるのかもしれないが、その時はその時だ。
今はこの束の間の平穏を満喫するとしよう。
end
ここまでお読み頂き誠にありがとうございました。読んで頂いた皆さまに心より感謝申し上げます。
「異世界転生に滅亡フラグを添えて」はこれにて一旦完結とさせて頂きます。
まだ全体構想の四分の一ほどではありますが、これ以上継続しても面白くなる未来があまり見えないため、未回収フラグがある中僭越ではございますが打ち切りの判断とさせて頂きました。
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