EP67:清丸の事件簿「太古の九頭龍王(いにしえのくずりゅうおう)」 その5
ま、交わるって?つまり・・・!と狼狽えながら若殿の顔を見ると顔面蒼白になっていた。
私は焦って
「今すぐ助けに行かないんですか?」
若殿は少し考え
「今動いても山車の引手や見物客に邪魔され阻止されるかもしれない。山車についていき人が少なくなるか浄見が張り付けから降ろされたときを見計らって切り込む。」
と静かに腰の太刀に手をかけカチャリと鳴らした。
ひえ~~!刃傷沙汰だぁ~~とビクビクしていると、さっきまで晴れていた空に突然、黒雲が流れ込みゴロゴロと天が唸り始めた。
ポツリポツリと大粒の雨が顔に当たったかと思ったら、ザァッーーーーーー!とあっという間に土砂降りになった。
突然、辺りが真っ白になるくらい光ったかと思うとドオンッ!ビリビリッ!と何かが裂けるような鳥肌が立つぐらいすごい音がした。
落雷するのを恐れて、曳手の青年たちと見物客たちが山車から逃げ出した。
私も逃げ出したかったが、若殿が動かないので『えぇ~~!逃げないんですかぁ!』と狼狽えていると、また視界が真っ白になるくらい光り、同時に轟音が鳴り響いたので怖くてその場にしゃがみ込んでしまった。
若殿は山車に駆け寄り、張リボテの龍を壊しながら上に登り、中に組んであった櫓に支えられた鉾の紐を切り、宇多帝の姫を肩にのせると
「おいっ!竹丸!下で浄見を受け取ってくれ!」
と私を呼びながら櫓を降りてきた。
私は土砂降りの中、前もよく見えず、雷のゴロゴロにおびえながら恐る恐る山車の下で手を伸ばし宇多帝の姫を受け取った。
宇多帝の姫はぐったりとして意識がなかった。
綿丸がどこかで見つけてきた荷車に宇多帝の姫をのせ、我々はいそいで宿坊に帰った。
ぐったりとした姫を抱えて帰ってきた我々を見て戸火毛は驚き、オドオドと若殿の顔を見て
「あの~~、清丸殿はどうしたんですか?なぜ巫女の恰好を・・・」
と呟くので、若殿はキッとにらみつけ
「はやく、湯と乾いた布と清潔な小袖を持ってきてくれ。」
というと、姫を宿坊に運んだ。
我々は若殿に追い出されたので何があったかわからないが、次に許されて宿坊にはいると、小袖に着替えて、汚れを落とされキレイになった宇多帝の姫が褥に寝かされていた。
「大丈夫。呼吸と脈は安定している。眠っている状態に近い。」
と若殿が言うので
「意識はちゃんと戻るでしょうか?」
と思わず不安を口にすると、若殿が一瞬泣きそうな顔をしたので『しまった!』と思い、何とか気を逸らそうと
「誰が一体こんなことをしたんでしょう?何のために?」
若殿は考え込んで
「多分、浄見を殺したい奴が企んだんだろう。もしあのまま祭りの最後を迎えていたら、浄見は絶望で死んでいたかもしれない。そうでなくても心に深い傷を負っただろう。」
「そんな奴がこの村にいるんですか?初めて来た村なのに!?」
と私は驚いた。
若殿はギリッと歯ぎしりをして
「きっと、私をここへ差し向けるように帝をそそのかしたやつと同じか、その仲間だ。」
*******
私・浄見が意識を取り戻すと、枕元には座りながらウトウトと眠り込んでいる兄さまの姿があった。
辺りは真っ暗で灯台をつけているので多分夜だと思った。
声を出そうとすると喉が痛くて上手く出せず、かすれ声で
「・・にい・・さま」
というと、ビクッと兄さまが起きて
「浄見!意識が戻ったか!よかった!」
と手を握りしめた。
私が喉が渇いたというと竹丸に白湯を取りに行かせ私に
「まだしばらくじっとして寝ていろ!一日近く意識がなかったんだから。」
と言いながらホッとしたような泣きだしそうな顔で微笑んだ。
兄さまの話では私は昨日、眠りにつくと誘拐され、山車の上に括り付けられ村中を曳き回されたらしい。
私の記憶では、一度意識を取り戻した時には、後ろ手に縛られ、暗いかび臭い土壁で囲まれた場所に転がされていた。
目の前には龍の山車があり、戸火毛の声で
「意識を取り戻したようだぞ!薬を飲ませろ」
という声が聞こえ、その後何かを口に入れられ、口と鼻をふさがれると、苦いものを飲み込み、また意識を失った。
私の状態が少し良くなり、その話を兄さまにすると兄さまは
「戸火毛が犯人の仲間であるのは確かだが、黒幕は誰だ?誰が浄見を消そうとしたんだ?」
私は突然、唐花殿で聞いた
「まぁ、それは好都合ですわね。じゃあ偽物を本物と偽って売ればいいのですわ!」
「・・・うむ。ではそう致すとしよう。」
という会話を思い出し、それを兄さまに告げると兄さまがやっと腑に落ちたという表情で
「全てわかった。明日犯人を明らかにして捕まえてやる。」
と呟いた。
(その6へつづく)