EP75:清丸の事件簿「静穏の弦音(せいおんのつるおと)」 その7
兄さまが
「波子姫のところにあった象牙の撥はあの五弦琵琶と一緒に作られたものではない。そもそも、日本では四弦琵琶が主流だから、あの五弦琵琶は唐渡の物だ。大陸では琵琶を弾くためのものは撥ではなく五本の指先に嵌めるつけ爪だ。だから五弦琵琶と同時に作られるとしたらつけ爪であるはず。
波子姫は木製の撥を使っていたので、象牙の撥は誰かがあの五弦琵琶を弾くために持ち込んだんだろう。
確か藤原玄象は琵琶の名手で、河堀と最近接触し私の蔭口を言ったようだし、その際におそらく私と同じように波子姫との逢引きを用意され、藤原玄象は波子姫と関係を持った。その際に愛用の象牙の撥を使い五弦琵琶を弾いた。よっぽど親しくなければ高価な象牙の撥をそのままにしておくことはない。
藤原玄象は間者として波子姫をあてがわれたことに気づいてないのだろう。どこか間違っているか?」
と河堀を睨んだ。
河堀は震え上がったが
「な、何を仰るのです?私は藤原玄象よりも、あなたの味方です!藤原玄象があなたを悪しざまに言うのを諫めたぐらいですから!」
兄さまはフフンと鼻で笑って
「あなたの質が悪いところは、まるで蝙蝠のように両方に取り入ろうとしたことです。波子姫を使って私と藤原玄象を上手く操り、情報を探って、私と菅公、両方の美味しい部分を味わおうとしたんですよね?そもそも波子姫はあなたに心酔して間者を引き受けたんじゃないんですか?
波子姫の恋心を利用し、私と菅公のどちらが勝っても損しないように立ち回ろうとするとは、まったく・・・敬服しますが、私との付き合いはお断りします。」
ときっぱりと言った。
私は『波子姫は河堀と恋人関係だったの?じゃあ兄さまがお世話しなくても後ろ盾があるのね?』と同情しなくてよかったことにホッとした。
そして火事だと嘘をついて兄さまを奪還?したのも間違ってなかったんだ!とホッとした。
河堀は兄さまの推測をハッキリとは認めなかったが、目を逸らし大汗をかいて手巾でしきりに拭っていたので多分当たってる。
それにしても河堀の目論見は藤原玄象には成功したんだからやっぱり凄腕だなぁ!と思ったけど、こんなことにまで謀略を込める朝廷の官人たちってストレスでおかしくなりそう!と思った。
河堀が帰った後、私は兄さまに
「聞こえない音が実際効果のある呪いになるのなら、目に見えない『光』が心霊とか精霊とか神秘的な生き物として実在しているのかもね?」
というと、兄さまは
「蝙蝠は人には聞こえない超高周波音を聞くことができるというし、霊能力者は普通の人間の領域ではない周波数の『光』を見ることができる人間かもしれないな。」
と言った。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
低周波音は工事現場や家電のモーター音やエンジン音からでるそうでガタつきも生じるらしいですが、確かにストレスになりそうですねぇ。