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【完結】異世界転生に滅亡フラグを添えて  作者: 焼砂ひあり
第三節 戦争
26/28

-025- 要するに勝てば良いのでは?




 十二歳の少女とは思えぬ豪胆さ。僕も見習いたいものである。


 いくら陰からパウラが結界を張って万が一に備えていたとはいえ、敵意を向ける数千、数万の民衆の前に単独で進み出るなど、どこの戦国武将だと言いたくなる。

 あまりにも無謀な行為に、僕が帰って来るまで宰相と国王直々に説教をされていた。


 とはいえ、ファインプレーでもあった。

 聖神国との戦争云々の前に国家として自壊する寸前だったと言っていい。無血で終わらせられたのは褒めるべき功績ではあるし、国民に次期支配者としての有能さをアピールできたのも結果オーライではあろう。


「そもそもお主が留守にするのが悪いんじゃ! あうぅ、尻が痛い」

 説教だけでは済まず、尻を百叩きにされて、うつ伏せでベッドに伏せるガブリエーレ。その姿には民衆の前で見せた王者の威厳は微塵も無い。


「兎も角、後はお主次第じゃぞ、リヒト」

「国家の運命を十歳児に委ねるのもどうかと思うけど」

 民衆への説得も、結局のところ聖神国に勝てなければ元の木阿弥。


「妾がここまでやったのじゃ、絶対に勝て!」

「まぁ、やるだけやるよ」

 既に国王からは依頼されている通りなので、今更ガブリエーレに命じられるまでも無いのだが、僕が王国軍を勝たせなければならない。


 聖神国のご希望は、王国軍の全戦力でもって聖神国軍に立ち向かえとのことだ。

 王国の心を折るための指示ではあるが、少なくとも戦場に配置はしなければ、後でどんな難癖を付けられるか分かったものでは無い。


 例え僕が単独で聖神国軍を退けたとしても、条件を守らなかったからもう一回と言われては面倒くさい事この上ない。向こうは手段を選ばなければ、王国を壊滅させること自体は容易い戦力を有している。ただ、基本的に利益にならないどころか有害なのでやらないだけで。


 なので、向こうの言い分に沿った上で叩き潰すしかない。とはいえ、僕一人ではやはりマンパワーが足りない。ディルクやパウラ、ヒルデを含めても同じこと。根本的な問題になるわけだがどうしよう。


「と、いうわけでゴーレムの作り方を教えろ下さい」

「何がというわけか良く分からんが、そうホイホイ来られては魔王としての威厳が……」

「教えろ」

「あ、はい」


 思い立ったが吉日ということで、魔王の所にやってきた。手数を増やす目的でゴーレムの作り方でもしらないかと思ったわけだが。


「それでゴーレムの作り方じゃったか? そんなホイホイ理解できるような代物ではないぞ」

「あ、やっぱり知ってるんだ?」

「知ってはおるが、正直運用するにはコスパが悪いぞ。お主であれば魔物のテイムと召喚を覚える方が早いとは思うが」


「んー、それはそれで後で教えてもらうとして、対人間の戦いで魔物なんか使ったら僕が魔王認定されちゃうよ」

「ゴーレムも本質的には魔物なんじゃが……」

「まぁ、その辺は見た目の調整でどうにかなるでしょ」


 僕は魔王に手を差し出す。

 魔王は深くため息を吐くと、その手に分厚い一冊の本を載せた。


「世界最大の国家、リア帝国の大魔導士の著書で【魔導機工概論】という本じゃ。概論と言いつつあまりに難解で後進の育成に役立たなかった故、帝国禁書庫で埃を被っておった代物だが、歴史上最も正確にゴーレム作成について言語化された一冊と言えるじゃろう。【魔導機工本論】については現在も執筆中で刊行の目途は立っておらぬのう」


「そんなものをどうやって出したのかは聞いて大丈夫な奴?」

「我がどういう存在か察しておるのであれば、それは愚問じゃな」

「まぁ、興味はあるけど今はいいか」


 【魔王】の正体については僕なりに推定はしているけれど、然して重要な話でもない。歴史的な悲劇か喜劇があったのだろうけれど、王国民には直接関係のない話だ。聖神教にとっては天地がひっくり返るような大事ではあるだろうけれど。


