祝融へ援軍:参
西暦219年・10月 (建安24年)
南中を支配する南蛮の王・孟獲。
その南中の最初にある第一洞村を守備する長に帯来洞主がいる。 南蛮兵2万が第一洞村を守る。
そこに劉備軍・蜀軍30万が第一洞村まで来る。 当然だけど、その事に帯来洞主も気づいてる。
「何っ、劉備が来た…だと!?」
「はっ、劉備が大軍率いてやって来ました!」
「遂に南中までもやって来たか…」
「はっ、蜀軍30万です!」
「クソッ、たった2万では防げない。
しかも、背後には反乱軍もいるし…。
南蛮の王も病に倒れた。
その上、蜀軍を相手にできないぞ。」
「……」
「いや、あの蜀軍を反乱軍にぶつけたら、一体どうなるんだ…?」
「……」
帯来洞主が少し考え込む。
そこに劉備軍の先鋒隊3万を率いて呉懿・高定・朱褒の三人がやって来た。 第一洞村の目の前に陣を敷く。 呉懿は高定と朱褒を帷幕に呼んで、少し南中について聞いた。
「南中とは、どの様な所か?」
「はい、第一洞村から第八洞村まであり、それぞれ孟獲が認めた者が守っております。」
「洞村とは?」
「はい、洞窟にある村のことにございます。」
「洞窟の中に村があったのか?」
「はい、昔はあったそうです。
しかし、今は見てもわかるとおり、しっかりと大地の下で村ができており、名前は昔の名残みたいなものになっております。」
「なるほど、そういうことか」
「はい、それと南中の一番奥に南蛮の王・孟獲のいる第九洞村があります。」
「なるほど、それで誰が何処を守っているのか、わかるか?」
「はい、第一洞村が帯来洞主。 第二洞村が董茶那。 第三洞村が阿会喃。 第四洞村が忙牙長。 第五洞村が金環三結。 第六洞村が朶思大王。 第七洞村が木鹿大王。 第八洞村が兀突骨。 第九洞村が孟獲の弟・孟優。 それぞれ守備しております。」
「なるほど、そこに孟獲が病となり、阿会喃・董茶那・忙牙長・兀突骨が反乱を起こした訳か?」
「はい、そうだと思います。」
「しかし、王が病になったのに、そんなにすぐ反乱が起きるものなのか?」
「可能性は十分にあります。
南蛮の者は義より欲を重んじる者。 自分たちの欲を優先的に考える部族だと聞いております。」
「我々も南蛮の者の事はよく解らないのですが、相当に欲深いと聞いております。 王の威厳や忠誠よりも自分たちの保身や身分などを考えているものだと思います。」
「なるほど、確かに彼らは部族であって武士ではないからな。」
「「はい」」
「良いことを聞いた。
第一洞村は帯来洞主だったな。 彼は孟獲に与する者。 ならば話によっては味方につけるか?」
「「……」」
「まず翌朝、出陣して帯来洞主を出して話し合いに応じてもらう。 話の内容次第では戦わずに次の洞村に行けるかもしれんな」
「もし話に応じなければ?」
「その時は戦うしかない。 だがしかし、話を聞いてる限りでは、向こうも反乱軍をどうにかしたいはず。 しかも保身を考えて話に応じる可能性もある。」
「な、なるほど…」
「た、確かに…」
「よし、決めた。 この方針でいこう」
「「はっ!」」
こうして呉懿の作戦は決定した。
とりあえずは帯来洞主に話し合いに応じてもらい、蜀軍が来た理由を説明すれば、帯来洞主も無理強いはしないはず。 彼も背後に反乱軍を抱えたまま、蜀軍と戦いたくないはず。 話し合いによっては自分たちの苦労や負担が減るはず。 そう…彼らの義より欲を重んじる精神に賭けてみようと思った。
洞村とは、洞窟の中に村を作ったことに由来する。 当然だけど、今は普通に指定された地域に村を作っている。 だから名前だけが名残として残っている。 村は村長が治めており、第一洞村は帯来洞主、第二洞村は董茶那、第三洞村は阿会喃、第四洞村は忙牙長、第五洞村は金環三結、第六洞村は朶思大王、第七洞村は木鹿大王、第八洞村は兀突骨、第九洞村は孟優がそれぞれ治めている。 彼らの役職は元帥。 それぞれが軍隊を率いて戦闘をすることができる。 そして第九洞村の奥にある某所に南蛮の王・孟獲がいる。 そこまでに至る道は決して平坦なモノではないだろう。 劉備軍・蜀軍は反乱軍を討伐しながら孟獲の所まで行かねばならないのだ。
翌朝、劉備軍・先鋒隊3万と呉懿・高定・朱褒が出陣して、それを聞いた帯来洞主も2万の南蛮兵を率いて出陣する。 両軍が対峙・対面する。
「劉備軍が一体何しに来た?」
「我らは貴殿たちに敵対するつもりはない。」
「?」
