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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
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EP80:清丸の事件簿「金鷲の舞姫(きんしゅうのまいひめ)」 その5

私はショックのあまりポロポロと泣き出してしまったけど、どうすることもできないと思った。

兄さまが険しい顔で私を見て

「どれだけ傷ついても私をあきらめないんじゃなかったのか?いまさら恋人が一人増えただけでもう終わりなのか?」

と怒った声で言うので、私はムッとして

「だって、兄さまが何人の女性とそういう関係になろうと、心は私のものだと思ってたもの!私のことが好きなんだって!でも、彼女のことが好きなら、心が私のものじゃなくなるなら!無理してそばにいてくれなくていいわっ!そんなの苦しいだけだもの!」

と泣きながら叫んだ。

言った後で、私はやっぱり兄さまの過去の女性全てに嫉妬していたんだって今更ながら気づいた。

それが当たり前だし、今までだってずっと我慢してた。

それに加えて心まで誰かのものになるなんて、耐えられないし、そばにいても(つら)いだけならもう離れた方がマシ!と思った。

膝を抱えて泣いていると、兄さまが頭をなでて静かな声で

「どうして私が温禰胡(おんねう)姫を好きだなんて思った?」

・・・私は顔を上げ泣きはらした目で、険しい表情の兄さまを見つめた。

「だって、舞を夢中で見てたじゃない?うっとりした目で。それに彼女に会ってからずっと上の空だったし。彼女の舞を私に見せるのを嫌がって挙動不審だったし。」

兄さまが私の頬を両手で挟み込み

「それだけで?たったそれだけのことで私が温禰胡(おんねう)姫を好きになったと思ったのか?」

『うん』と手で挟まれたままの顔を縦に振った。

兄さまは『はぁ~~~~~』とあきれた顔でため息をつき手を離して

「彼女の狙いは何だろうと気になって見ていたんだ。帝に取り入ってなにをしようとしているのかを考えながらね。」

と言った後、楽しさが徐々にこみ上げてきたようにニヤニヤして

「本当に嫉妬してたなんて!否定しなかったから心配になった?まさか!こんなにうまくいくとは!」

と『してやったり顔』でフフンと上機嫌に笑った。

私はビックリして

「じゃあ温禰胡(おんねう)姫を好きじゃないの?本当?」

と言うと、兄さまがまた急に真剣な顔つきになりジッと私を見つめ、何も言わず頬に触れた。

兄さまの親指が感触をそっと確かめるように私の唇をなぞった。

親指で唇を優しくなでられ、ジッと見つめられ、どうしていいかわからなくなり落ち着かなくなった。

恥ずかしくなって頬が熱くなる気がした。

多分顔が真っ赤になってる。

兄さまがやっと口を開いたと思うとしみじみと

「そんなに簡単に別の人を好きになれたら今まで苦労しなかったよ」

(つぶや)いた。

『ん?どーゆー意味?』と思ってると、ゆっくりと顔が近づき、唇が触れようとする寸前にピタリと止まって

「あっ・・・年子がいるからここでこーゆーことはしないんだっけ?」

と言うので、私はドキドキしながら小さな声で

「年子様ごめんなさい。兄さまを少しの間だけ借してくださ・・・」

と言い終えないうちに唇でふさがれ、うっとりするぐらい甘い口づけを交わした。


 次の日、宮中に帰った後、帝と大蔵卿をお誘いして雷鳴壺(らいめいつぼ)にやってきた兄さまが、みんなの前で今回の官物(かんもつ)紛失と温禰胡(おんねう)姫の企みの真相を話し始めた。

兄さまが

「ではまず、官物(かんもつ)の刀と武具が清原祥有(きよはらよしもち),安倍和好(あべよりよし)に不正に分配されたこと、その配達の途中に強奪されたことについてですが、これは大蔵卿と安倍和好(あべよりよし)が示し合わせて企んだ、官物(かんもつ)の横領です。」

帝が驚いて大蔵卿を見ると大蔵卿は慌てて

「ワシはその書類を見てないと言っただろう!?下のものが偽造したんだ!」

兄さまがニヤリと笑って

「ではこれは何ですか?これは今朝あなたが官印を押したばかりで印肉も乾いていない砂金の分配許可の文書です。安倍和好(あべよりよし)から砂金の事を聞いたあなたは急いで文書を作った。あなたの言う下の者つまり大蔵省役人全員に昨日『砂金に関係する書類に大蔵卿が許可を出したら私に知らせるように』と通達していました。それが今朝、手に入りました。」

大蔵卿は焦って

「知らぬ!今朝だろうがいつだろうが下のものが勝手にやった!」

さすがに大蔵省の役人全員がその通達を知って、大蔵卿に注目している中でその言い訳は無理があるのでは?と思った。

私が気になったので

安倍和好(あべよりよし)はどういう関係があるの?安倍和好(あべよりよし)の屋敷に配達される途中で強奪されたんでしょう?」

兄さまは私にニッコリとし、御簾の外に向かって

「御簾を上げてくれ」

と言うと、御簾の外の庭に二人の男が縄をかけられ、内舎人(うちとねり)に引っ立てられていた。

(その6へつづく)

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