「しかし、ユーリタニア語で書かれておるが、読めるか? さすがに翻訳まではやらんぞ」

「そもそも専門書だとアニメア語に存在してない語彙がありそうだしね。まぁ、別に大丈夫だよ」


 リア帝国は王国のあるアニメア大陸の西側にあるユーリタニア大陸の九割を締める大帝国で、世界最大の国家と呼ばれている。共和国とは国交もあり、アニメア大陸にも一部情報が流れてくる。世界的に影響力も多い国家の言語として、ユーリタニア語が話せれば、世界の半分では会話が出来ると言えるほど、広範な地域で通用する汎用言語であり、その気になればほぼ鎖国状態の王国においても学ぶ機会はあるのだ。


「ああ、でも良い感じの辞書があれば欲しいかも」

「ほれ」

 打てば響くと言った風情で辞書を出してくれる魔王。便利だな、こいつ。


「しかし、世界中の知識をこんなにポンポン取り出せるのに、なんで聖神国如きに手こずってるんだろうね?」

「仕方あるまい。活用できる手がないのでは如何ともしがたいのじゃ。我はここから動けぬし、四天王も魔物にしては知能は高いが、魔物故に興味のないジャンルを追及するようなことはせぬ。膨大な知識があろうとも宝の持ち腐れじゃ」


「マンパワー不足か。そりゃ、【魔王】じゃ人間は味方になってくれないだろうしね」

「お主のように奇特な存在がホイホイいるものでは無いからな」


「僕が変わり者のような言い分は如何なものとは思う」

「自覚がないとは言わせぬぞ?」


 真に遺憾であるが、否定はしない。

 ぺらぺらとページを捲りながら、翻訳と理解と要約の抽出を同時に行う。


 空気中の炭素成分を抽出し、思考を筆記された状態の紙を生成。

 確かに難解な文章で、教科書とすれば失格ではあるが、魔王が正確だと太鼓判を押しているのだから、取り敢えず正しいものとして一旦理解しよう。


 魔王の間にページを捲る音と、空中に生み出された紙が落ちる音だけが響く。

 魔王はその様子を苦虫を噛み潰したような顔で眺めていた。




 ◇◇◇◆◆◆




 最後まで読み終わって顔を上げる。

 集中していたせいで時間経過を感じていなかったが、いつの間にか魔王の間には四天王が勢揃いしており、僕が生み出した紙を見ながらなにやら議論を交わしていた。


「魔王様。これであれば我にも応用がききそうですぞ。魔王軍にゴーレム軍の設立ができますな!」

「単純作業の割り当てが出来るなら、魔王ダンジョンの開発が捗りますね。これでますます楽が出来る」


「部分的に応用すれば諜報でもかなり有用ですね」

「近衛にも活用可能っすよ。なんすかこの魔導アーマー理論。実現すれば戦力倍増っすよ」


 わいわいがやがやと、楽し気に語る四天王。魔王が頭痛でもするのかそれを放っといて頭を抱えている。


「ん? ああ、ようやく終わったのかや?」

 僕が顔を上げたのに気付いて視線を寄越す魔王。


「何時間くらい経った?」

「凡そ三日と言ったところかの。ああ、王国では特に変事は無かったようだから安心せい」

「ま、それは心配してないけど」


 大抵の事ならばディルクやパウラで何とかなるだろう。

 

「リヒト殿、勝手とは思いましたがこちら見せて頂きましたぞ! 素晴らしい、いや、素晴らしすぎる」

 ケーニッヒが喜色が抑えきれない声色で賛辞を送ってくる。


「正直前に魔王様に進められた時は意味が分からず諦めていたのですが、こちらの文章は平易で分かりやすく応用も効きそうです。それだけの魔力を持ちながら文才もあるようで」

 ミノタウロスっぽい四天王も手放しで褒めてくれた。


「お主等、その辺にしておけ。化け物顔で詰め寄られても反応に困るじゃろう」

「ですが魔王様。この感動を伝えずにはいられません」

 本当に感動しているらしいケーニッヒ。


「その紙はあげるから好きにしていいよ。情報提供のお礼ってことで、好きに活用してくれ。まぁ、ながら作業で要約したから解釈違いの部分がある可能性もあるけど、それは自分たちで原典から解析してくれ」

