EP97:清丸の事件簿「不壊の金剛心(ふえのこんごうしん)」 その6
忠平様が帰った後、私は几帳の蔭からソロソロと出て行って兄さまの前に座りウ~~ンと頭を掻いて今聞いたことをまとめながら
「つまり、あの白牡丹の文箱の中身は霊峰である伊吹山から石材を内密に採掘しようと忠平様が中納言様に呼びかけた書類だったの?」
兄さまがニコニコして『ウン』と頷いた。
「で、伊吹山を先に調査して見張りをつけて採掘を阻止して、備後国の島で石材がとれるかも調べて忠平様に勧めて納得させたの?」
兄さまが私の目を見つめながらまた『ウン』と頷いた。
「そのために寺院建立の専門的な知識を身に着けて、貴族からの相談も受けてここ三か月間、忙しかったというワケ?」
兄さまがジッと微動だにせず目を見つめるので少し照れくさくなって顔が熱くなった。
「冷静な判断力を失い、もう少しで浄見を上皇に奪われるところだったから、戒めとして全てが終わるまで浄見に会わないことにした。四郎もあきらめたからもう安心だ。」
私はさっきの忠平様の悪口を思い出し
「だからはじめっから罠だったのよ!私を本気で側室にする気なんてサラッサラなかったのに、兄さまが怒ってあんなことするから・・・・」
と言いかけてまた蒸し返して同じことになったら大変!と黙った。
兄さまが頬に触り
「四郎は私に似てイイ男だしモテるから余計に心配になった。」
は?自分で言う?それに『色気のない痩せた餓鬼』って悪口にも全然怒ってくれないし、何?会わない間に私のことを悪く言われても何とも思わなくなったってこと?と不満。
だけどやっと一緒にいられるのね!とテンションが上がって子供がお菓子をねだるように甘えて口をとがらせ
「宮中ではもう兄さまは伊予を捨てたことになってるけどどうする?その噂は?大納言様は伊予に飽きたの?」
兄さまは頬や耳に指を這わせて見つめるだけで一向に口づけしようとしないのでヤキモキしてると
「伊予はどうなの?大納言をまだ好き?ずっと無視されたのに?」
と真剣な目で口元だけ笑みを浮かべて聞くので素直に認めるのも悔しくなって
「そうね。有馬さんたちからも同情されて優しくされて過ごしやすいからずっとこのままでもいいかも。」
と上目づかいで兄さまを見ると困った顔で
「じゃあ今後はずっとこの屋敷でしか浄見に触れないの?宮中では無関係のフリをするの?」
とため息をつく。
このままじゃそれを受け入れそうなので
「いいえ。ヨリを戻したって噂を広めて宮中でも仲良くする!」
と言いながら膝立ちになって兄さまの首に腕を回して唇に口づけると、私の背中を抱き寄せ約三か月ぶりにしっかりと想いを伝え合った。
感覚が無くなった指先じゅうに血が脈々と通い始め肉体が生き返ったかのように身も心も幸福に満たされた。
唇を離してふぅと吐息をはきながら
「これからもすぐに怒って心変わりしたりする?」
と呟くと兄さまが驚いて
「何を言ってる?あのまま別れてしまうとでも思ったのか?『しばらく離れる』といったじゃないか!『妻にするのを先延ばしに』と。まさか浄見を手放すとでも?」
私は『ずっと悩んでた人の気も知らないで!』と腹が立って
「だって!三か月近く無視されれば捨てられたと思うでしょフツー!」
兄さまが私をグイッと引き寄せ胸に抱きしめ耳元で
「手放すわけがない。私が唯一自分に誇れるものがあるとすれば、金剛石のようなこの想いだけなんだ。」
とささやいた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
金剛石とはダイヤモンドの事らしいです。
時平と浄見の物語は「本編・番外編」に書いております。