黄皓の行動:参
西暦226年・9月 (建興4年)
蜀・成都。 宮殿にて朝廷が行われてた。 皇帝である劉禅が奥の階段上の机・椅子に座り、階段下にいる文官・武官の臣下百官が立ってる。 臣下の中には黄皓&諸葛亮&蔣琬&費禕&董允&楊儀&馬岱&馬謖&鄧芝&姜維&陳祗たちがいて劉禅の方を向いてる。 主に内政・外交・財政などについて話し合う。 ちなみに黄皓には、まだ雑用の身分で爵位・階級などはなく、主に朝廷も一番後ろの方に立ってるだけだ。 まぁ…新入りなので…当然のことだろう。
「……」
この後も朝廷は進み、主に諸葛亮が進行していく。 勿論、蜀に仕官したばかりの黄皓は…ただ見てるだけだ。 新入りの彼には…意見することもできないし、何もすることはないようだ。 彼自身も無駄なことは何も話さず、ずっと黙ってた。 その様子を姜維が見張ってたけど、彼は動かない。
「……」
「……」
やがて…朝廷が終了して、持ち場に戻ることになる。
丞相である諸葛亮や尚書令である蔣琬&費禕たちは、まだ残って皇帝である劉禅と打ち合わせをしてるが…まだ雑用である黄皓は打ち合わせにも参加することはできないため、すぐに退室した。 残念ながら、まだ政治に関わることはできない。 特に諸葛亮が存命中の間は重要な役職・爵位に就くことができない。 退室する彼の姿を姜維が見送ってた。
「……」
「……」
一人、宮殿の廊下を歩く。
その黄皓の背後に漆黒のモヤがかかっていて、まるで影が立って歩いてるように見える。 勿論、他の者には、その漆黒のモヤは見えていない。 前方を歩く彼にも見えていないのだが…何らかの気配は感じてた。
「……」
『クックックッ、カヤの外か…?』
「仕方あるまい。 蜀に仕官して…まだ数ヶ月―――まだ政治の中枢に入るには…時間がかかる…」
『まぁ…確かにそうだな』
「確かに、劉備・関羽・張飛たちは死んだはずだが、まだ諸葛亮・趙雲・魏延たちが残ってる。 それにどういうワケか、あの姜維もいるみたいだしな……今のところは手出しできないだろう?」
『なるほど、さすがの貴様でも手は出せない……か?』
「特に諸葛亮・蔣琬・費禕の三人が生きてる間は……何もできやしないさ…」
『クックックッ、まぁ…そうだな……貴様の今の実力では、到底勝ち目はない……か?』
「……」
『クックックッ……』
「……言いたいことは……それだけか……?
甘玉喪よ」
一見して、独り言に見えるが、彼は声を発していない。
『クックックッ、いいや…違う。 ここからが本番だ』
「……」
『どうやら劉備は貴様のことを知っていたと思われる』
「!」
『貴様の顔も名前も知っていて、皇帝の一人称である《朕》や宦官を禁止したのも……劉備の仕業だよ。 息子や部下共には、貴様のことは周知徹底されていた。 だから貴様の位は低いままだ』
「……ちっ!」
『一体どうやって劉備が貴様のことを知ってたか…よく知らないけど、もしかしたらアイツは…未来を予知できたのでは…ないか? そうでなくては…説明がつかない』
「まさか…劉備玄徳に……そんな力が……?」
『あくまで…仮定の話だ。 実証はできない。 何せ…当の本人はもう既に死んでいるからね…』
「……」
『まぁ…せいぜい気をつけることだな。 いつまでも…のんびりしてると、とんでもない目に遭うぞ。』
「……何ッ!?」
『……忠告はしたぞ。 それじゃあな…』
「……」
そういうと…彼の背後にあった漆黒のモヤが、いつの間にか消えていた。 だがしかし、もともと誰にも…あの漆黒のモヤが見えていないので、別にたいしたことではないようだ。 このまま歩いて宮殿を出ていく。 門番も素通りで、所定の場所へ向かう。
