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【三国志異伝】《唯一無二の計》  作者: 賭博士郎C賢厳
第一章:荊州争奪戦
1/26

劉備の提案:壱

初の歴史モノに挑戦。


 西暦218年・1月 (建安23年)



 蜀。 ここは211年に劉備玄徳が荊州から進軍し、214年に劉璋から譲り受けた国だ。 そもそも漢中の張魯が蜀へ進軍を開始し、援軍を求めた劉璋が劉備を呼び寄せたのに、家臣たちの讒言に惑わされた暗愚な劉璋が背後から劉備軍を攻撃した。 それに激怒した劉備が漢中攻防から成都侵攻へシフトした。 序盤は優勢だった劉璋軍も、荊州から諸葛亮孔明・張飛・趙雲らの援軍の到着で形勢逆転。 最後まで徹底抗戦していた高沛・張任・冷苞らを敗退させ、援軍に来た馬超・馬岱らも劉備軍に帰順すると劉璋は進退極まって成都の城門を開けて劉備に降伏した。 結局、劉璋は部下たちの諫言に惑わされ続けたまま、蜀を手放したことになる。


 その後は成都で軟禁された劉璋が呉へ逃亡。 劉備は劉璋の亡命を黙認。 その際に劉備は劉璋の見張り役の者たちを咎めなかった。 あとに残る降伏した武将たちを劉備が巧みに働かせた。





 そんなある日のこと。


 劉備は自分の執務室にある机に肘を付きながら考え込む。 諸葛亮が真正面からそれを見て質問する。


 ワシはある計画を頭の中に描き続けていた。

 ()()は何年もかけて構想を練ってきた計画なのだ。


「殿。 何か考え事ですか?」

「ふむ、孔明よ。

 ワシは荊州を放棄しようと考えてる。」

「え?」

「確かに荊州は天下の中心にあり、交通の便も良い。 天下三分の計には荊州という地も必要だろう。」

「はい」

「一方で呉とは荊州を懸けて争い続けている。 ワシは呉とは友好を結びたい。」

「はい」

「そこで蜀が所有する荊州南部ことごとく呉に与え、同盟の契りとしたい。」

「荊州南部ことごとく…ですか?」

「そうだ。 荊州は魏・呉・蜀にとって重要な地だが、荊州南部は蜀が有して荊州北部は魏が有する。 呉はほとんど荊州を取れていない。 その呉に荊州南部を譲渡して蜀と呉の同盟を結びたい。」

「呉との同盟のために荊州南部ことごとく与えるとは、些か釣り合いが取れないと思いますが…?」

「否、釣り合いが取れる。 上手くすれば元が取れてお釣りが来るやもしれん。」

「?」

「それは一体どういう意味ですか?」


 同席していた費禕が質問する。


「ふむ、あの孫権の性格だと、おそらく荊州南部ことごとく平定すると、自然と荊州北部へ侵攻を開始すると思う。」

「「?」」

「!」


 ここで諸葛亮が何かを思いつく。

 一方の蔣琬(しょうえん)費禕(ひい)はまだ疑問符がつく。


「なるほど、孫権が襄陽を守備する曹仁へ総攻撃を仕掛けるのですね? 荊州北部が魏…荊州南部が呉の状況になれば、孫権の性格なら必ず襄陽を攻めて荊州統一を図るはず。」

「「あっ!」」

「ふむ、荊州統一は孫権の…否、孫家の長年の夢。 蜀と同盟関係を築きたい呉にとって、荊州問題は目の上のたんこぶ。 もしそれが無くなれば、孫権は気兼ねなく存分に北進するのではないか?」

