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【完結】異世界転生に滅亡フラグを添えて  作者: 焼砂ひあり
第三節 戦争
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-022- 魔法とは?




 春月五十八日。

 オイゲン枢機卿による宣戦布告から三日が経ち、王国内は聖神国との戦争に向けて動き出していた。と言っても、三十日程度で何が出来るということも無いが、王都付近に全軍を集中させることくらいである。


 聖神国のご要望は本気で聖神国の軍を相手をして、無様に負けろということである。

 王国民への見せしめ。

 宗主国から属国への「わからせ」と言う奴だろう。


 勿論、自分より明らかに強い軍相手に王国軍のモチベーションが上がるわけも無く、ただ死ぬためだけに戦うという状況に、離脱者も増えているのだという。まぁ、無理のない話ではある。


 軍規により敵前逃亡は死刑ではあるが、どの道確実に死ぬとわかった戦いに挑まなければならないとなれば、モチベーションは上がるまい。ダメもとで逃げた方がまだ生き残れる可能性がある。追うべき王国軍自体が三十日後には無くなっているのだから。


 聖神国もアホではないだろうから、本当に全滅させると言うことはないだろうが、軍事用語で言うところの全滅、つまり三割の損耗は覚悟するべきだろう。甘めに見積もっても三割が死ぬ戦いに意気揚々と挑める方が異常だろう。


「結局のところリヒト頼りよね?」

 パウラの気のない独白にやれやれと肩を竦める。


 聖神国も面倒な条件を付けてくれる。大量の足手纏いを抱えた状態で戦争とか勘弁して貰いたいものだ。


「聖神国軍は一万人を超えると言うが、大丈夫なのかや?」

 ガブリエーレは心配そうである。


「勝つのは問題ないだろうけど、勝ち方とかがね?」

 そもそも戦争自体嫌なのだ。好き好んで人殺しがしたいような精神性ではないし、理由があるからと言って積極的になれるほど割り切れてもいない。


 不殺を貫こうと思うとやはり一万を超えるという人数は結構問題があるし。


「また転移で強制送還するしかないかなぁ」

 転移陣の解析は大分進んでいる。トライアンドエラーで色々なものを転移させたりして実験を重ねて、ほぼほぼ条件は絞れてきたので、任意のものを任意の場所に転送するのはいつでも可能である。


「だが、それで打ち破ったと見てくれるか? また直ぐに攻め寄せるじゃろ?」

「そうなんだよなぁ」

 いっそ、聖神教の教会支部を全て破壊して、王国に転移できないようにしてしまえば、おいそれと攻め込めなくはなるのだが、その場合本格的な国家間戦争と言う事になる。そこまでの大事にするといよいよ収集が付かなくなってしまうのではないだろうか。


 他に交易国があるわけでもなく、竜災が無くなった後、聖神国は軍事的には兎も角、経済的には結びつきを保っていた方が益があるのではないかと思っている。年中戦争してくれているのだから、物資の輸出先として有益だし、手堅い需要が見込めるというのがありがたい。


 ただでさえ食料に関しては王国は余剰生産が大幅にあるので、買い取ってくれる先が突然無くなるというのも困った話にもなる。


「出来るだけ穏便に、しかして舐められない程度の力を見せて?」

 面倒くさい。本当に面倒くさいぞ。


「取り敢えず、どういう勝ち方になるにせよ、おいそれと王国に派兵するという発想にならないように、状況を整えるのが大切かな」

「状況を整えるとは?」

 ガブリエーレの問いに、僕は意地悪く笑う。


「敵の敵は味方ってね。短期的には利益を共有できる相手がいるんだから、利用しない手はないでしょう」

「……敵の敵って、まさかお主」


「魔王軍と同盟を組もう」

 その言葉にガブリエーレは愕然とし、パウラは呆れたような視線を寄越すのだった。




 ◇◇◇◆◆◆




 転移陣を解析した結果、転移先の座標設定方法が判明し、転移させるものの条件指定も解読することが出来た。聖神教徒に限定されていた条件と、固定の座標を任意にずらすことが出来るようになったので、理論上何処にでも転移で行けることになったが、座標指定をミスれば、石の中にいる、ということもあり得る。


 転移そのものは、正確に言えば入れ替えになるので、何もない空間であれば転移対象と、転移先の同じ体積分の空気の座標が入れ替えられる。


 なので、例え石の中が転移先でも転移自体は出来るし、融合してしまうようなことは無いのだが、生き埋めにはなる。


 また、その入れ替えという特性上、転移陣に半分だけ人が乗った状態で転移が発動したら、真っ二つの死体が出来上がってしまうという恐ろしい面もある。そんなわけで、転移陣には転移自体よりも安全機構の方が多く刻まれており、先達の苦労が忍ばれる代物だった。


 恐らく十や二十では利かない転移事故を繰り返して、実用化していったのだろう。だが、安全装置が一杯ついていると、手軽に使うのには面倒過ぎるという側面がある。僕としては戦闘中にぱぱっと使ったり、気軽に遠出するときに使いたいのだ。


 汎用的に使うものでもないし、フェイルセーフやフールプルーフは最低限で構わない。削ぎ落して削ぎ落して、元は直径五メートルはあった転移陣が一メートルくらいまで小さく出来た。


