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【三国志異伝】《唯一無二の計》  作者: 賭博士郎C賢厳
第三章:夷陵の呉蜀会談
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張魯の進軍:弐

  西暦220年・7月 (建安25年)



 南陽。 ここは魏の領土。 少し前までは曹仁が守っていた。 今は曹仁が曹操の葬儀に参加してるため、代わりに張魯が守っている。 張魯の現在の肩書きは鎮南将軍であり、彼には最大五万の軍勢が与えられる。 そこに新たな肩書きが与えられ、それが漢南侯だ。 彼は曹操に仕えて、侯の位にありつけた。 ちなみに彼自身の領土はない。 この南陽の地、彼なら喉から手が出るほど欲しい地だ。 この張魯、実際にはもう既に死んでいるそうだが、まだ生き永らえてる。


 部下には閻圃・楊任・楊白・楊昂などがいて、張魯の執務室にいる。 張衛は曹操との戦いで敗死したため、代わりに楊任が難を逃れて生き永らえてる。 みんなが執務室で、それぞれ仕事してると曹丕の書状が届いた。


 その書状には曹仁が急用にて、南陽に戻れず、しばらくの間、張魯に南陽の守備を任せる。 南陽の太守となって、指揮は張魯に任せる…と書いてあった。 この書状を見た張魯がみんなに意見を求めた。


「曹仁殿が急用で南陽には戻れず、しばらくの間、このワシが南陽の守備を任された。」

「それは良いことです。

 大殿(おおとの)も殿のことを認めてもらえたのでしょう。」

[※大殿(おおとの)→曹丕のこと]

「はい、私もそう思います。

 この南陽の地は古くから重要な地として、様々な偉人・賢人が太守をしてきました。 その太守に殿がおなりになられたことは、大殿(おおとの)が殿を認めたに相違ありませぬ。」

「ふむ、そうか…」

「しかし、曹仁殿は一体何の急用なのでしょうか?」

「おそらく最近呉が力を入れてる合肥攻略のための援軍に曹仁殿が向かったのではありませぬか? 今現在、合肥は張遼殿が守っておりますが、呉も大軍を率いているため、張遼殿だけでは守りきれぬと判断した曹丕様が曹仁殿を援軍に向かわせた、と推測できます。」

「なるほど、確かに合肥は魏と呉、それぞれ重要な拠点ですからな。 呉は荊州も攻め取ったことだし、これで合肥や濡須に力を入れられるということですな。」

「ふむ、曹操殿が死んでも(いくさ)は終わらぬか…」

「魏はあくまでも天下統一を目指しておりますれば、誰に代わったところで何も変わりませぬ。」

「曹丕様もまた天下統一を果たさんとしております。 なんとしても自分の代で、父をも果たせなかった大偉業を果たさんと…」

「ふむ、そうか…」


「話は逸れましたが、南陽の守備を固めますか?」

「その必要はあるまい。

 荊州牧は、あの劉璋だからな。

 小人相手に神経質になることもない。」

「それもそうですな」

「まさか…向こうの方から攻めてくる訳ありませぬからな…」

「………」

「ふむ、そうじゃな。

 まぁ…ワシらは、このまま留守をしておればよいのじゃ。」

「はい、そうですな」

「全く…臆病者の小人を相手にするのは…楽ですな」

「………」


 なにやら閻圃が難しい顔で考え込む。

 ()()を見た張魯が閻圃に質問する。


「どうした…閻圃?」

「いかがでございましょう。

 今のうちに…樊城を取り返すというのは…?」

「何っ!?」

「「「!?」」」

「今の相手は、あの劉璋にございます。

 劉璋の性格からして、まず樊城にはおりますまい。 おそらく安全な襄陽か江陵にでも身を隠しておりましょう。 この(スキ)に樊城を奪回するのです。」

「おお、なんとっ!」

「それはいい考えだ!」

「しかし、勝手な事をしていいのか?」

「はい、殿は鎮南将軍にして、漢南侯の地位にあり、精兵五万の軍勢を与えられております。 それに指揮は殿に任せるとあります。 このまま南陽を守りきればいいのです。」

「まぁ…そうだが…」

「その上で…樊城を奪回したとなれば、殿の評価もウナギ昇りになりましょう。 またこのまま南陽を守ったままでは、たいした評価にならないでしょう。 この樊城の攻略は、殿の評価を分けることになりましょう。」

