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【三国志異伝】《唯一無二の計》  作者: 賭博士郎C賢厳
第一章:荊州争奪戦
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新野の戦い:陸

  西暦218年・11月 (建安23年)



 南陽。 遂に曹操率いる30万が樊城に向けて進発する。 司馬懿・程昱・賈詡・劉曄・夏侯惇・夏侯尚・夏侯覇・曹仁・曹洪・曹真・曹彰・徐晃・許褚らが曹操に随行する。 そうそうたるメンバーが揃っていて、まさに総力戦となる。 赤壁以来の大規模な呉との戦闘に、曹操も並々ならぬ想いがあるだろう。 この戦いはただの樊城争奪戦だけではなく、今後を占う戦いになる。 その魏の大軍がまず新野城へ向かう。



 新野。 ここは以前、劉備が守備していた所であり、前に曹操が大軍率いて攻めてきたので、劉備の軍師・諸葛亮孔明が新野を焼いて、劉備軍が逃亡して南下した。 今は魏の領土となる。 魏の30万が新野城一帯に陣を敷く。


 執務室に曹操をはじめ、主だった家臣たちが集まってる。 曹操が席に座って家臣たちが立ってる。


「さて、これから樊城を奪還する訳だが、どの様な策略を用いればよいと思う?」

「はっ、まず樊城から陸遜を引きずり出さなければなりませぬ。 おそらく陸遜は樊城で籠城すると思われます。 それをいかにして城から引きずり出すか……ですか?」

「………」

「なるほど、樊城で籠城戦か…」

「では司馬懿。 そなたはどう思う?」

「はっ、私が陸遜ならまず(きょ)()くでしょうな。 陸遜は籠城せずに、一気に大軍率いて新野まで進軍すると思います。 敵である我が魏軍が遠方より行軍し、いくらか疲労も溜まっております。 おそらく我が軍は新野で休憩すると思い、一気呵成に攻め込むのでありませぬか?」

「なにっ、一気に攻め込む……だと!?」

「あり得ない! ここは籠城戦だ!」

「………」

「何故、一気に攻め込むと思う?」

「はっ、籠城戦の難しさは曹仁将軍も実際に体験しているでしょう? ましてや樊城など大軍で攻め寄せられては守りきれませぬ。 ならば敵の(きょ)()き、一気呵成に攻め立てた方が有利、と思うはず。」

「私も司馬懿殿の意見に賛同します。 実際にあの陸遜と戦った私だからわかるのです。 慎重にして大胆不敵。 迅速にして判断の高さ。 敵を褒めるつもりはありませぬが、まさに見事でした。 あの関羽など比べものになりませぬ。」

「曹仁将軍まで…?」

「なるほど、司馬懿に曹仁……そなたたちは―――」


 曹操が何かを言いかけた時、物見の兵が慌てて駆けつけた。


「申し上げます! 呉の大軍、新野に到着しました!」

「なにっ!!?」

「「「「!!?」」」」

「やはり……」

「速い……!」

「呉の大軍、30万の兵を率いて、孫権・陸遜らが新野の二十里先まで来ております!」

「なんだとっ!!?」

「「「「なっ……!!?」」」」

「「………」」


 司馬懿・曹仁の予想通り、孫権もまた呉の30万の軍勢を率いて樊城より進発する。 陸遜・張昭・程普・呂蒙・諸葛瑾・甘寧・周泰・凌統・韓当・朱然・朱桓・潘璋らが孫権に随行する。 こちらもそうそうたるメンバーが揃っていて、まさに総力戦になる。 赤壁以来の大規模な魏との戦闘に、孫権も並々ならぬ想いがあるだろう。 この戦いはただの樊城争奪戦だけではなく、今後の荊州の行方を占う戦いになる。 その呉の大軍もまた新野城へ向かう。