「カーッカッカ、これで聖神国のクソ枢機卿どもを血祭りに上げてくれるわ!」


 大変ご満悦な四天王は置いといて、何やら不満そうな魔王を見る。


「何かあるのか?」

「いや、非常識を目の当たりにして頭痛がしておっただけだ」

「そう?」


「リア帝国の件の魔導士は、帝国内で誰にも理解されなかったことを憂いて出奔しておる。魔法技術としても恐らく世界最高峰の国家をして、誰にも理解されなかった天才を高々十歳そこらの子供が理解するなど」


 帝国の魔法技術の水準は分からないが、確かに魔法しか興味のない人間であれば理解は難しいだろう。自立して稼働するゴーレムの製造には魔法だけ分かっていれば良いわけではない。様々な部分を稼働させようと思えば、動くという事に関して分解して考える必要がある。


 つまりは、物理学である。

 件の魔導士とやらは、恐らく通常の魔導士と目線が違う変態だったのだろう。

 そして、体系化されていない学問を一から作り上げる関係上、客観的な視座に立つことができず、著書も難解になってしまっている。


 まずは、基礎物理やプログラミングの概念の教育が無ければ、【魔導機工概論】は理解が出来ないのだ。


「だが、お前が書にしたためたお陰で我にも理解が出来たわ。クックック、良かったのか? こんな力を我らに与えて」

「同盟相手だろ。こちらに向かない限りは別に構わないさ」


「まぁ、精々使わせてもらうとしよう。それで、他に何か必要なものはあるか?」

「取り敢えず大丈夫かな。後はトライアンドエラーで実践してみるさ」


 何せ時間的な余裕もそう多くはない。

 必要最低限の知識は手に入ったから後は試してみるほか無いだろう。

 仕様決定して量産まで間に合うかなー?


 少しだけ遠い目をして僕は王国へと転移した。




 ◇◇◇◆◆◆




 聖神国聖都シュバルツ。

 練兵場で訓練する僧兵を眺める枢機卿が二人。


「フリンツァー。殺気が零れてますよ。やる気を出すのは良いですが、信徒を擂り潰すのは止めて下さいよ」

 イェルザレムの声に、フリンツァーは胡乱気な目を向ける。


「その位は弁えてるよ、馬鹿にしてんのか」

「そう思うならもう少し落ち着いて下さい。今にも飛び出していきそうで冷や冷やしますよ」

 まるで何も感じてないような無表情のイェルザレムにフリンツァーは舌打ちをする。


「お前は良いよなぁ、先に王国でぶっ放してきたんだろ? 俺もやりたかったぜ」

「貴方にやらせたらそのまま王国を滅ぼしかねないでしょう? 普段の行いが悪いからそうなるのです」

「まぁ、否定はできねぇが」


 ニヤリと笑って手のひらで魔力をもてあそび始める。


「多少脅しが効き過ぎて、王都では暴動寸前まで行ったらしいですね。危うく、こちらが攻め込む前に国が滅ぶところでした。信仰のない民のなんと哀れな事か。やはり聖神教による救いがかの国には必要なようです」


「まぁ、教えを広めるにしてもやはり一度分からせなきゃなぁ。立場ってもんをよぉ、ひひひ。待ち遠しいぜ」

「枢機卿として殺戮を好むかのような言動は慎まれた方が宜しいかと」


「はん。いい子ちゃんぶるんじゃねぇよ。まぁ、実際枢機卿が直々に手を下す局面になるかは疑問だがな」

「ライプニッツを下してはいるのですから、その者等に期待するといったところでしょうか。まぁ、その際は貴方に譲りますよ」


「くははは、俺は別にお前も纏めてでも構わねぇがな」

「遠慮しておきます。枢機卿同士でやりあうなど、加護が失われかねませんしね」

「はん。そんなもん建前だろうに。まぁ、精々期待するとしよう」


 二人の枢機卿の剣呑な気配に、僧兵たちは冷や汗を掻きながら鍛錬に励むのであった。




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