「なるほど、荊州を懸けて魏と呉を争わせるのですね? そこで両国の兵力を削ぎ落とすのですね?」

「「おおっ!」」

「ふむ、それだけでも十分な成果だが、仮に孫権が曹仁を(くだ)して荊州全土を手中にしたら、漢中にいる曹操も黙ってはおるまい。」

「「「!」」」


 ここに来て、ようやく諸葛亮・蔣琬・費禕の三人がワシの真意を判りかけてきた。


「それでいかなる計略となりましょう?」

「ふむ、それはな―――」


 諸葛亮の問いに答える。


 これぞ、劉備式 "天下三分の計" になる。


 魏は華北・中原を支配。

 呉は江東・揚州・交趾を支配。

 蜀は西方・益州周辺を支配。


 荊州に関して言えば、北部を魏・南部を蜀が支配。 呉は荊州の重要拠点を支配できていない。


 そこでまず―――


 1.荊州南部ことごとく呉の孫権に譲渡し、交友・同盟を結ぶ。

 2.関羽・関平・周倉・劉封・糜芳ら荊州守備隊を永安・白帝城の守備に回す。

 3.魏延・馬超・馬岱・黄忠・厳顔らを葭萌関の守備に回し、曹操が居なくなったら漢中を攻め落とす。

 4.劉備・張飛・趙雲・馬良・糜竺ら大軍が南中平定に乗り出す。

 5.劉禅・諸葛亮・蔣琬(しょうえん)費禕(ひい)らは成都で留守番。

 6.荊州南部を平定した孫権が必ず襄陽の曹仁を攻める。

 7.荊州を巡って魏と呉が潰し合う。

 8.もし荊州全土が呉のモノになったら、必ず曹操は漢中から許昌へ戻るはず。 勿論、魏の拠点を守るために。

 9.蜀が南中・漢中を手中にしたら、あの魏・呉とも渡り合えるはず。


 見たか、曹操・孫権よ。 ははは―――


「見事な計にございます」

「これは…イケますぞ!」

「…スゲエ!」


 劉備の作戦に感嘆した諸葛亮たちが評価する。


「では早速、各武将に伝令を送り、手筈を整いまする。」

「ふむ、頼むぞ。 孔明…蔣琬・費禕…そなたたちも手筈通りに頼むぞ。」

「「はっ、かしこまりました!」」


 こうして劉備が長年温めてきた計略 "唯一無二の計" が発動する。





 荊州。 ここに関羽をはじめとした関平・周倉・劉封・糜芳・孟達ら蜀の武将が荊州兵・蜀軍を合わせた10万の兵を引き連れ、永安・白帝城へ向かう。 本来なら219年の冬、蜀・関羽が呉・陸遜の計略に討たれ首を斬られるはず。 ここで歴史が大きくズレ始める。 白帝城は蜀・劉備が呉・陸遜との夷陵の戦いに敗れ落ち延びて没した地。 何の因果か、その地を関羽が守備することになる。 もし関羽が殺されなければ、劉備も復讐することもなく、夷陵の戦いも起きない。 それが実現するかもしれない。


「しかし、殿も思いきった事をなさる。 まさか本当に荊州を呉に与えるなど…」

「孫権は前から荊州が欲しかったからな。 すぐに飛びつくだろうけど…」

「ああ、だが…それだけ見返りも大きい。 もし…兄者(劉備)の提言する "唯一無二の計" が本当に炸裂すれば、我々が何もせずとも魏と呉が勝手に荊州を懸けて滅ぼしあう。 その隙に我々は漢中と南中の平定に乗り出す。 最近、南中では謀叛の疑いあり。 もし…兄者が苦戦するようならこの関羽、白帝城からいつでも精兵率いて援軍に送れる。」

「「……」」

「なるほど、さすがは父上。 そこまでお考えとは…」

「ふむ、もし…ワシが援軍に出るようなら、その時は劉封・糜芳・孟達の三人に白帝城の守備をお願いする。」

「はっ、お任せください」

「はっ、かしこまりました」

「はっ、籠城ならば得意にございます」

「ふむ、任せたぞ」


 こうして関羽一行は急ぎ白帝城に入った。





 葭萌関。 漢中と巴・蜀との間にある関所である。 ここに劉備が兵を置き、漢中からの侵攻を食い止める。 この葭萌関に魏延・馬超・馬岱・黄忠・厳顔ら主だった武将が配置されてる。 今は曹操が漢中平定のため留まっているが、もし居なくなれば、いつでも漢中へ侵攻できるように準備が進められており、曹操もすぐにこの地を離れることができないでいる。 そのまま魏・蜀両軍が睨みを利かせていた。