 呉は新野から約二十里離れた所で陣を敷く。



 物見の兵の報告を聞いた曹操たちが―――


「やはり来たか…」

「今度は孫権直々か…」

「向こうも総力戦ですな…」

「ぬぬぬ、孫権め! 仮にも漢の丞相たる余に楯突く気か? 許さん!」

「………」

「すぐに出陣だ!」

「お待ちください! 我が魏軍も出陣しますと、魏と呉の全面戦争となり、この状況…喜ぶは蜀だけですぞ!」

「バカを申すな! 我が魏軍がこのまま出陣しなければ籠城戦になるぞ! 新野で籠城戦などできる訳がない!」

「なるほど、確かに……」

「…くっ…」

「司馬懿殿は知っていたのか? 孫権が直々に出陣することを?」

「殿が申された通り、新野城で籠城戦は不向き。 あの孔明も新野を焼いて難を(のが)れておりまする。 孫権からしてみれば樊城を主戦場にするより新野を主戦場にした方が有利。 そう思っての事でしょう。」

「我らは後手に回りましたな。」

「これが陸遜という男のやり方か…?」

「とにかく出陣だ! 城外で陣を敷く!」

「「「………」」」


 こうして魏軍も新野城を出て城外十里ほど離れた所に陣を敷く。 てっきり敵は樊城・籠城戦で来ると思ったのに、気づけば自分たちが新野・籠城戦にされそうになった。 完全に後手に回り、マトモに疲れも癒えないまま、城外で陣を敷く。





  西暦218年・12月 (建安23年)



 新野の戦い。 新野の城外十里に陣を敷く魏の曹操軍と新野城二十里に陣を敷く呉の孫権軍。 ここで魏と呉の全面戦争が始まる。


 まず最初に曹操が前に出て、孫権を呼びつける。


「孫権! 孫権はおるか!」


 次に孫権も曹操の呼びつけに応じて前に出る。


「おう、曹操か! 孫権おるぞ!」

「ぬぬぬ、孫権め! 濡須口では世話になったな!」

「別にお前の世話をした覚えはないがな!」

「なんだとっ、よくも余に楯突いたな! そなたも朝敵として処断してくれるわ!」

「言ってくれるわ!

 帝を傀儡とし、朝廷を好き勝手にして、自分に従わぬ者は容赦なく処罰する! その(おこな)い…まさに秦の趙高よな!」

「な、なにっ!!?

 余をあんな宦官と一緒にするか!!?」

「違うのか? 聞いておるぞ!

 皇后さえも誅殺したらしいではないか! まさか…皇后をも殺すとは思わなかったぞ!」

「ぬぬぬ、言ってくれるな…孫権!」

「ワシがお前を処断してくれるわ…曹操!」

「………」

「さっさと荊州から出ていけ!

 荊州は呉の領土ぞ!」

「何故、荊州南部だけで満足せぬ!

 せっかく玄徳から無血・無条件で譲り受けたというのに!」

「………」

「どうした! なんとか申せ!」


 孫権の様子が変わる。 怒りを持ちながらもどこか冷静かつ哀しみで満ち、まるで昔の事を思い出すように神妙な面持ちになる。


「お前に何がわかる…」

「なにっ!?」

「お前に何がわかる…。

 我が父・孫堅はもとは長沙太守だった…。

 我が父・荊州を攻めた時、襄陽で戦死した…。 あの劉表が支配した荊州を…今度は我ら孫家が支配する…。 我が孫家にとっては荊州統一はまさに悲願…。 これで父も兄も浮かばれるというものだ…。

 それがお前にわかるかぁーーっ!!」

「「「「…うっ…うっ…うっ…」」」」


 孫権の言葉に昔の事を思い出したのか、張昭や程普や呂蒙たちがすすり泣く。


「………」


 その様子を不気味に見てる曹操。


 曹操にとって荊州は、あくまで魏の領土拡大と南征のための拠点のひとつにすぎない。 荊州にあそこまでの思い入れはない。 あの孫権の熱血ぶりにさすがの曹操も正直、ちょっと引いてる。 だが…ここで引くわけにはいかない。


「わかっているのか!

 これは玄徳・孔明の策略ぞ! ここで魏と呉を戦わせて、お互いの兵力を削ぎ落とす計略ぞ!」

「否、これは好機よ。 玄徳殿が孫権に荊州を支配せよと荊州南部を与えてくれた好機なのだ! ならばこの好機を(のが)すわけにはいかん! お前がワシの立場なら、みすみす荊州統一を見逃すか? 見よ、玄徳殿のお陰で呉が荊州を支配できたわ! 仮にこれが蜀の策略でも呉には後悔も遺恨もないわ! むしろ満足だ!」

「ぬぬぬ、なんという男だ!

