お金はないけど魔王退治はしたいので、パーティは倹約することにいたしました。
「突然だが、お金がない」
某居酒屋にて。どどん、と大真面目な顔をして、我らが勇者パーティのリーダー剣士はそう告げた。
ちなみに僕達は、魔王退治の道中です。でもって、女神さまのご都合主義で、揃って異世界に転生してきた元現代人です。はい、以上説明終わり。
「しかし、魔王は退治したい。でないと賞金入らないっつーか、今月の宿代もやばい。既にもう借金しまくってブラックリスト入りしているので、他にお金を借りるアテもないからな」
「ごめんちょっと待ってリーダー。ツッコミどころ多すぎて全く追いつかない」
狩人ジョブである僕は、はい、と律儀に手を挙げて発言した。いきなり何を言い出すかと思えばお金がない?ちょっと待った、先月のドラゴン退治で貰った賞金100万G、一体どこに消えたんでしょーか。
というか、既に借金しまくっていたってのも完全に初耳なんですが。え、しかもブラックリスト入りって、え?
「先月のドラゴン退治のお金はまるっと借金返済の一部に当てたから、暫くヤミ金から電話がかかってくることはないと思うけどな」
「待ってその時にはもう借金あったってことなの僕ら知らないよ!?」
「宿の電話線、こっそり引っこ抜いてたのそういう理由だったの……」
「リーダー、俺パーティ抜けていっすかー」
「良くない見捨てないで!!」
僕、黒魔術師、白魔術師とそれぞれ不満を口にすると。ムキムキマッチョのはずのリーダー(剣士)は半泣きになってフライング土下座をかましてきた。
その滑らかな動き、何故実戦で生かされないのか。
「とにかく、倹約した上で魔王退治しないといけないんだ!みんなに不便かけるのは申し訳ないんだけど、頼むこの通り協力してくれええ!案ならちゃんとまとめてあるから、ほい!」
彼はそのまま、僕ら三人への倹約案をまとめた紙を取り出して見せてきた。
こんなのまとめるくらいの頭があるなら、何故借金地獄になる前に手を打たないんだ、ていうかどうしてそんなにお金なくなったんだ――と思ってみてみると。
『●狩人
矢を買うお金がないので、しばらく弓でぶんなぐって攻撃するように!
●黒魔術師
魔法の杖を買うお金がないので、しばらくはうちわで仰いで風を起こして魔法っぽく攻撃するように!
●白魔術師
ローブを買うお金がないので、しばらく全裸で頑張るように!』
「ちょと待てやごらあああ!」
間違ってる。武器も防具もスッカラカンでどうして魔王に挑めると思っているのだろうか。ついでに僕は知っているのだ、回復アイテムの類も使い切っているということを!
ていうか、最後の白魔術師酷過ぎやしないか?全裸で頑張るようにってなに、セクハラか!?
「リーダー……そんなに俺の裸が見たかったなんてっ……ぽっ」
「お前もわけわかんない勘違いして頬染めてんじゃねーよ!!」
白魔術師も何やら勘違いして、乙女のように眼を潤ませている。一体何がどうしてこうなった。というか。
「そんなに倹約したいなら、まずあんた自分の装備を見直すところからしたらいいでしょーが!なんであんただけがっちり甲冑買って着てんだよ!」
そう。目の前の剣士ときたら、一人だけ何やらガッチリした鎧を着込んでいるのである。人の防御力をゼロにする前に自分をなんとかしろよと言いたい。すると彼は。
「俺だって倹約している!剣士なのに剣もないんだ!あと鎧の下はズボンもパンツも履いてない!!」
「きたねえ!!」
「リーダー、やっぱり俺とそういうことを……」
「白魔術師、お前はもう黙ってろ!」
なお、現在空気になっている黒魔術師。この世界にうちわって存在するんだあ、なんて斜め上のツッコミをしている。頼む、メタまで入ったらほんと収拾つかないからヤメテ。
「みんな、辛いのはわかるんだ、俺だってつらい!下半身なんか鎧で擦れて超痛いし!」
やがてリーダーは、ジャンピング土下座をして事の真相を明かしたのである。
「もう二度と“講座開設!楽にチートスキルが手に入る方法教えます!異世界転生の極意!”なんて詐欺なんかに引っかからないから!」
「それが原因かー!!」
残念ながら、“現実の”異世界転移には、ありがたいオマケなんぞはついていない。
僕らは“金欠”というあまりにもシビアな問題を抱えながら――しばらくは勇者をお休みして、バイト三昧するしかないらしい。