「では、行きますか」

 行先は魔王軍。


 転移陣の解析とは別個に、というよりはその派生で、座標の抽出方法を思案していた時に、聖神教徒を判定する方法があるという事実に着目した。聖神教徒となり、聖神の加護を得ると、固有の魔素瘤のようなものが出来る。


 加護とはこの魔素の塊のようなものなのだろう。自意識による魔素収束とは無関係に魔素が収束している状態で、状況によっては魔力変換され、事象変換される事となっている。


 聖神教徒に共通するこの魔素瘤を判定に利用できるということは、固有の魔力のようなものを魔法陣として記述できるということでもある。後は、魔法陣の文様と魔素瘤に共通する固有魔力の同定である。


 魔法陣は人類が生み出した産物である以上、未特定の魔素そのものを解析したとは考えにくいので、現実的には魔素瘤から変換された魔力であるはず。そこに個人個人によらない共通項があればそれが特定されるべき因子である。


 しかし、魔力に色がついているわけでも無く、魔力は魔力だろ、なんて思っていた時期が僕にもありました。


 なまじ、感覚的に何でもできてしまっていた弊害か、魔素から魔力に変換された時点で、魔力の性質が異なっているなど気付いてもいなかった……。火を出すときと、土を掘る時では魔力の質が違うのだ。


 そこで、魔導省に駆けこんで、所属の魔導士に色んな魔法を出させて、魔素、魔力、事象の関係性を一から調査するハメになった。ハメになったというのは些か語弊があるか。気になったから調べたというだけだが。


 最終的な結論としては、使う魔法(つまりは引き起こす事象)に対して魔力の質が変化していることと、それとは別に個人毎に固有の差異が現れた。聖神の加護はこの個人毎の差異とは無関係に、一定の質の魔力に変換される事から、これを判定に利用していると確定した。


 しかしながら、それを記述するためには、魔力の質を言語化無いし数値化して客観的、かつ機械的に評価可能なものにしているということである。僕は密かに戦慄していた。王国では何となくこうすれば魔法が発動する、レベルでしか魔法を活用できていないのにも関わらず、聖神国は魔法を解析し、魔力を定量可能とし、分類し、体系化せしめているのかと。


 誇張なく魔法に関しては、王国は石器時代で、聖神国は近現代の水準差がある。

 こんな相手と戦争して勝てると思う方がどうにかしている。


 ともあれ、今僕はその相手をどうこうしなければならないわけだが。


 話が逸れてしまった。

 転移の対象を選ぶ方法については検討がついた。では、座標はどうか? 聖神国の利用している転移陣については単純明瞭で、転移陣自体にマーカー、或いはビーコン的な役割りがあり、それを利用して特定の位置に転移している。


 戦闘中に視界の範囲内で転移する、とかやってみたいのだが現状方法論が良く分からない。相対的な座標を記述する方法がはっきりすればいいのだが。


 まあ、単純に考えれば目印があればいいのだ。魔法的に目印になるもの。例えば、個々人で違う魔力の質(魔紋と仮称)を記述して人を目印に、その近辺に転移する。では、その魔紋をどうやって記述出来るように落とし込むか。


 恐らく先人たちは膨大なトライアンドエラーの末に体系化したのだろう。しかしここは王国。魔法に関しては石器時代と言っていい場所。文明のぶの字もない場所で、何をどうしろと?


 しかし、僕には【良く見える目】がある。今世の肉体は頭脳的にも優秀だし、エクセルでマクロの記録でもやるように、魔法を発動する時の魔素の流れを見ることで検討が付いた。


 魔素を収束して、魔力へ変換する。この変換の時点でどんな事象に魔力が変わるかは決定されていると思われる。そこで魔素が魔力へ変換する際の動きに注目する。火を出す時、水を出す時、風を起こすとき、それぞれ魔素が収束する際の動きが違う。


 魔法陣とは、つまりはこの魔素の動きを平面上に書き起こしたものなのでは?

 だとすると、視覚的に捕らえることが出来る僕にとっては、見たものを平面的に書き起こせば、同じ魔法が再現可能なのでは?


 更に複数人に同じ魔法を使わせ、個別の魔紋に当たる部分を識別し、図式化することすら可能では? 更に更に、共通部分を抜き出せば、より純粋な魔法が出来上がるのでは?


 思いついたら止められない、止まらない。

 魔導省の皆様方が三徹するハメになったが、僕としては理論が検証できて晴れ晴れとした気持である。


 というわけで、特定された魔紋を座標に、知っている誰かの傍に転移する、という転移陣が出来上がった。


 現在の目的地は魔王領。

 あいつが生きていればさすがにもう根城に戻っているだろう。


 パクった魔法から魔紋の特定は終えている。

 一応の安全確認のために、時間差で発動する転移陣に細工をしたボールを包んで転移させる。


 手元から消えて、三秒ほどしてボールだけが戻って来た。

 ボールには簡単に周囲の空間情報を記録する細工がしてある。


「オールクリア。では、行きますか」

 僕は一言呟いて、僕自身を転移させた。




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