「ふむ、なるほど。

 あの曹丕様の性格からして、まず功をあげないと、評価されないか…?」

「はい、今後の殿の立場を考えますと、ここで功をあげた方がいいと思います。」

「はい、私もそう思います。」

「………」

「ふむ、なるほど。

 巴蜀の決着をつけてみるか!」

「「「おおっ!」」」

「よし、出陣の準備をせよ!」

「「「はっ!」」」


 張魯の号令の(もと)、部下たちが急いで出陣の準備をする。 まず楊任と楊昂の二人が精兵二万の軍勢を率いて、新野まで進軍する。 その新野に入らず、城外二十里近辺で陣を敷く。





  西暦220年・8月 (建安25年)



 樊城。 ここは呉の領土。 ここに劉璋の部下、張任・冷苞・高沛の三人が守備する。 主君の劉璋は閻圃の読み通り、既に襄陽まで退()いてる。 ちなみに劉璋は孫権から陵北将軍と安落侯の地位を与えられ、呉から精兵五万の軍勢を与えられてる。 彼もまた荊州牧であり、彼の任務はこの荊州を守ること。 また彼自身に領土はない。 そこで臆病者で小人の劉璋は安全な襄陽で身を隠し、最前線の樊城に部下たちを置く。 相変わらずの布陣だ。


 樊城を守備する張任・冷苞・高沛の三人の(もと)に南陽に放った斥候が戻る。 この樊城は精兵一万の軍勢で守られてる。


「申し上げます。

 張魯の配下、楊任・楊昂が二万の軍勢を率いて、新野の城外二十里に陣を敷いております。」

「「何っ!?」」

「遂に来たか……」

「おのれ、張魯め!」

「巴蜀の因縁、忘れてはおるまい!」

「すぐに樊城の守備を強化せよ!」

「はっ!」

「ただちに!」

「おのれ、樊城は渡さんぞ!」


 張魯配下の楊任と楊昂の二人が新野から進軍する。 精兵二万の軍勢が樊城に迫る。 いずれは来るだろうと思ったけど、まさか曹操の死の直後に来るとは予想外であり、張任たちは慌てて樊城の守備を固める。



 楊任・楊昂と二万の軍勢が樊城を包囲する。

 張任・冷苞・高沛と一万の軍勢が樊城で籠城する。

 ここに魏の張魯軍と呉の劉璋軍による樊城をかけた(いくさ)が始まる。





  西暦220年・9月 (建安25年)


 魏・許昌。 曹操の葬儀も一段落ついた。 その時になって、ようやく曹丕も献帝が死んだことを知る。 焦った曹丕が慌てて禁中の皇帝の寝室まで行ったが、もう既に葬儀が終わった後だった。 皇帝の葬儀にしては質素で形式的みたいなものであり、参加者もほぼ身内のみ。 期間も曹操の葬儀の最中に早々と終わらせ、遺体も自身の小さく地味な陵墓に埋葬された。 とても後漢最後の皇帝の葬儀とは思えないほどの簡素で粗末な葬儀だった。 喪主は曹節。 献帝の遺言通り、あの曹丕に気づかれる前に全て終わらせた。 見事な立役者。 悔しがる曹丕が、今度は曹節の(もと)へ向かった。


 不機嫌そうな顔の曹丕が曹節の部屋に入るなり、イキナリ怒鳴りつける。 ちなみに曹節の部屋には、曹節の他に曹華・曹植・曹叡・甄姫もいた。 丁度、今後の事について話し合っていた。


「これは一体どういうことだ!?

