反乱四天王:弐
西暦219年・7月 (建安24年)
南中四郡。 蜀南部にある建寧郡太守の雍闓と越嶲郡太守の高定と牂牁郡太守の朱褒の三人が共謀して、永昌郡太守の呂凱に攻撃する。 呂凱はすぐ劉備に援軍要請して、劉備軍・蜀軍はすぐ永昌郡の救援に向かう。 建寧郡太守の雍闓と越嶲郡太守の高定と牂牁郡太守の朱褒の三人が、それぞれ一万の兵を率いて永昌郡太守の呂凱を攻めるのに対し、援軍に来た劉備軍の先鋒隊の李厳・李恢が三万の兵を引き連れ反乱軍の陣の背後を攻める。
城攻めに集中していた反乱軍は突如として背後を衝かれて動揺・驚愕する。
「何っ、もう劉備軍が来たのか?」
「しまった!
我らの背後を衝かれて挟撃されるぞ!」
「ヤバイぞ!
このままだと退路を絶たれるぞ!」
反乱軍三万が城攻めしている最中に、予想以上に早く自分たちが攻めてる背後を劉備軍の先鋒隊三万が攻めてきた状態になり、これでは城攻めに集中できなくなり、逆に退路を絶たれる恐れがある。 兵の数も徐々に減り始めた。
「よし、敵は動揺しているぞ。
一気に攻め立てよ!」
「反乱者共を殲滅せよ!」
ここで李厳・李恢の三万の先鋒隊が高定軍と朱褒軍の背後を攻め立てる。 それを見た永昌郡の呂凱も援軍の到着で、さらに勢いが増し奮い立つ。 城内からも援軍を援護する。
「おお、援軍が到着したか!
よし、こちらも弓矢で援護するのだ!」
「はっ、かしこまりました。」
ここで城兵も弓矢を用いて、前方にいる雍闓軍に向けて矢を放つ。 反乱軍はもはや城攻めどころの騒ぎではない。 このまま城攻めを続けていると、間違いなく退路を絶たれて逃げられなくなる。 それに兵の数もどんどん減っていく。
「おい、どうするつもりだ?」
「そうだ、このままだと我らは終わりだぞ!」
「…くっ…」
「さっさと、なんとかしやがれ!」
「今回の首謀者はお前なんだからな!」
「………」
ここに来て、仲間割れだよ。
高定と朱褒が雍闓を責めるが、その間もどんどんと自分たちの兵を失う。 だが…そこにさらに追い討ちをかける。 三人がモタモタしてる間に、遂に奴らもやって来たのだ。
「テメエらにできることは降伏することだぜ!」
「よくも我が殿を裏切ってくれたな!」
なんと雍闓たちの左右に張飛軍三万と趙雲軍三万が突如として現れ、まさに雍闓たちは四面楚歌に追い詰められた。 蜀の猛将張飛と趙雲の突然の出現に、もはや雍闓たちも言葉を失う。
「「「!!?」」」
「さぁ、俺様の刃にかかりたくなければ、馬から降りて跪け!」
「どうした! 馬から降りて降伏せぬか!」
「「おお、張飛将軍に趙雲将軍だ!」」
「おお、遂に張飛軍と趙雲軍が来たぞ!」
「「おおっ!」」
張飛・趙雲の到着で、呂凱軍と李厳・李恢軍がさらに勢いが増し奮い立つ。
「張飛!?」
「趙雲!?」
「うううっ!」
もはやここまで。
あの蜀の猛将張飛・趙雲が、それぞれ三万の軍勢を率いて、自分たちの左右を襲う。 これで約10万近い軍勢が前後左右から攻撃してくることになり、高定と朱褒は完全に戦意喪失した。 しかも自分たちの兵も残り少なくなり戦意喪失する。 これではもう戦にならない。 高定と朱褒の二人は馬から降りて跪き降伏を願い出る。
「我々は降伏します」
「寛大な処遇をお願い致します」
「お、お前たち!?」
「もはやここまでだ!」
「このまま無駄死にしたくない!」
「おのれ、ワシを裏切るか!」
「「………」」
「テメエはどうするんだ? 雍闓!」
「黙れ! ワシは劉備の家臣ではないし、劉備に仕えるつもりもないわ!」
「何っ!?」
「テメエ、死にてえのか!」
「ぬかせぇ!」
そう言って何をトチ狂ったか、雍闓が単騎で張飛の下に駆け寄る。
「へっ、バカめ!」
「うおっ!?」
張飛に接近する前に雍闓の首が跳ね飛ばされ、頭が宙に浮く。 もの凄い勢いのスピードで蛇矛を振り抜いて、雍闓が張飛の下に到達する前に首が切断され、張飛に接近できた時には、もう首がない状態で馬上から崩れ落ちる。 頭が地面に転がり、その近くに胴体も倒れる。 蛇矛を振り抜いて、首が切断されるところを肉眼で見ることができないほど、素早かった。 雍闓…戦死。
蜀・最強の一人…張飛に、たかだか雍闓ごときが勝てる訳がないのだ。
「「ひいいいいいぃぃ~~~~~っ!!」」
