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【完結】異世界転生に滅亡フラグを添えて  作者: 焼砂ひあり
第二節 王都騒乱
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-016- くろまく?




 聖神国、聖都シュバルツにある執務室にその報が入ったのは春月が始まって直ぐのことだった。


 王国内に潜らせている密偵からスタンピード発生の連絡。

 それを受けて直ちにウーラント領にその情報を横流しにした。


「猊下。動かれるので?」

 側近の部下の言葉に鷹揚に頷く。


「選挙まで時間が無い。このタイミングでスタンピードとは、まるで主の導きではないか」

「ですが失敗しては」


「リスク無しで大業は成し得ぬ。ここで手を拱いて、万が一オイゲンのような奴が教皇になりでもしたらなんとする。主の導きが歪められ、世界が闇に閉ざされてしまう。正しく信仰を行うためにも、私は負けられぬのだ」

「差し出口でした。お許しください」


「許そう。汝の言葉もまた、正しき信仰の為と知っておる故」

 そう。正しい信仰の為、魔なる者は全て滅せねばならない。

 竜災などという巨大な魔が放置されたままの王国。救世を行うのは聖神教教徒の義務。


 しかし、枢機卿の多くは信仰の大儀も忘れ、強大と言う理由で竜神の放置を続けておる。


 許されざるや。


 この枢機卿、ルカ=ライプニッツの目が黒い内はそのような怠惰を許しはしない。




 ◇◇◇◆◆◆




 春月十日。

 王国から反乱が失敗に終わったことが伝わる。正確に言えばまだ反乱は継続中だが、初動で王族を抑えることが出来なかったと言う。


「愚物が。やはり信仰心の無い王国人など程度が知れますね。信仰が無いからやるべきことに怠慢になり、怠慢ゆえに目的を達せない」

「如何致しますか?」


 手を引くべきか、引かざるべきか。

 ほぼ必勝と思われた初動でミスをして、玉は手の中に無い状態。


 しかし、形勢が悪いという話でもない。

 王族ともう一つ公爵家の頭は抑え込んでいる。散り散りになった王国軍が再集結して決戦となったとしても、反乱軍には聖神国から横流しにした魔道具がある。


 王国の貧弱な魔導士団など鎧袖一触にできるだけのものだ。元々スタンピードがなければ正面から反乱を興すつもりであったのだ。それを考えれば今の時点でもまだ当初の予定からすれば優位と言える。


「ふむ。取り敢えず趨勢を見守りましょう。拙速な手を打ったことでミスが出ましたが、まだ盤面はこちらに優位。投げるには惜しい」

「では、そのように」


 信徒ではないとはいえ、出来るだけ人間の血が流れないに越したことは無いのだが、しかし大儀の為に必要とあらば致し方なし。


「せめて、王国軍が懸命にも降伏してくれることを願いましょう」

 魔物を討伐してきた栄誉ある彼らに、少しでも前途のあらんことを。




 ◇◇◇◆◆◆




「……負けた、だと?」

 理解が追いつかない。


 人数的な不利はあったにせよ、それを覆すだけの魔道具を与えていた。

 戦術的に上手く立ち回られて、想定外の苦戦をするか、長引くことなら想像していたが、鎧袖一触で負けただと?