 何故、献帝が死んだ!?」

「我が父・曹操が死去すると、途端に献帝も体調を崩され、病状が悪化し、曹操の後を追うように亡くなられました。」

「陛下は "曹操に道連れにされた" と呟いておりました。」

「何っ、葬儀は!?」

「私が取り仕切りました。

 陛下の遺言です。 それに兄様(あにさま)は我が父・曹操の葬儀で忙しそうだったので、こちらの葬儀は速やかに終わらせました。 これも陛下の遺言です。」

「そんなバカな!?

 遺体はどうした!?」

「もう既に陛下の陵墓に埋葬しております。」

「何故、私に声をかけなかった!?」

「一応はかけましたけど、"忙しいから後にしろ" の一点張りだったので、仕方なく……」

「くっ、そういえば……」

「仕方ありませぬ。

 我が父・曹操が亡くなった直後に献帝も亡くなるなど、誰も予想できませぬ。」

「くっ、確かに……」

「………」


 曹丕にしてみれば、喪主となって献帝の葬儀も取り仕切れば、まさしく次期皇帝として、十分な成果と大義名分も立ったけど、そんな事はさせまいと献帝に阻止された。


「そうだ! 伝国の玉璽と遺詔はどうした!?」

「はい、ここにあります。」

「おお、見せよ!」

「はい、判りました。」


 曹節が曹丕に伝国の玉璽と遺詔を手渡した。 曹丕が遺詔を読むと、最後まで読み終わらないうちに、遺詔を床に叩きつけた。 仮にも皇帝の遺詔を地面に叩きつけるとは、不敬・不忠にもほどがある。


「なんだ! この遺詔は!?」

「………」


 遺詔の内容は "朕に後継者がいないため、最後の漢の皇帝の血筋であり、皇叔の劉備玄徳を次期皇帝とする" と書いてあった。


「なんだ! これは!?」

「お忘れですか?

 陛下の身内は我が父・曹操によって処刑されております。 前皇后の処刑の時には、陛下の遺児も一緒に処刑されております。」

「くっ、そ…そうだが…!」

「私も再三諫めたのですが、暗殺未遂で激怒した我が父・曹操を止めることはできず、献帝以外の漢の血筋はおりませぬ。 故に陛下の血筋に一番近いであろう劉備様が、陛下の後継者となったのです。」

「これも全ては、我が父・曹操が撒いた種です。」

「くっ、そ…それは…!」

「既に陛下の遺詔の写しは、蜀と呉にも送られております。 これも陛下の遺言です。」

「何っ、では…禅譲は!?」

「さぁ……?」

「………」


(あらあら、この期に及んで…まだ禅譲とは……。 愚かな兄様(あにさま)だこと……)


 曹丕が床に叩きつけた遺詔を拾い上げ、最後まで読む。 全て曹節たちが言った事が書かれており、()()()を曹節たちは忠実に実行したにすぎない。 やっぱり献帝は最初から曹丕などに後継者にも次期皇帝にも認めないようにしてある。 これでは禅譲などできるはずもない。 これが後漢最後の皇帝・献帝の魏に対する命を懸けた最期の抵抗なのだ。



 その後も興奮気味(ぎみ)に怒鳴りながら質問する兄・曹丕と、素っ気ない顔で淡々と質問に答える妹・曹節と曹華の構図となる。


 【注意事項】

※曹節が献帝は "曹操の道連れとなって死んだ" と言ったが、そもそも何も知らない悪神(アヤカシ)伯酸瑁(ハクサンボウ)については何も話していない。

※献帝に世継ぎも皇太子もいないため、曹丕は禅譲を受けることができない。 また今から皇帝の血筋を探しても、すぐには見つからないほど、曹操が漢の後継者を殺し続けたため、皮肉にも劉備以外に、すぐには見つからない。

※献帝の死は遺詔を通して、劉備や孫権の知るところとなる。 今から曹丕が魏の皇帝を名乗っても、誰にも支持されないということだ。

※どうやら曹節や曹華や曹植や曹叡や甄姫は魏に対してよりも、漢の献帝に対しての忠誠心が高いようだ。

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