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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
87/461

EP87:清丸の事件簿「白牡丹の文箱(ふかみぐさのふばこ)」 その1

【あらすじ:時平様の『不愛想で傲慢』という噂とは正反対の『謙虚でいい人』と噂の弟君・忠平様に目をつけられた私は、噂からは想像できない仕打ちを受けた。やり返さないとこのままでは舐められて自分の身が危ない!ので私なりの仕返しを用意した。細工は流々・・・だけどあとは仕上げを御覧じろ!と上手くいくかはわからない。温厚な私も『幸せな将来』の危機には息を撒く!】

今は、899年、時の帝は醍醐天皇。

私・浄見と『兄さま』こと藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。

私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。

何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。

 ある日いつものように大納言(にいさま)邸に里帰りし侍女として昼餉(ひるげ)の膳を下げようと廊下を渡っていると竹丸が走り寄ってきてコソっと耳打ちした。

「伊予、若殿(わかとの)の弟君の忠平(ただひら)様が、東の(たい)に来るようにとおっしゃっている。」

・・・誰?が何の用なの?といぶかった。

兄さまに弟妹がたくさんいるのは知ってたけど、特に仲のいい人はいないはずだと勝手に思ってた。

「今すぐなの?兄さまが朝政(あさまつりごと)から帰ってきてからではダメなの?」

竹丸は肩をすくめ

忠平(ただひら)様に今すぐあの侍女を呼んで来いっ!と命じられただけで、詳しいことはわからないよ。」

他人事(ひとごと)を決め込む。

竹丸は幼いころからの兄さまの腹心の侍従で私と兄さまの関係も知ってるはずだから、そんな命令ごまかそうとすればできたはずなのに、なぜ?と不審に思って

「もしかして、菓子か銭を忠平(ただひら)様に握らされた?で、断り切れなかったの?」

竹丸が目を泳がせ口をとがらせ

「さ、さぁ?・・・いいじゃないですか!お話があるだけですよ。多分。昼間っから無体(むたい)なことはしないって、さすがに。常識はおありになる方だから。」

『常識は』、て何よ!何がないのよ!思いやり?倫理観?

渋々東の(たい)に出かけると忠平(ただひら)様がウロウロと歩き回って待っていて

「あぁ!お前だよ!伊予というのか?さぁさぁそこに座ってくれ」

と自分と対面して座るように指さした。

忠平(ただひら)様は兄さまに顔は似ているけど目元の彫りが少し深く、兄さまよりもっと思慮深そうに見える。

確か今年十九で従四位下で備後(びんご)権守(ごんのかみ)で宇多上皇の侍従を(つと)める弟君と竹丸が言ってたから出世コースに乗ってる人ね。

昇殿(しょうでん)は許されている身分だけど、上皇の侍従を(つと)めているせいか、宮中で会ったことは一度もなかったし、大納言邸でも今日が初めて。

一応竹丸にもついてきてもらって、後ろに座ってもらい、忠平(ただひら)様と対面して座り、扇で顔を隠しながら話を待っていると

「お前、まさか兄上の手が付いてはいまいな?」

といきなり不躾(ぶしつけ)かつ下品な質問をされたので、知的かつ上品に『まだふみもみず』みたいな掛詞(かけことば)とか使ってお洒落(シャレ)に返そうかと思ったけど、焦りすぎ恥ずかしすぎて

「そっ!そんなわけないでしょっ!」

といたってフツーにため(グチ)で答えてしまった。

まぁお洒落(シャレ)に返そうとしてもな~~んにも思いつかないのだけど。

忠平(ただひら)様はニヤニヤと()み手しながら

「よぉ~~し。それはいいぞ!上皇の好みにピッタリだ!」

と一人で喜んでる。

後ろにいる竹丸がちょっと焦って

「あの~~四郎(しろう)様。伊予は『まだ』お手はついていませんが、『つく予定』ですから早とちりなさらないよう・・・」

と言うので『つく予定』もなんかイヤね!兄さまったらそんなことまで竹丸に話してるの?と思っていると忠平(ただひら)様は

「いやいや!そんなことはどうでもいい。今、兄上とそういう関係でなければいいんだ!お前!伊予、今すぐ堀河の屋敷にくるんだ。お前にお使いに行ってほしい、上皇様に届けてほしいものがあるんだ。」

私と竹丸はハッと息を飲み、私はガバっと()()して頭を下げ

「そっ、それだけはお許しください!わたくしは上皇様にお会いすることはできないのです。」

と口にしながら言い訳を考えようと焦っていると竹丸が後ろから

「じ、実は伊予の父親が、え~~その昔、上皇様にえ~~無礼を働きまして、え~~と、一族もろとも二度と目の前に姿をみせるな!と厳しく叱責(しっせき)されたのです。」

忠平(ただひら)様は疑わしそうに竹丸を見て

「本当か?伊予の顔を見て娘だと分かるほどご不興(ふきょう)を買ったのか?なら仕方ないな。でも・・・・」

思案顔(しあんがお)になり

「まぁいい。じゃあ堀河邸(うち)にきて義姉(あね)上への贈り物を持って帰ってくれ。」

私は宇多上皇(父さま)に会わずに済んだことにホッとして思わず。

「はい。それなら。」

と頷いてしまった。

宇多上皇(父さま)は屋敷を逃げ出す原因にもなった方だけど、赤子の頃から名目上育ててくれた恩があるので、会えば絶対連れ戻されてしまう気がする。

幼いころはたまに屋敷にやってきて、『元気か?』とか『ちゃんと行儀や琴といった女子(おなご)(たしな)みは勉強しているか?』とか型どおりのことを質問するので『はい』とか『父さまのおかげです』とかテキトーに答えていれば満足して帰っていくので、あんなことをされるまでは特に何の感情もわかなかったけど、あの事件の後は思い出すだけでも嫌な気持ちになる。

でも、きっとワケがあって母さまが育てられないから、その代わりに父さまが十五の年まで育ててくれたので嫌いにはなりきれないし屋敷に戻れと言われれば断りきれないかもしれない。

私が父さまに育てられることになった経緯(いきさつ)を兄さまに聞いても『知らないほうがいい』とはぐらかされる。


 竹丸も一緒に、兄さまの本邸である堀河邸に向かった。

堀河邸は兄さまの育った実家でもあり今は正室の廉子(やすこ)女王が北の方として、妹君たちとまだ結婚していない弟君たちが住んでいる。

その道中、最近兄さまと忠平(ただひら)様の間で起こった出来事を竹丸が話してくれた。


竹丸いわく


**********

(その2へつづく)

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