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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
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EP99:清丸の事件簿「底闇の灯火(そこやみのともしび)」 その2

兄さまは何でもないという顔で

「例え全員が悪人でもそんなに多くの人が失踪してたら大事(おおごと)になってるはずだから出口が別にあるんだろう。」

・・・まぁそう考えるのが普通だけど。

それにしても『井戸占い』って初めて聞いたわ!覗きこむと何があるっていうのかしら?『辻占い』なんて『夕方に辻(交叉点)に立って、通りすがりの人々が話す言葉の内容を元に占うもの』だから解釈は自分で何とでもできるんでしょ?例えば、仕事運を占ってほしい人が辻占いをして、通りすがりの人が『雨が降りそうですね』といえば『先行きが暗い』ってこと?傘を作る商売なら先行きが明るいとか解釈次第でどうにでもなるわよね~~。まぁだから自分で運命を制御(コントロール)できてる感が残されてて(へこ)まずに済むのよね占いって、多分。

 ぼんやりと見るともなしに目の前の小路(こうじ)を通り過ぎる糸毛車(いとげのくるま)(色糸で車箱を飾る牛車)を見てると、糸毛車(いとげのくるま)が道の凸凹(でこぼこ)(かし)いだはずみで(すだれ)が揺れて浮き、車の中の人物と目が合った。

一瞬の出来事なのに、目に焼き付いたその姿は三十前半くらいの臈長(ろうた)けた女性で、上品な桜色の小袿(こうちぎ)が下に重ねた濃い緋色の表衣(うわぎ)と濃紺の(はかま)の強い色合いを見事に封じ調和していて、穏やかで柔和な女性の表情の下にも、実は濃い緋色に燃えた情念が押し隠されているのかもしれないと感じさせた。

その女性は私よりも小柄に見え、瞳が大きく小さな赤い唇と白い顔はどことなく私に似てるかも?と思った。

兄さまにも彼女が見えたかしら?と表情を(うかが)うと、過ぎ去っていく車をビックリしたように見送っていたので、『アレ?』と思って

「中の女性が少し見えたわよね?お知り合いでしたの?」

と聞くと、躊躇(ためら)いがちに私の目をチラチラと横目で盗み見して

「ああ、ええと・・・その・・・正室(つま)廉子(やすこ)だ。」

私はハッとして兄さまは他の女性(ひと)の正式な夫であることを改めて思い知らされた。

堀河邸に行ったことはあっても、ただの侍女という身分だし北の方にお目通りする必要もなかったから顔も知らなかったけど、初めて見る兄さまのご正室は皇族の方でもあり、やっぱり想像通り上品でおっとりとした穏やかそうな方だった。

思ったより小さく可愛らしかったのは想像とは違ったけど。

兄さまと関係のある、私が知っている女性たちの中で唯一女性的魅力(グラマラス)を強調してない人だった。

確か関白基経殿(ちちぎみ)の命で婚姻されたということだから、唯一兄さまが選んだわけじゃなかったのね。

それにしても・・・と気になって

「あの方って少し私に似ていない?」

と聞くと兄さまは焦って

「あ~~。うん。そうかもね。年は大分(だいぶ)上だけど。廉子(やすこ)の方が。」

似てるからってどうってわけじゃないけど、なぜか一番モヤモヤとした嫉妬心を廉子(やすこ)様におぼえた。

一番に兄さまの妻になり、子供を産んだ数も三人と一番多いということはやっぱり一番愛されている証拠だなぁと。

まさか最大の恋敵(ライバル)がご正室だったなんて!どうやっても戦いようがない!既に負けてる気がする!

「はぁ~~~~~~~」

と長いため息をついて落ち込んでいると兄さまが低い声でボソリと

堀河邸(いえ)に帰ることがめっきり少なくなってるから、きっと怒ってるだろうな。」

意外だなと思って

「穏やかそうな方に見えたけど怒ったら怖いの?」

兄さまは頬をポリポリと()いて

「いや、面と向かっては何も言わない。いつも穏やかでおっとりとした上品な人なんだけど、きっと(かげ)では子供たちとか使用人相手に私の愚痴(ぐち)をこぼしているだろう。または一人で泣いて誰かに(なぐさ)められるのを待ってるかだな。自尊心(プライド)の高い人だから私に向かって絶対に情けを()うたり恨み(ごと)を言ったりはしない。だけど、屋敷の人間全員が彼女の味方になるように同情を誘って操っているかもしれないな。」

ふうん。兄さまの北の方たちはどちらも策士(さくし)で自力で周囲を操作して住みやすい環境を整えているのね!それはそれで偉いなぁと思ったけど、そんなに大変な妻たちがいるのに兄さまはよくも()りずに宮中の女房と遊び続けたなぁと少し感心したので

「兄さまの好色(あそび)()ぎたときはどうしてらっしゃったの?屋敷に帰ると針の(むしろ)だった?遠回しにそれとなく嫌味を言われるとか?」

兄さまは急に真剣な表情になり

「いや。そのときは廉子(やすこ)も遊びだって気づいていたから本当に怒ってはいなかった。私もちゃんと堀河邸に帰っていたしね。むしろ今の方が大変なんだ。」

と言うなり私をジッと見つめるので『な、何?私のせい?』と(あせ)って

「何かあったの?」

兄さまはウンと頷いて

「実は・・・」

と話し始めた。

(その3へつづく)

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