 まるで荊州に取り憑かれておるわ!」

「なんとでも言え!

 我が孫家はまさに荊州に呪われておるのだ!」

「話にならんな。 あの朝敵を斬り殺せ!」

「「「「はっ」」」」

「よし、ここで曹操を荊州から追い出せ!」

「「「「はっ」」」」


 曹操と孫権がそれぞれ号令をかける。

 ここに曹操軍と孫権軍が激突する。

 魏軍30万と呉軍30万が新野の郊外で戦闘を開始する。 この新野の戦いは孫権には絶対に負けられない戦いとなり、曹操も襄陽を失う訳にはいかず、両者が譲らぬ(いくさ)となり、双方互角の戦いを見せる。


 それと夏侯惇と甘寧の勝負も見物(みもの)だ。


「へへへ、あんたが夏侯惇さんかい」

「そういう貴様は何者だ!」

「俺かい? 俺のことより背後に気をつけな!」

「なにっ!?」

「ふん!」


 てっきり夏侯惇と甘寧の一騎討ちかと思ったけど、なんと夏侯惇の背後から周泰が斬りかかる。 一瞬早く気づいた夏侯惇が背後からなんとか回避して、続いて甘寧の攻撃も返す。 さすがは魏の名将夏侯惇だ。


「ちっ!」

「さすがは夏侯惇。 大したもんだ」

「くっ、避けた?」

「おのれ、二人がかりとは!」

「おいおい、俺も()ぜてくれよ!」

「な、なんだとっ!?」


 さらに凌統も加わり、夏侯惇一人に対し、甘寧・周泰・凌統の三人が襲いかかる。 その横で曹仁もどんどんと呉兵を片付ける。


「ちっ!」

「見つけたぞ!」

「いざ尋常に勝負!」

「今度こそ決着をつけてやるぞ!」

「おのれ、呉の将め!」


 今度は曹仁に対し、韓当・朱然・朱桓の三人が相手をする。 これで夏侯惇と曹仁の動きが封じられた。



 それでも夏侯尚・夏侯覇・曹洪・曹真・曹彰・徐晃らが呉兵をどんどんと片付ける。 しかし、いつの間にか魏軍が呉軍の奥深くまで誘い込まれてる。


 ()()()に司馬懿だけが気づく。


「なんだ……この違和感は…?」

「どうした司馬懿?」

「はっ、ご覧ください。

 夏侯惇殿と曹仁殿が敵将に誘い込まれています。

 他の将たちも呉の兵に誘い込まれています。

 これはどういうことでしょう?」

「何っ、誘い込まれている?

 何を言っている?

 我らが押しているのだぞ?」

「………」

「奴らがここに来て、すぐに我らもここに陣を敷いた。 奴らに何か計を仕掛ける時間などなかったはずぞ。」

「しかしながら、ここは一度陣へ退()いて再度態勢を整え、敵の計略の有無を確認してから、また進軍してはいかがでしょうか?」

「今、我らは押している!

 このまま押しきるのだ!」

「………」


 完全に勝ち(いくさ)だと思い込んでる曹操と、何か敵の策略があると見ている司馬懿。 完全に噛み合っていないけど、魏軍が呉軍を押し続ける。


(ふふふ、愚かなり曹操よ。 このまま攻めてくるがいい)


 陸遜軍が極端に()がる。

 また孫権軍も少しずつ後退する。

 夏侯惇軍や曹仁軍をはじめ、他の魏の将の軍も呉兵を殺しながら、どんどんと呉軍を追い詰める。 あともう少しだ。


(ふふふ、いいぞ! あともう少しだ! どんどんと攻めてこい! あともう少しで我が計が発動する!)


 陸遜・孫権が不敵な笑みを浮かべる。

 呉軍が攻め込まれているのに…何故?

 これは明らかに何かの策略か?