「何故だ! 魔道具による魔砲の一斉掃射を防ぐことなど」

「どうやら、王国軍に秘匿戦力があったようで。大魔導士クラスの術士が魔道具による掃射を結界で防いだため、人数差による不利を覆すこともできず、敢え無く敗北したと」


「秘匿戦力だと!」

 宗主国である我が国に対する軍事力の秘匿は、そのまま反乱の意志ありとみなされても仕方がない。


 しかし、そうか。

 王国も国である。唯々諾々と我が国の言いなりになっていただけではなかったと言う事か。


「ククク、一杯食わされたわ」

 ただの飼い犬だと思っていたが、牙を隠し持つ程度の気骨は持ち合わせていたと。


「あの愚か者はどうなった?」

「ウーラント公は捕縛。帯同していたルートヴィヒは殉死したとのことです」

「死んだ? 戦場で散ったのか?」


「いえ、王都中央教会まで逃げ延びた後、追手に討たれたとのことです」

「聖神教の司教が、王国の追手如きにか?」

 死んだこと自体は問題ではない。一般的に聖神教の司教はレッサードラゴン程度の戦力に相当する。


「未確認ですが、騎士姫と件の大魔導士の手に掛かったと見られています」

「騎士姫か」

 王国最高戦力と目される女騎士。ドラゴン討伐を成し遂げている以上、大魔導士と組めば司教クラスが負けることもあり得るか。


「その大魔導士の情報は?」

「申し訳ありません。流言が飛び交っておりはっきりとした情報は。王都内はペーター大司教の影響下にあるため、手の者達も大きくは動けず」


 王国内で最も階位の高い大司教ペーター。歳を取って閑職に就く形で王国に派遣されたが、枢機卿候補に名が上がった事もある実力者だ。誰かの傘下だと言う話は聞かないがそのせいで実力はありながら閑職に追いやられている。


「致し方あるまい、無理はさせるな。粛正でもされては何の情報も得られなくなってしまう」

「はっ」


 それにしても、ウーラント公の敗北。それも完敗となれば、王国への足がかりが消えてしまった。口惜しいが潮時か?


「それと、ウーラント領の方から猊下に書状が」

 部下の意外な言葉に、思わず眉根を寄せる。公爵が囚われ、ルートヴィヒが死んだ今、私の存在を知り交渉を持とうとする者などいないはずだが。


 訝しみながらも書状に目を通す。


「……猊下?」


 表情が曇ったのを察した部下が声を掛けてくる。

 ぎりり、と奥歯を噛みしめ書状を握り潰す。


「……子倅が調子に乗りおってからに」

 書状の差出人は次期ウーラント公爵、アントン。アルバンの息子で無能として領内外で有名である。領地では絶対的なカリスマであるアルバン=ウーラントの唯一の汚点と呼ばれるほど、親の威光で隠し切れないほどの影。


 無能なら無能らしく領地で縮こまっていれば良いものを、自分の立場が怪しくなると知り、何処で嗅ぎつけたのか聖神国まで書状を寄越す始末。クズらしい鼻の良さと言うべきか。


 ぐしゃぐしゃになった書状を部下に渡す。丁寧に開いて一読した部下が再び書状を握り潰した。その顔には怒りがありありと浮かんでいる。


「このような書状をお見せするとは、失礼いたしました」

「よい。世に想定を上回る愚か者がいると知れたことは有意義であった」

「直ぐに始末致します」

「いや、待て。この類の輩は自分の立場に関することには敏感なものだ。気配を察すれば私とウーラント公の繋がりを示す書類を餌に、他の枢機卿に取り入るつもりだろう」


 愚かなくせに、悪知恵だけは一端ときている。面倒な話だ。

 何れにせよ他の枢機卿に既に情報が渡っているか、これから渡ると考えるべきである。属国に混乱を招いたとして責任問題にしてくるのは目に見えている。


「仕方あるまい。こうなれば、名よりも実を取る他無い」

 このまま放置すれば名声は下がり、実益が無い。属国のことなど多くの信徒にはあまり感心事ではないのだから、多少強引であろうが横暴であろうが、実行力のある所を見せつけられれば問題はあるまい。


「直ぐに発つ」

「猊下自ら動かれるのですか!?」

「これ以上の不測の事態は御免被る。武装司祭を百名選抜せよ。手早く終わらせてくれる」


 少なくとも配下の司教を殺されているのは事実だ。最低限の名分は立つ。


「はっ」

 頭を下げて出ていく部下。

 魔物以外と戦うのは久しぶりだ。少しは、骨のあるものがいてくれれば良いのだが。


 自慢の上腕二頭筋を触りながら、戦いの予感にほほ笑むのだった。




 ◇◇◇◆◆◆




 聖神国の聖都(首都)からまともに王国へ移動すると、最短でも三か月は掛かる。王国は峻険で忌々しい竜の住処である天竜山脈に囲われており、海路以外では海岸線の崖沿いにある狭く危険な間道が東西二か所あるだけ。