 そんなある日のこと、魏延の執務室に馬超や黄忠らが来ていた。


「お聞きになりましたか、魏延将軍。 蜀は荊州を呉に譲渡したそうな?」

「ああ、聞いている。 呉はすぐにでも荊州南部に兵や役人を送るだろう。 そして呉が荊州南部の平定を速やかに終わらせて、すぐにでも荊州北部へ侵攻を開始するだろう。」

「………」

「すぐに動くでしょうか?」

「動くな。 ワシの見立てでは殿と同様、孫呉は荊州統一を夢見てきた。 今までは荊州南部を蜀に()られていたので、いかなる計略をもって荊州南部を奪還するか検討中だったが、それが無くなった。 呉は魏に対して兵を送るに何の躊躇(ためら)いもない。 しかも、今なら襄陽の曹仁に気づかれずに包囲できるはず。」

「………」

「そ、それは……」

「もし仮に荊州全土が呉のモノになったら、漢中にいる曹操とて黙ってはおるまい。 すぐにでも許昌へ帰還するはず。 その隙に我々が漢中を攻め落とすのだ。」

「………」

「うまくいくでしょうか?」

「わからん。 だが…ワシらは、その時が来るまで準備を進めるだけよ。」

「………」

「なるほど、確かに……」

「ん? どうした馬超将軍?」

「…スゲエ!」


 葭萌関を守備する魏延たちも(きた)るべき時に備えて着々と出陣準備を進めており、蜀軍10万の兵士が関所に集結する。






 呉。 江東一帯を支配する一大国であり、長江流域の東側の広大な土地を有している。 現在では、孫権が主君として、この地を治めている。 父・孫堅の代から兄・孫策の代を経て、孫家三代目の統治となる。 その孫呉にとって荊州統一はいわば悲願。 今でも虎視眈々と荊州南部の奪還を模索している最中、劉備から不思議な書状が届いた。


 孫権の執務室にて、重臣一同が同席する中、孫権が口を開いた。


「この書状には荊州南部ことごとく呉の孫権殿にお譲りする、とある。 既に荊州を守備する関羽たち蜀軍も白帝城まで引き揚げたそうだ。 皆の者、これをどう思う?」


 話を聞いた張昭や程普らが進言する。


「これは罠ですぞ!

 殿、仮に荊州へ赴くならば、たちどころに孔明の策にかかりましょう。」

「左様。 おびき寄せて伏兵をもって、我が軍を撃退するつもりです。」

「待て! 蜀は呉と同盟を結びたがっている。 もし仮に蜀と呉が争えば喜ぶのは…魏のみ。 あの孔明がそのような姑息な手段で、我が軍を撃退するのか?」

「「………」」

「左様。 できればやり過ごすでしょうな。 争わずして荊州を()るのが、あの孔明のやりそうな計略。 わざわざ兵を率いて呉を欺く意味がありませぬ。」

「では、()()は一体どういう意味だ?」

「「………」」

「陸遜、そなたはどう思う?」

「計略か伏兵かは解りません。 しかしながら、これは好機と存じます。」

「……好機?」

「はっ、劉備からの荊州譲渡で、我が軍は荊州へ動かすことができます。 仮にどこかで伏兵あれば兵を退()き、あとで劉備に詰問できます。 もし仮にその書状の内容が本当だった場合、役人を送らなかった我々は荊州譲渡を放棄したとみなされ、あとで何を言われても言い訳できません。 また今、荊州南部が(から)だとすると、襄陽の曹仁が南部も平定する恐れもあります。 急ぎ役人と兵を荊州南部に派遣するべきです。」

「「………」」

「ふむ、よし陸遜よ。 そなたに荊州南部平定の指揮を任せる。 そなたは急ぎ役人と兵を南部に送るのだ。」

「ははっ、お任せください!」


 こうして陸遜は執務室をあとにした。

 その後、呉軍20万と役人たちを引き連れて、大将・陸遜が荊州南部へ向かった。




 【注意事項】

※曹操が "漢中の張魯" を攻めた時期が西暦217年以前という設定になる。

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