「我らは祝融夫人から反乱軍の討伐のための援軍を要請され、ざわざわこの南中までやって来たのだ。」
「何っ、祝融様から?」
「おう、この様に祝融夫人から我が君へ援軍要請の書状を貰っておる。」
「何っ、書状?」
「おう、ここにある」
「ぜひ確認したい」
「おう、確認なされ」
そこで南蛮兵が呉懿の所まで行って、祝融夫人からの書状を受け取って、また帯来洞主の所まで戻る。 祝融夫人からの書状を受け取った帯来洞主が、その書状を見る。
「おお、これは確かに祝融様の書状だ。
まさか…本当に蜀軍に援軍要請したのか?」
「いかがかな?」
「今…祝融様に大至急確認する。
しばらくお待ちくだされ!」
「あい、わかった」
「おい、この書状を持って、大至急祝融様の所へ行って、確認してもらえ!」
「はっ、かしこまりました!」
帯来洞主の命令で、南蛮兵が祝融夫人の書状を持って、祝融夫人の所まで早馬を飛ばした。
この間は戦闘は行わない。
そもそも呉懿は反乱軍以外とは戦うつもりはない。 また待っている間に劉備軍・本隊も呉懿軍の背後まで来て陣を敷く。 その劉備の大軍を見て、帯来洞主は秘かに思った。
(これは……降伏か和睦しかない……)
だがしかし、仮に劉備軍が反乱軍鎮圧のための援軍だとしたら、別に無理に戦う必要もない。 それに祝融様から援軍要請を受けてきたのなら、尚更である。 ならば確認が取れ次第、速やかに通過してもらい、あの反乱軍とぶつけてしまえば、自分たちは余計な兵力を失わずに済む。 今…帯来洞主の頭の中は、まさにその事でいっぱいである。
しばらくしてから南蛮兵が向こうの方から帯来洞主の所までやって来た。 その南蛮兵が帯来洞主に何かを渡している。
「これは木札か!?」
「はっ、祝融様から劉備様に援軍要請されたことが明らかになりました!」
「な、なんと!?」
帯来洞主が木札と一緒に渡された書状を見て確認する。
「おおっ、確かに!」
「これらを劉備様に渡すように祝融様から言われております。」
「ス、スゲエ!」
書状には劉備に援軍要請したことが書かれており、この南中の各洞村を自由に行き来できる木札が用意されている。 その木札には『劉備玄徳通行書』と書かれており、この木札に名前が書かれた者は、この南中を自由に往来可能であるとされる。 つまり劉備玄徳率いる蜀軍は、この南中・各洞村を自由に行動の可能が保証されたことになる。 これにはさすがの帯来洞主も驚く。
帯来洞主が木札と書状を持って、呉懿の案内のもと劉備の本陣へ向かう。 帯来洞主が帷幕の奥に座る劉備の目の前で跪いて、木札と書状を劉備に渡す。 その書状と木札を見た劉備が帯来洞主に質問する。
「この木札を各洞村の元帥に見せれば素通りできるのか?」
「はい、その木札は南蛮の王・孟獲様が発行なされた南中の通行手形にございます。 孟獲様に忠誠心のある部下ならば、必ず通してもらえます。 しかしながら反乱軍には通用しないかもしれません。」
「ふむ、わかった。
反乱軍の討伐はこちらで任せてもらいたい。」
「ありがとうございます。」
「反乱軍は何処におる?」
「次の洞村からは反乱軍の董茶那となり、そこから阿会喃、忙牙長と続きます。 また反乱軍の兀突骨が仲間と合流できないように、我らの仲間が食い止めております。」
「なるほど、反乱軍の生死はどうする?」
「はい、そちらにお任せします。
従来より、反乱を起こした者に情けをかけておりません。 我々ではなく、蜀軍に討たれたとあれば、こちらとしても都合がいいと思います。」
「なるほど、よくわかった。
ところで孟獲殿の容体はどうか?」
「あまり芳しくありません。
原因が不明な上、思った以上に苦しそうでしたので…」
「なるほど、よくわかった。
我らは明日にでも出発して、次の洞村へ向かう。」
「ありがとうございます。
宜しくお願いします。」
「ふむ、任されよ。」
帯来洞主が劉備に臣下の礼をとると立ち上がり、そのまま第一洞村へ戻った。 帯来洞主は自分の洞村を守るため、劉備の案内はできない。 それでも祝融夫人から渡された書状と木札があれば、この南中の各洞村を自由に往来可能なため、劉備たちは反乱軍を討伐しながら、病床中の孟獲のいる第九洞村まで行けばいいのだ。
翌朝には、劉備軍・蜀軍30万が第一洞村から進発して、次の第二洞村へ向かう。
【注意事項】
※本来祝融夫人が蜀に援軍要請しない。
※そもそも洞村などという所は存在しない。
※洞村を守護する者はほとんどバラバラ。
※最初から帯来洞主が登場する。
※木札も架空の板のモノ。