 魏の陣営で、ただ一人・司馬懿だけがこの(いくさ)に違和感を持つ。


 すぐに曹操に進言するけど、曹操をはじめ魏の将たちが(いくさ)に夢中で聞こえていないようだ。


「殿。 これは罠ですぞ!」

「それ行けぇ! 一気に叩き潰せぇ!」

「駄目だ……聞こえていない……か?」


 曹操をはじめ魏の将兵がまもなく呉軍の奥深くまで侵入する―――まさにその時だった。


「申し上げます!」


 急報が直接、曹操の(もと)へ行く。


「申し上げます!」

「なんだ? 今、(いくさ)の最中だぞ?」

「はっ、漢中が陥落しました!」

「「「「!!?」」」」

「夏侯淵様と楊修様が蜀の黄忠と厳顔に討たれ、張郃様が蜀の魏延に敗退。 長安まで落ち延びました。」

「………」

「な…なんだと……っ!?」

「そ…そんなバカな……っ!?」

「漢中が……っ!?」

「蜀が深夜に漢中を進攻。 張郃様が夜襲をかけましたが魏延に敗退。 夏侯淵様と楊修様が黄忠・厳顔に射殺されました。 漢中は蜀の大軍に攻められ陥落しました。」

「なんということだ!?」

「そんなことが!?」

「漢中が……落ちた……?」

「……うぅっ!?」


 なんと曹操の様子がおかしい?

 馬上でグラグラ揺れて体調がおかしい?

 漢中や荊州を敵に奪われ、相当にショックを受けたのか?


「「「「!!?」」」」

「……ぐっ!?」


 遂に曹操が馬上から落ちた!

 魏の将兵たちが慌てて、曹操の(もと)へ駆け寄る。 そこに司馬懿・程昱・賈詡・劉曄・夏侯惇・夏侯尚・夏侯覇・曹仁・曹洪・曹真・曹彰・徐晃・許褚らも見聞きして、慌てて曹操の(もと)へ駆け寄る。 その曹操が気絶しており、これでは(いくさ)どころの騒ぎではない。


(…ちっ!)


 しかし、呉軍は攻めてこない。 この好機…一気に孫権・陸遜・甘寧・韓当らが攻勢・反撃してもいいのに、何故か一向に攻めてこないのだ。


(なんだ? 何故、攻めてこない? まるで漢中陥落を知っていたような? まさか…既に呉と蜀は同盟を結んでいる?)


 ()()を見て、すぐに司馬懿が指示を出す。


「全軍撤退! 曹仁殿は南陽の守備に戻り、あとは許昌へ撤退します!」

「「「「……はっ!」」」」

「それでは(それがし)殿(しんがり)をします」

「宜しくお願いします…徐晃殿」

「はっ!」


 兵士たちが曹操を運び出し、魏軍の30万がこのまま許昌へ引き揚げた。 その間も呉軍は追い討ちをせず、そのまま見逃してる。 追撃なしとみた徐晃も許昌へ撤退した。



 その様子を見届けた孫権と陸遜が話し合う。


「殿。 魏が撤退しました。」

「残念だったな陸遜。 そなたの計が発動する寸前で漢中陥落の報告を聞くとは…。 相変わらず悪運の強い男よ。」

「はい、ですが…これで曹操もそう簡単に動けないでしょう。 『過労(かろう)』で倒れてしまっては…」

「…『カロウ』…」

「はい、(ろう)が過ぎると体の調子がおかしくなり、倒れてしまう(やまい)にございます。」

(ろう)が過ぎると…か?

 なるほど、あの男も長い間…戦いの連続だったからな…。 あの歳では疲れるのも無理はない」

「はい、おそらく曹操は永く生きられないでしょう。」

「ふむ。 さて、荊州へ戻るか…陸遜」

「はい、殿」


 こうして呉軍も無事に荊州へ戻った。



 孫権・陸遜らが曹操から荊州を守りきった。

 魏は夏侯淵・楊修が討ち死に。 曹仁は南陽へ撤退。 張郃は長安へ敗走。 楽進・李典・于禁は樊城の地下牢に閉じ込められる。 曹操は過労で意識不明。

 魏は荊州と漢中を失う。


 新野の戦い→魏の敗走により、呉の勝利。



  西暦219年・1月 (建安24年)

 【注意事項】

※魏と呉による『新野の戦い』は実際には存在しない。

※新野郊外で司馬懿と陸遜が対面・対峙することは本来あり得ない。

※呉の孫権の方が魏の曹操よりも荊州に対する歴史が深い。

※陸遜は火計を用意したけど、漢中陥落と曹操過労で魏が撤退したため、実際には披露できていない。

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