それを見た高定と朱褒が情けない悲鳴をあげる。 あっさりと無惨に殺された雍闓を見て、改めて降伏して良かったと心から思った。 この後で劉備軍が到着すると劉備の前で正式に降伏した。
劉備が椅子に座り、その前に高定と朱褒が跪く。
「そなたたち、どうやら雍闓の口車に乗せられて反乱を起こしたようだな。」
「「はっ!」」
「余に何か不満があったのか?」
「「いえ、その様な事は……っ!」」
「では何故、反乱を起こした?」
「「そ、それは……っ!」」
「あの雍闓は余に仕えることを拒んだそうだが、そなたたちはまだ余に忠誠を誓うつもりはあるのか?」
「「はい、勿論でございます」」
「ならば、これからの活躍・功績で示してもらおうか。」
「「はっ、判りました。」」
「我らはこれから南中を攻略するつもりだ。」
「「えっ!?」」
「実はそなたたちの反乱で終わりではない。
まだ南中では反乱の兆しがある。」
「「そ、そうなのですか?」」
「ふむ、そこでそなたたちも我らと同行して、反乱の鎮圧に貢献して手柄を立てられよ。」
「「はっ、喜んで同行させて頂きます!」」
「ふむ、ではそなたたちは呉懿の下につけ」
「「はっ、判りました我が君」」
ここで高定と朱褒は呉懿将軍の下につく。
どうせ死ぬなら、反乱者の汚名を着ながら虚しく死ぬのではなく、主君の下で活躍して手柄を立ててから死にたいものだと思うのが、武士の本懐であろう。 劉備軍・全ての蜀軍30万が合流して、まずは永昌郡の城に向かう。
永昌郡。 永昌郡太守の呂凱が劉備を出迎えて執務室に案内する。 劉備が席に座ると目の前で呂凱が跪く。
「まずは呂凱よ。 ご苦労だった。
余が来るまでよく耐えてくれた。」
「いえ、殿直々の援軍にこの呂凱…感無量にございます。」
「ところで呂凱よ。
そなたの報せ…まことか?」
「…はい、残念ながら…」
「ふむ、そうか…」
哀しく俯く呂凱と難しい顔をする劉備。
その異様な光景に高定と朱褒が疑問に思う。
「ふむ、実はな…。
孟獲が病に倒れた…」
「「「「!!?」」」」
劉備の発言に、その場にいた張飛・趙雲・馬良・馬謖・糜竺・李厳・李恢・高定・朱褒ら全員が驚愕・動揺する。
ここで劉備から事の経緯が説明された。
南中を支配する孟獲が大病を患う。
南中・南蛮の王である孟獲が病にかかり、南中・南蛮の統治が効かなくなる。 そのため、孟獲に不満を持つ反乱四天王の阿会喃・董茶那・兀突骨・忙牙長と南蛮兵10万が孟獲に反旗を翻す。 それに対抗するため、帯来洞主・金環三結・木鹿大王・朶思大王と南蛮兵10万が孟獲を守りながら応戦する。 本来なら、諸葛亮相手に南蛮兵20万が総力戦で当たり、孟獲が孔明に七回捕まり、七回釈放されることになる。 しかし、今回は時期が早い上、あの孟獲が病気になり、それにより孟獲の家臣や協力者の間で二分する反乱が起きる。 南蛮兵が二分する結果となった。
そこで孟獲の妻である祝融夫人が永昌郡太守の呂凱を通じて劉備に救援を要請した。 ちなみに雍闓・高定・朱褒の三人の反乱と、今回の南蛮で起きた反乱は無関係であり、たまたま同時期に反乱が起きただけなのだ。 そもそも劉備は南蛮反乱四天王の討伐のために出陣したのだ。
それを聞いた高定と朱褒が思わず言葉を失う。
「「………」」
だが…他の者は、どうやらある程度の事情は知ってたようで、たいして驚いた様子はないようだ。
そこで劉備が改めて臣下に指示を出す。
「よし、呂凱は永昌郡太守を引き続き任せる。」
「はっ、かしこまりました。」
「越嶲郡太守は李厳に任せる。」
「はい、お任せください」
「それで牂牁郡太守は李恢に任せる。」
「はっ、判りました。」
「そして建寧郡太守は楊鋒に任せる。」
「はっ、お任せください殿。」
「よいか。 そなたたちは反乱で動揺した四郡の民を安らかにして、よく平定してくれ。」
「「「「ははっ!」」」」
「他の者は南蛮の地に向かうぞ。」
「「「「はっ!」」」」
こうして建寧郡太守を楊鋒に、越嶲郡太守を李厳に、牂牁郡太守を李恢に、それぞれ新たに任命して、引き続き呂凱は永昌郡太守として、あとの劉備軍・蜀軍は南蛮の地・南中に向かった。
【注意事項】
※本来なら雍闓は高定の部下に殺される。
※ここではまだ朱褒は死なない。
※ここでは雍闓と孟獲が無関係とされている。
※本来なら孟獲は病気になっていない。
※本来の楊鋒は孟獲の協力者となるが、孟獲を裏切る。 ここでは既に劉備の家臣となってる。