 まともに移動するなら海路一択であるが、聖都は大陸の中央付近にあるため海に出るための陸路の移動だけでも簡単な事ではない。


 ならばどうやって聖神国から王国の内情を即座に知り、情報の遣り取りをしているのか。

 答えは、魔法である。


 教会のある場所限定ではあるが、人や物を転移させる事が可能である。


 代償として相応の魔力の消費はあるが、聖神教の信徒、司祭以上の位階のものであれば一日に片道分の移動くらいは自前で賄える。


 元々は神出鬼没な魔王軍に対応するために、二百年前の教皇聖下が聖神に願い出て与えられたものだという。教会以外では使えないのは主の加護が届かないためである。


 ウーラント領クラーラ。ウーラント領の領都。ギーレン川の河口にあり、貿易港でもある。聖神国との物資の遣り取りを行う玄関口でもあり、王都よりも栄えていると言っていい。


 ウーラント家は代々この都市を統治しており、貿易に伴なう税収は領地全体を潤している。しかし、潤沢なその資金も統治する者が愚かであれば意味はない。


 クラーラの教会から公爵家を訪ねると、アントン=ウーラントは両脇に女を侍らせ、背後には【竜神の加護】持ちの配下を並べて出迎えた。


 茶色い髪に碧い瞳。一度だけ会ったアルバン=ウーラントの面影はない。【竜神の加護】無しで、絶大な支持を得た父親の跡を継ぐという重圧に負けたものの末路だ。特に同情に値するとは思っていないが。


「これはこれは、ライプニッツ枢機卿。遠路遥々ようこそお越し下さいました。わざわざ猊下自ら御出でになるとは」

 尊大な態度を装って口を開いてはいるが、内心の動揺が伝わってくる。まさか枢機卿が直々に来るとは思っていなかったのだろう。


「アントン君。私はね、非常に感心しているのだよ」

 君付けで呼ばれて、アントン本人ではなく、背後の取り巻きがざわつく。


「君のお父上であるアルバン=ウーラントは私に援助を申し出た。自らが国王に如何に相応しく、今の王家が如何に相応しくないのか熱く語っておられた。理想に燃え、その理想の高さ、純粋さ故に多くの者が集まり、実際に反乱を興すことまで出来た」

 父親を褒められ、微妙な顔をするアントン。


「君には無い情熱だ。父親と比べられ、見下され、無能と謗られて、諦観に浸った君には全くないものだ。しかし、その父親も失敗した。私がお膳立てしてやって、どうあがいても負けない所まで世話を焼いてやったというのに、ものの見事に失敗して見せた。その点、私から見れば君の父親もまた同様に無能だ」

 今度は侮辱され、しかし何を言いたいのか読めずに困惑している。


「書状を見たよ。君はどう考えたのか知らないが、私の、聖神国枢機卿の期待を裏切って敗北をしたにも関わらず、言い訳も謝罪も無く、もっと支援を寄越せという傍若無人な言動。素晴らしい。聖神国では考えられない対応だ。世の中の広さを教えてくれてありがとう。ここまでの恐るべき馬鹿を見ることが出来るとは貴重な体験であったよ」

 にこりと笑い、それに主が馬鹿にされたと憤った取り巻きの一人が声を荒げようとした。


 その瞬間、その取り巻きは擂り潰されるように死んだ。


「きゃああああああ!」


 アントンに侍っていた女が叫んだ。その頭がはじけ飛び、返り血がアントンに降り注ぐ。


「あ、あ……」

 逃げようとして腰を抜かしたもう一人の女は、ソファからずり落ちた瞬間に腹から下が押しつぶされ、内臓を吐き出しながら息絶えた。


「何が――」

 残りの取り巻きは状況を把握する前に、股から体を真っ二つに割かれて死んだ。


「――」

 アントンはこちらを見開いた目で見つめたまま、ぶるぶると震えている。

 あっという間に、この場で生きているのは私とアントンの二人だけ。


「これは世の中に広さを教えてくれた君へのお礼だ。君も少しは勉強して世の中の広さと常識というものを学ぶといい。何、後のことは私に任せておけばよい」


 穴と言う穴から排泄物を垂れ流してぶるぶると震える小物を残し、部屋を出る。


「リタ。いるか」

「はい」


 闇から湧くように少女が現れる。


「先に行って王族を片付けておけ。私に面倒を掛けさせるなよ?」

「御意に」

 再び影に消える少女。借り物ではあるが、使えるなら使っておこう。駄目でも私の懐は痛まない。


「さて、では宣戦布告の準備と行きましょうか」

 にこりと笑い、外で待つ武装司祭の元へと向かった。




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作品を書く原動力になります。よろしくお願いしますm(_ _)m

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