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【三国志異伝】《唯一無二の計》  作者: 賭博士郎C賢厳
第一章:荊州争奪戦
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孫権の思惑:弐

 西暦218年・2月 (建安23年)



 荊州南部。 ここは主に荊州四郡と呼ばれる所がある。 それが長沙・武陵・桂陽・零陵の四つの郡からなる。 また江陵という所もあり、ここに関羽が守備していた。 他にも江夏や夏口などもあり、これら全て荊州の南側にあるため、荊州南部と呼ばれている。 夏口まで逃げ延びた劉備が赤壁の戦いで曹操を破り、その後で、荊州南部を曹操から奪い取った所。 今現在では、孫権と南部の領有権を主張しあってる所だ。


 今回の計略により、江陵を守備していた関羽をはじめとする蜀軍・荊州兵が撤退したため、この荊州南部は無人状態となり、ここに新たに呉の陸遜が20万の兵を引き連れてやって来た。 それと関羽が設置した狼煙台もそのまま残されてる。 まさに荊州南部が遂に呉のモノとなる。


「………」

「こりゃ驚きましたな。 まさに戦わずして勝つってヤツですかね?」

「別に我々が勝利したワケではあるまい」

「まぁ、そりゃそうですけど…」

「我々は遂にこの地まで来た…それが勝利」

「なるほどねぇ~」

「………」


 随行する甘寧将軍・凌統将軍・周泰将軍らがそれぞれ私語する。 大将軍・陸遜はそれを黙って聞いてる。


 すると陸遜一行の前に、一人の農夫が現れた。


「お待ちしておりました。 陸遜様」

「!? 私のことを知っているのか!?」

「はい、関羽将軍の言伝(ことづ)てを伝えます。」

「えっ、言伝(ことづ)て…?」

「…なんですか?」

「この度、呉と蜀の友好の証として、荊州南部ことごとく呉に差し上げます。 これからも呉の孫権様と蜀の劉備様との同盟関係を末永く続けられます様に宜しくお願いします。 またあの狼煙台は陸遜殿にお譲り致しますので、どうぞご自由にお使い下さい、とのことです。」

「何故、私のことを知っている?」

「それは私にも解りません。 私はただ関羽将軍の言伝(ことづ)てを陸遜様にお伝えする伝令ですから」

「そうか…」


(関羽将軍は既に私のことを知っていた?)


「それでは失礼します。」


 そう言うと、その農夫が陸遜一行を背にして、そのまま歩き去った。 それを見ていた将軍たちが、みな思い思いの事を言ってくる。


「こりゃ絶対に何かの計略ですぜ!」

「私もそう思う。 あまりにも怪しすぎる。」

「これは蜀の策略か…?」

「否、これは好機。」

「「「好機?」」」

「蜀にいかなる策略があるか、私にもよく解らぬが、この荊州南部の平定を急がせて、まだ気づかぬうちに荊州北部の魏に睨みを利かせる…またとない好機。」

「「「おおっ!」」」

「すぐに江陵に向かう!」

「「「はっ!」」」


 大将・陸遜の号令の(もと)、呉の20万の大軍が江陵へ向かった。





 大将・陸遜ら呉が江陵に入ると、すぐに江夏・夏口・公安・長沙・桂陽・武陵・零陵らの地に兵と役人を送り、領民の安定・安全・安心に奔走する。 関羽が連れていった者たちは、各武将とその家族、または蜀軍・荊州兵とその家族だけ。 荊州に暮らす領民は残っているので、その平定を(おこな)うのみ。 普通一般的には(いくさ)で勝利して平定するので、領民も動揺してあまり思うようにいかない場合もある。 しかし、今回は事前に知らせていたらしく、また(いくさ)もしていないので、荊州南部の平定もスムーズに順調に(おこな)われていた。


 陸遜の執務室では、甘寧・凌統・周泰・韓当らの将軍が来ていた。


「どうだ…領民の様子は…?」

「はい、事前に知らせていたらしく、とても順調に安定しております。」

「そうか、劉備殿には感謝せねばならんな」

「全くです。 こちらは楽して平定できますね」

「陸大将、この調子で一気に襄陽侵攻してしまいましょうよ。」

「私もこの機を(のが)さず、一気に襄陽攻略するべき。」

「まぁ待て。 諸将の逸る気持ちはわかるが、まずは殿にお伝えしなければなるまい。 すぐに伝令を飛ばせ。」

「はっ、かしこまりました」


 大将・陸遜は逸る諸将を抑えつつ、まずは荊州南部の平定を呉の孫権に報告する。





 呉。 建業にある孫権の執務室。

 ここには孫権の他に、重臣の張昭、程普、呂蒙、諸葛瑾らがいる。


 陸遜の報告を受けた孫権が驚く。


「何っ、それは本当か!?」

「はっ、荊州南部の平定、順調に進んでおります。

 関羽以下・蜀の武将は白帝城まで()がり、伏兵もございませんでした。」

「………」

「「「………」」」

「また陸遜大将軍は、すぐにでも襄陽侵攻ができるよう出陣の準備を進めております。」

「おおっ!」

「なんと!?」

「……!」

「襄陽へ!?」

「我が呉が襄陽へ攻めるというのか!?」

「スゲエ!」

「よし、ワシもすぐに江陵へ向かうぞ!」

「えっ、殿が江陵へ!?」

「えっ、殿も荊州南部へ行くのですか!?」

「そうだ! 何か文句あるか!」

「いえ………」

「そ、それは……」

「ワシもこの目で確かめねば納得できん!

