-000- ぷろろーぐ?
前世はサラリーマンだった。
享年は多分四十くらい。
妻がいて、息子がいた。
遺して逝ってしまったのは大変申し訳ないと思う。
だが、別に自分に過失があったわけではない。
不摂生の末に病に倒れたわけでも、不注意で交通事故にあったわけでもない。
「メンゴ! 二日酔いで仕事してたら間違って君をコロしちゃったんだ!」
てへっ、と笑っている天使っぽい何か。
不摂生だったのも不注意だったのもこの天使っぽい何かである。
「生き返らせてはあげられないけど、お詫びに転生先は希望聞いたげるからさー」
手違いで殺されたと言われて直ぐに、次の人生なんて心の整理が付くとでも?
「じゃあ、奥さんと息子さんの将来について多少優遇しようか?」
……それは、その方が助かるが。
「おっけーおっけー。じゃあ、君より顔も頭も性格も収入も良くて、君がこのまま生きていたより一般的な価値観において幸せになれる男を後添えに派遣するねー。中途半端に宝くじで資金注入するとかより安心できるし幸せになれそうでしょう? 私ってチョー的確でチョー親切!」
あ、こいつ天使じゃなくて悪魔だな。家族と死に別れて傷心真っ只中の人間に寝取られる未来を突き付けやがった。
魂まで殺したいのかクソが。
「まあまあ、そうツンケンせずに。どうせこうなったら君が彼女たちに出来ることなんてないんだから、幸せを本当に望むならこれが一番でしょう? それとも君の事いつまでも引きずって人生どん底でいて欲しいわけ?」
正論振り回して説得をしようとするな。気持ちの問題だ気持ちの。そんな直ぐに整理できるかボケ。やるにしてもわざわざ申告するなカス。
「どのみちこれから転生する君には関係のない出来事だよ。手違いは申し訳なかったけど、どうせ幾百回も繰り返してきた転生の一回に過ぎないんだから、そう目くじら立ててほしくないわね。それであなたの転生先だけど、えーっと、私もまだ多少申し訳なさを感じるから、出来るだけ君の好きそうな感じな奴に……。ああ、これなんかいいわね。別の惑星だけど剣と魔法がある世界。貴方たちの世代って異世界転生好きよねー。どうせそういう世界に行くなら波乱万丈の方が楽しいでしょうから、ああ、丁度転生後十年くらいで国家滅亡イベントが発生する奴があるから、これにしましょう。心配? そう簡単に死にそうにない素体だから努力次第でどうにかなるわよ。転生特典もあげるし。まあ、頑張ってみてねー。ダメでもまたどこかに転生するだけなんだし、それが分かってれば気楽なものでしょう?」
それが天使だったのか悪魔だったのかよく分からないが、そんな経緯で転生したのだった。
剣と魔法の世界。
惑星どうこう言っていたから別次元ではなく同じ宇宙空間の別の星なのかもしれないが、だとすれば前世は何故魔法が無かったのだろうか。観測手法が確立していなかっただけだろうか。わからん。
「そんなこんなで、もう十歳になりました」
国家滅亡イベントが転生して十年後という話だったから、そろそろ起きるのだろうか。まじで勘弁して貰いたい。転生特典がなんであるかは生後すぐに気が付いたが、おかげで今世の半分くらいは転生特典とやらを使いこなすことに終始せざるを得なかった。両親にも迷惑と心配を掛けたし、本当あの不良天使はロクな事をしないと思う。何が特典だ、普通に考えたら呪いだろ、こんなもん。死ね。
そんな荒んだ思いを抱きつつも、生きる為にはやらざるを得ない状況で僕は頑張った。そして五歳位からはなんとか普通の子供並みの生活を送れるようになったというわけである。
「リヒト! なんかヤバい事になってるみたいだぜ!」
今日も今日とて平和な一日が少年の声に吹き飛ばされる。
店番をしていると赤い髪に金色の瞳の快活な男の子が飛び込んできた。リヒトとは今世での僕の名前であり、飛び込んできた少年はディルクと言う幼馴染である。
「ヤバいってなんだよ」
「なんか魔物がたくさん攻めてきてるんだってさ! 衛兵も狩人もみんな城壁に上って騒いでるぜ!」
魔物がたくさん……。スタンピードと言う奴だろうか。
まさか国家滅亡イベントが始まってしまったのでは?
「俺達も行こうぜ!」
僕の心配を他所に、金の瞳をキラキラと輝かせてトチ狂ったことを喜々と語るディルク。この幼馴染は多分に戦闘狂な所があり、十歳にして魔物をジェノサイドするのが趣味なのだ。別に弱い者いじめをするとか、手に余る乱暴者とか言うのではないのだが、狩猟本能が生まれつき凄すぎて凄く凄いのである。
「僕等が行っても邪魔になるだけだろうし、大人しく家で待って「いやだ」」
僕にみなまで言わせず否定するディルク。
「なぁ、なぁ、行こうぜリヒトー。こんな面白いイベント見逃したら絶対後悔するって!」
「見逃すって、参加する気満々ですよねディルクさん?」
「気持ち悪い喋り方止めろよー。大丈夫だって、危なそうだったら手は出さないからさー」
「嘘だ。危なそうであれば危なそうであるだけ手を出したくなる癖に」
「分かってるじゃないか、リヒトくん。なーなー、行こうぜー」
大きくため息を吐く。ここで僕が断ってもどうせこいつは一人で行くのだ。危地を喜び、命を投げ出して、愉悦に浸るのだ。なんで十歳でこんなド変態なんだこいつは。教育の仕方が悪かっただろうか? いや、僕は別に……。
「ヤバかったらマジで逃げるからな! ほんとだぞ! フリじゃないからな!」
「わかってるわかってるー」
僕が行くとなって喜びを隠さないディルク。嬉しそうな顔しやがって。
ディルクが前世の息子と被って、どうしても幼馴染と言うよりは子供を面倒みている気分になってしまう。だったらちゃんと止めろよと言う意見は一々御尤もだが、制御しようと思って出来る類の子供ではないのだ。色々と規格外過ぎて、後方父親面したくとも限界があるというか。
「ドラゴンとかいないかなー」
呑気に狂気を口にしながら、ヤル気満々で店を出るディルクの後を、僕は渋々と付いて行くのだった。




