EP81:清丸の事件簿「金鷲の舞姫(きんしゅうのまいひめ)」 その6
「この男は先ほど安倍和好の屋敷に向かう途中の大舎人を襲って砂金を強奪しようとした犯人です。お前はどこの使用人だ?主は誰だ?」
一人の男がうつむいてぼそりと
「主は安倍和好です。安倍和好の命令でやりました。」
と隣で縛られている安倍和好をあごで指しながら言うと、安倍和好は怒った顔で白状した男をにらみつけていた。
えぇ?!どういうこと?と私が驚いていると兄さまは
「そもそも配達される日を知らなければ強奪もできない。清原祥有と安倍和好は示し合わせて強奪されたことにすれば自分たちは疑われないと策を練ったようですが、私は嘘の砂金の貢納物の話で犯人をおびき寄せ、配達途中に強奪させ、犯人たちの跡をつけたのです。先日の刀と武具も安倍和好が都のはずれに借りた敷地の倉庫にありました。
証拠として強奪犯人の一味である安倍和好の侍従を連れてきたというわけです。たとえ清原祥有と安倍和好が正式に申請しても異常な数では朝廷は許可しない。だから大蔵卿を抱き込んだんですね。」
と大蔵卿を見ると震え上がっていた。
兄さまが大蔵卿に向かって怖い顔で
「あなたは自分が何をしたかわかっていますか?安倍和好と温禰胡姫たちが何を企んでいたか知っていますか?」
帝がビックリして慌てて
「えっ?どういうことだ?温禰胡姫が関係あるのか?」
兄さまが頷いて、
「安倍和好が温禰胡姫一行に宿を貸し、温禰胡姫を帝に近づけ、宮中や図書寮、大蔵、穀倉院や近衛府の位置や人数などの内部情報を探らせ、刀や武具を調達することに何の意味があると思いますか?」
帝が少し考え
「もしかして、む、謀反か?なぜ?安倍和好がそんなことを企む?何か朕に恨みがあるのか?大蔵卿もか?」
と慌てて大蔵卿を見ると、大蔵卿は大慌てでブンブンと首がちぎれるくらい横にふり
「いいえっ!私は決して謀反など知りません!私はただ、安倍和好から砂金を大量に贈られて、しぶしぶ協力しただけで、む、謀反のたくらみなど、け、決して知りません!」
と唾を飛ばして全力で否定した。
私は大蔵卿の金ピカ豪邸を思い出して、確かにどんな計画にもホイホイ加担しそうなくらい黄金への執着は大したもんだったなぁと思った。
兄さまは庭に縄をかけられて立たされている安倍和好に向かって
「本当はお前も協力者だろう?謀反を企んだ首謀者は温禰胡姫だな?」
えぇ?なぜあの美貌の旅芸人が謀反を企むの?金子をいくらでも出して生活を保障したい!という金持ち貴族はいくらでも湧いて出そうなのに?!と疑問。
なので思わず
「なぜ?彼女が?帝に恨みがあるの?」
兄さまはニッコリ笑って
「彼女が蝦夷の女性と元・陸奥守の娘だからだ。蝦夷の反乱が各地で、特に陸奥国や出羽国で頻繁に起こっているのを知っているだろう?彼らは朝廷にあるときは懐柔されたり征服されているが、いつだって同化に賛成はしない。いつでも機会があれば朝廷を滅ぼそうとするだろう。
温禰胡姫の衣の模様は蝦夷独特のものだ。毛皮や羽をつかった持ち物もそうだ。彼女と仲間の蝦夷は出羽国で起こした『元慶の乱』を都で再現しようとしたのではないか?あの乱では蝦夷の要求がある程度実現したらしいからな。
温禰胡姫の計画は、まず舞や麻薬性の香で帝を虜にし、書庫に自由に立ち入る許可を得ることで、大内裏や都の重要拠点の地図を得た。清原祥有と安倍和好から調達した武器と刀を蝦夷の仲間に与え、都で反乱を起こす計画だった。」
国境を蝦夷の領地と接している陸奥国や出羽国は蝦夷と交易が盛んで人々の交流も盛んだろうことは私にも容易に想像できた。
安倍和好は蝦夷と結んで砂金を手に入れ大蔵卿を篭絡したのね。
温禰胡姫の象牙のような美しい肌も、彫りの深い顔立ちも自由で躍動的な踊りも、すべて異国風であることに納得。
蝦夷の人々が朝廷に完全に飲み込まれることなく自分たちの民族の誇りを大事にしている事もすごいと思った。
あんな風に毅然と美しくいられる人々と仲良く暮らしたいと思った。
後日、温禰胡姫一行は全て捕らえられたが、まだ謀反を行動に移してもいなかったので、獄につながれることはなく、蝦夷の領地へ送り返されただけだった。
安倍和好は官位を奪われ、大蔵卿と清原祥有は降格と減俸処分になり出世は難しくなった。
兄さまは謀反の計画に気づいた日に衛府や兵部省に報告し、警備を万全にするため門の衛士を増やすなどのあらゆる対策を取らせた。
これからは旅芸人の都への出入りも厳しくなりそう。
温禰胡姫の謀反未遂事件が少し落ち着いた後日、兄さまに
「結局、帝に輿入れするよりも、謀反の先頭にたって戦うことを温禰胡姫は望んだということ?」
と言うと兄さまは
「広大な蝦夷の国を自由に飛び渡る鷲のように、気高い精神は後宮に閉じ込めることはできないのかもな。」
と言った。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
黄金って今も昔も愛されていて凄い!と思います。