 すぐに行くぞ!」

「はっ…かしこまりました…」


 目を輝かす孫権がすぐに建業から江陵へ向かう。


 今までは劉備の書簡だけなので、イマイチ半信半疑のところもあったけど、陸遜からの報告で、呉の荊州南部の統治が現実味を帯びてきた。

 これは…もしかして…孫呉長年の夢である "荊州統一" を成し遂げる絶好の機会ではないのか?


 そう思うと、いてもたってもいられない…まるで少年のような孫権であった。





 孫権が荊州南部に到着。 荊州南部を一通り見てきた後に、江陵に入る。 もしかすると、呉の孫権がこんなにも早く江陵に入るなど、歴史上類を見ない出来事かもしれない。 それほどあり得ない事が起きている。 孫権は張昭・程普・呂蒙・諸葛瑾ら重臣を引き連れ、荊州南部を巡察する。


 孫権が早速、陸遜のいる執務室へ行く。


「お待ちしておりました。 殿」

「おう、ご苦労。 陸遜」

「はっ、荊州南部の領民も落ち着いて生活しております。 以前と変わらぬ日常にございます。」

「おう、そうか。 ご苦労」

「はっ、ありがとうございます。」

「ところで陸遜。 このまま一気に襄陽へ攻められるか?」

「やはり殿も、このまま一気に襄陽へ攻められますか?」

「無論じゃ。 このような好機…二度と来ぬ。

 この上は一気に襄陽を攻め立てる。」

「はっ!」

「お待ちください殿!」

「なんだ張昭?」

「まずは南部の安定を重点的に(おこな)い、民が呉の統治に慣れてきてからの方がよろしいのでは?」

「それでは魏の曹仁に気づかれる。 今ならまだ呉の動きに気づいておるまい。 ここで一気に襄陽を攻め、荊州全土を手中にしてから平定しても遅くはあるまい。 この好機…今のみぞ!」

「なっ!?」

「……!」

「むむむっ!」

「陸遜よ。 そなたを大将軍に任ずる。 とりあえず出陣準備は進めておけ」

「ははっ!」


 孫権の命令に陸遜が臣下の礼をとる。

 孫権の迫力に張昭や程普らがタジタジである。

 それほどまでに孫権の荊州統一の並々ならぬ本気と熱意が感じられた。

 また陸遜も仮にこれが蜀の計略だったとしても、孫権同様に荊州統一のまたとない機会を失うわけにはいかず、文官どもの慎重論を無視する。





 襄陽。 荊州北部にある城。 ここを曹仁が守備する。 他にも李典・楽進・于禁といった面々もいる。 江陵は関羽が守備するため、荊州南部を注視するが、その関羽が白帝城まで()がり、しかも今は荊州南部が呉の領地になってることを曹仁はまだ知らない。 関羽に動きなしと見て、今日も夜中まで宴会をしていた。 もっとも関羽は既に荊州にいないので、動きがあるワケない。 そんなことすら知らぬ曹仁が日頃のウサを晴らす意味でも宴会を開催する。


「今夜は無礼講よ。 みな心行くまで飲み明かそうぞ!」

「「「おおっ!」」」


 曹仁の乾杯で、魏の諸将が一斉に酒を飲む。

 最近は朝から宴会をする。

 しばらくして、相当にデキ上がった者たちも出てきた。


「わっはっはっはっはっ、愉快愉快!」

「臆病者の関羽が今頃城の寝室で震えておるわ!」

「関羽など、怖くもなんともないわ!」

「関羽死ね! わっはっはっはっはっ!」

「ついでに曹操も死ね!」

「わっはっはっはっはっ、あの威張り腐った短足野郎がぁ! 何が曹操だ!」

「関羽! 曹操! 恐れるに足らん!」

「…スゲエ!」


 彼らの言ってる事は本音か、それともただの酔っ払いの戯言(たわごと)か…?


「ヒック、みな相当にデキておるな…」

「わっはっはっはっはっ、今夜は無礼講だぁーーっ!」


 もうみな飲みすぎて、その場で寝てしまう者まで出る始末。

 だが…彼らはまだ気づいていない。 自分たちの置かれてる状況を…。 そして気づいた時には、既に手遅れなことも…。 それでも彼らは酔い潰れて眠ってしまうのだ。 あまりバカ騒ぎしてると、呉の陸遜が大軍率いてやって来るぞぉ~。





 数日後。 呉の陸遜が出陣準備を終了させた。

 孫権の号令の(もと)、大将軍・陸遜が20万の兵を引き連れて、襄陽へ向けて進発する。 陸遜の他に甘寧・凌統・周泰・韓当ら将軍も同行する。 孫権は張昭・程普・呂蒙・諸葛瑾らと共に江陵に留まり、凱歌を待つ。 今の襄陽はまったくの手薄。 しかも曹仁もまさか呉が攻めてくるとは、夢にも思わない。 その油断が命取りになる。 朝のうちに出陣し、夕方頃には襄陽の三十里手前まで到着する手筈。 その間、間道には伏兵も置かれず、森林の火計にも遭わず、無事に兵を進める。 そして夕方頃、襄陽の三十里手前に到着。 すぐに陣を敷く。 勿論、曹仁たちは宴会で酔い潰れていて、全く気づかない。 だから城の備え・守備もしていない。 だが…陸遜は慎重だ。 襄陽の目と鼻の先まで来て、城を完全に包囲する。 これで万事うまくいくか?


 【注意事項】

※西暦218年以前には孫権はまだ荊州に来たことがない設定となっている。

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