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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
94/461

EP94:清丸の事件簿「不壊の金剛心(ふえのこんごうしん)」 その3

必死に抵抗していると、兄さまが素早く立ち上がり忠平(ただひら)様の胸ぐらをつかんで私から引き()がし、そのまま後ろに突き飛ばした。

忠平(ただひら)様は尻餅(しりもち)をつき

「痛ってぇ~~~~!やっぱりこいつが兄上の弱点なんだな!よくわかったよ。これからは存分に利用させてもらおう。」

と腰をさすりながら立ち上がってニヤリと笑った。

「やってみろ!その時は死ぬ覚悟をしろよっ!早く出ていけっ!」

と兄さまは怒りを込めて吐き捨てた。


 忠平(ただひら)様が帰って二人きりになると私は我慢できずに

「どうして受け流さなかったの?あんなに必死になれば何かあると思われても仕方ないわ!」

と兄さまの袖を引っ張りながら訴えると兄さまは私をじっと見て驚いた顔で

「冷静になれと?あいつの側室になりたいのか?」

私はブンブンと首を横に振り

「違うわ!あんなのウソだもの!兄さまを怒らせて私との関係を吐かせるために言っただけよ!そんな作戦に乗るなんていつも冷静な兄さまらしくないわ!」

兄さまはまだ怒りがおさまらない表情で

「いつもの私?の何を知ってる?浄見は何も知らないだろっ!今までどれだけ苦労してここまでたどり着いたかっ!どれだけ苦しんで今に至ったかをっ!あんなやつに簡単に奪われるワケにはいかないっ!」

「だからでしょ?一時の怒りで我を忘れてしまえば今までのことが全部無駄になるわっ!上皇(とうさま)にだってバレるかもしれない!私が連れ戻されてもいいの?」

兄さまがハッと気づいて愕然(がくぜん)とした。

操り手のいない傀儡(くぐつ)のようにしばらくそのまま固まったあと、私から目を逸らし、宙を見つめ

「浄見・・・このままじゃダメだ。・・・一度距離を置こう。妻にする話も先延ばしにしてくれ。大納言邸(うち)にも当分来ないでくれ。しばらく・・・・会わずにいたい。」

はぁっ?なぜそーなるの?と急展開に驚きすぎて

「どうして?別れたいの?もう嫌いになったの?私が別の人と結婚してもいいのっ?宮中で他の男の人と遊んでも気にならないのっ?!」

と必死に腕にしがみついてまくし立てたけど、兄さまは私の手をゆっくりと振りほどき石のように硬い怖い顔をして立ち去った。

・・・今度は私が冷静でいられなくなり、イライラと歩き回って考えているうちに涙がボロボロとこぼれた。

『距離を置く』ってどういう意味?『しばらく』っていつまで?私に会えなくても平気なの?もう終わりなの?

そこへ

若殿(わかとの)備後(びんご)国の瀬戸内の島で産出の有無を確認する作業はどうしますか?」

と竹丸が話しながら入ってきて私が泣いてるのを見てビックリして

「あれ?宇多帝の姫だけですか?若殿(わかとの)はどこへ行ったんですか?え?もしかして、泣いてます?ケンカでもしたんですか?」

気配り(デリカシー)のカケラもないことを言った。

「もうっ!どうでもいいでしょっ!早く出て行ってよっ!」

と鼻を(すす)りながら怒鳴るとペコリと頭を下げちょっと気にしながら出て行った。


 それ以降、宮中に戻っても兄さまは私を訪ねてこなくなり、帝のお(とも)雷鳴(らいめい)壺に来ることもなくなった。

もちろん文も届かないし。

一か月ぐらいはまだ『しばらく』会えないだけだと思ってた。

二か月も過ぎようという頃、いよいよもうこのまま何も関係がなかったころに戻るんじゃないか?と思い始めた。

この二か月の間、私はできるだけ平静を装い、周囲にも

「大納言様はお忙しくて会う(ひま)がないだけなの。今だけ、ちょっとね。」

とかごまかしていたけど、同僚の女房たちもそろそろ私たちの関係を疑いだした。

ヒソヒソと私たちがずっと会ってないという噂話で盛り上がり、

『やっぱりね~~伊予のことも遊びだったのねぇ』

とか

『伊予は子供だから満足にお相手できなかったのよ。ほら、だってあの子ってまだ・・・でしょ?』

みたいな。

聞こえないフリも限界に達したころ私が髪を()かしていると(もみじ)更衣が

「このごろお義兄(にい)様と会っていないみたいね?どうしたの?」

と何気なく聞くので、今まで我慢していた涙があふれてボロボロとこぼしながら

「更衣様?私どうしたらいいの?兄さまに嫌われたみたいなんです。」

(もみじ)更衣は驚いて振り向き

「何があったの?」

私は今までの経緯(いきさつ)を話し、どうすればいいかを相談した。

「帝が仰ってたのだけど、最近、大納言様はいろんな貴族から寺院建立について相談を持ち掛けられてお忙しいそうよ。ほら、富裕な貴族の間で寺院を建てるのが流行っているでしょう?大納言様がお詳しいとのことでみんな話を聞こうとなさるようよ。だから本当に会う(ひま)がないのかも!ね?気にしないほうがいいわ!」

(もみじ)更衣が慰めてくれるけど、私は

「でも『しばらく』が長すぎると思いません?きっともう私に飽きたんです。一時の遊びだったんです。そう考えた方が気が楽だし、別の男性を探せます。・・・・ッズッ」

と鼻を(すす)りながら悔しすぎて自分が情けなくなった。

(もみじ)更衣は慌てて

「でも、まだわからないわ!だってお義兄様が寵愛している次の女房の話を聞かないもの!きっと伊予に飽きてなんかいないわ!そうよ!昔の恋人とヨリを戻した話も聞かないし、本当に忙しいだけよ!」

「でも、有馬さんも他の女房たちも急にやさしくなったんです。お菓子をくれたり、元気出してと言われたり。みんな私たちが別れたと思って気を使ってるんです。それも悔しくて悲しくて・・・・」

とまた新たにボロボロと涙があふれた。

(その4へつづく)


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