この甘玉喪とは、ある特定の者の背後に漆黒のモヤ―――あるいは黒い影があり、他人には一切見ることができない。 仮に霊能力か…何かの力があったとしても、なかなか見ることができない。 その人自身も背後の漆黒のモヤ―――あるいは黒い影を見ることはできない。 コイツは一体何者なのか…? でも…声だけは黄皓にしか聞こえず、背後に何らかの気配を感じることはできた。 ちなみに彼と漆黒のモヤの関係性は…不明のままだ。
別の塔にある倉庫へ向かう。
その途中にある道の脇に純白の布が風でヒラヒラと舞っており、その純白の布がある道を通り過ぎようとした時、何処からともなく不思議な声が聞こえてきた。 勿論、その声は黄皓にしか聞こえない。
「……」
『……聞こえているか……?』
「ああ、貴様か……伯酸瑁よ」
『今、魏と呉は国力の強化と内政の充実を目指している。 この蜀も同様のことをしている。 だから…しばらく戦は起きない。 本来ならば…この時でも何らかの戦が起きているはずなんだが、どういうワケか…戦は起きていない。 これは…一体どういうことだ…?』
「さぁな?」
『このまま戦も起こらずにいたら、貴様も動きが取れないだろう? おまけに宦官にもなれないから、内政干渉もできないということだ。 貴様もキツイだろう?』
「……」
『―――皇帝にも近づけない…』
「まだ早い」
『?』
一見して、独り言に見えるが、彼は声を発していない。
「貴様たちは何やら急いでいるようだが、まだ諸葛亮もいるし、馬謖・馬岱・関平・姜維たちもいる。 今、動くのは自殺行為だ。 時が来れば……ほとんどの者は死に絶える。 そこから動いても遅くはない。 最終的に蜀を滅ぼせば…それでいいのだからな…」
『じゃあ何か? ここから主力の武将や軍師たちが死ぬまで…貴様は動かないということか?』
「無論、それまでには…ある程度は偉くなっていくが、大々的に動くのは…奴らが死ぬのを待ってからだ。 奴らの寿命は…それほど長くはない。 奴らが死ねば、私も自由に動くことができる。」
『…姜維は生き残るぞ?』
「ふん、諸葛亮や馬謖たちが死んだ後の姜維など…恐るるに足らず。 何も問題ない」
『なるほど、まぁ…貴様がそこまで言うのであれば…問題ないのだろうな…』
「それにしても貴様も心配性だな…伯酸瑁よ」
『ふっ、ただの忠告だよ』
「そうかい? まぁ…いい…」
『それじゃあな。 せいぜい頑張るんだな』
「……」
そういうと…道の脇にあった純白の布が、風に飛ばされて何処かへ消えていった。 だがしかし、もっとも木の枝に引っ掛かっていた…ただの白い布切れが風で飛ばされても、別に誰も気にしない。 このまま歩いていって別の塔の倉庫の中に入っていった。 見張り役も素通りして、所定の場所へ向かう。
この伯酸瑁とは、以前もたびたび登場した得体の知れない化物である。 何しろ…実体がないので攻撃のしようがなく、おまけに相手の精神をも操れるらしい。 普段は純白の布切れなどを媒体として出現するけど、他の者から見れば、ただの白い布切れにしか見えない。 声も黄皓にしか聞こえないので、完全に隠蔽度・隠密性が高い化物である。 コイツも彼との関係性は不明である。
その後で倉庫整理をする。
仕事をそつなくこなしていき、少しでも劉禅の信頼を得ようと苦心・努力する。 それに…どんな小さな仕事でも…達成しなければならない。 そう…蜀を滅ぼすために―――
※[新入りの黄皓は…一番下っ端の雑用係]
【注意事項】
※今回の黄皓の移動範囲。
01.蜀・成都の宮殿→
02. "朝廷見学" →
03.廊下 ━【甘玉喪】出現→
04.別の塔・一番下の倉庫→
05.道の脇 ━【伯酸瑁】出現→
06. "倉庫整理" →
―――以上。




