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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)

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EP79:清丸の事件簿「金鷲の舞姫(きんしゅうのまいひめ)」 その4

 次の日、昨日からの気まずい雰囲気(ムード)のまま兄さまの調査についていった私は、兄さまが再び安倍和好(あべよりよし)の屋敷を訪れたことに気づいた。


安倍和好(あべよりよし)の屋敷で警備の下人が制するのも聞かず兄さまはズカズカと屋敷に上がり込み、何かを探しながら西の対についたところで、安倍和好(あべよりよし)が走ってやってきた。


兄さまが西の対に置いてある旅芸人の持ち物と思われる、葛籠(つづら)や衣装や小道具を調べながら、


「あなたが宿を貸している彼らは、帝が執心の舞姫の一行ですね?」


安倍和好(あべよりよし)は迷惑そうな表情で


「いくら大納言殿とはいえこの振る舞いは失礼ではないですか?

調べるなら検非違使(けびいし)が来るはずでは?それとも勅旨(ちょくし)をお持ちか?」


(とが)った声で言い返した。


兄さまは聞き流しながら、葛籠(つづら)の中から大内裏(だいだいり)や京の地図のようなものを見つけた。


その地図にはところどころに(しるし)がしてあり、文字が書いてあった。


その他にも葛籠(つづら)には獣の毛皮や、干した肉、白い太線で四角や丸の模様の入った紺色の衣、鳥の羽根を使った髪飾りや貝殻細工などが出てきた。


兄さまは小さな巾着を開けて中を(のぞ)いていたけど私には中身が見えなかった。


安倍和好(あべよりよし)は調べ終わった兄さまに皮肉気に


「何かめぼしいものがありましたか?

大納言殿がこのように強権(きょうけん)をふるうお方だとは思っていませんでした。これは検非違使(けびいし)に報告したほうがいいですかねぇ。」


と吐き捨てると、兄さまは


「お好きなように。できるならそうなさればいい。」


とそっけなく答え、安倍和好(あべよりよし)は悔しそうな顔をした。


立ち去る間際、思い出したように兄さまが


「あぁ、そういえば、私はこれから大蔵にある官物(かんもつ)の砂金の量も調べることにします。

確か二か月前に陸奥国(むつのくに)から大量に砂金が貢納された覚えがありますからね。」


安倍和好(あべよりよし)が疑い深い目を兄さまに向け


「それが、私と何の関係があるのですか?」


兄さまがニヤリと笑い


「いいえ。関係がないことを祈りますよ。」


と言った。


私は何が何だかサッパリわけがわからず、モヤモヤしたまま大納言邸に帰った。


今日はあの舞姫の素性を調べるために安倍和好(あべよりよし)の屋敷に押し入ったという事はわかった。


温禰胡(おんねう)姫一行は安倍和好(あべよりよし)の客人ということね。


そんなに彼女のことが気になるのね。


兄さまは彼女を恋人にするかどうかの質問にまだ答えてないし、どう考えてもずっと態度がおかしい。


フラれるのも悲しいけど、このモヤモヤがずっと続くことにも耐えられなかったので、内裏(だいり)に出仕していた兄さまが帰るのを見計らって自分の(たい)に呼び出した。


昨日とは打って変わってニコニコしている兄さまに


「あの温禰胡(おんねう)姫の素性を確かめて、恋人にする決心をしたの?」


と探りを入れると、兄さまはニヤニヤして


「浄見はそうしたほうがいいと思う?」


と上機嫌で聞くので、イラっとした私は、


「そんなわけないでしょ!」


と怒った後、思い直してしょんぼりして


「でも、兄さまが彼女を好きになったなら、私は身を引いてもいいわ。

好かれてもないのに一緒にいても(つら)いだけだもの。」


と涙ぐみながら言うと、兄さまが真顔になって


「本当にいいの?

浄見はもう私と結婚するつもりはないということ?」


と尖った声で言った後、プイと横を向いて


「そうだね。今ならまだ間に合うかもね。

浄見はまだ乙女だし、別の貴族に嫁ぐといいよ。」


と怒った声で吐き捨てた。

(その5へつづく)


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