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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
66/462

EP66:清丸の事件簿「太古の九頭龍王(いにしえのくずりゅうおう)」 その4

*******


 宇多帝の姫(浄見のこと)はこの日の夜、忽然(こつぜん)と姿を消したので以降の記録は私・竹丸が記すことにする。

この日の夜、つまり昨夜、宇多帝の姫と若殿(わかとの)が行水から帰ってきた後、同じ宿坊(しゅくぼう)で我々四人は並んで(しとね)に横になって寝たのだが、一番端で遣戸(やりど)近くで寝た宇多帝の姫は朝になって、私が目を覚ますと姿がそこになかった。

(かわや)にでもいってるのだろうとはじめは心配しなかった若殿(わかとの)(時平のこと)も、朝餉(あさげ)を運んできた戸火毛(とかげ)

「清丸の姿を見かけなかったか?」

と聞き戸火毛(とかげ)が首を横にふり

「いいえ。昨日の夜、宿坊(しゅくぼう)まであなたと送ってきて以来、姿を見ていません。」

というのを聞いて顔色を変えた。

若殿(わかとの)戸火毛(とかげ)と他の使用人たちと私と綿(わた)丸に命じ、すべての宿坊(しゅくぼう)境内(けいだい)を探させたが、宇多帝の姫の姿はどこにもなかった。

若殿(わかとの)が真っ青な顔になって小さな声でブツブツと

「なぜだ?寝ている間にさらわれたんだ。なぜ目が覚めなかった?隣にいたのに!!夕餉(ゆうげ)に眠り薬でも盛られていたのか?くそっ・・・どこにいるんだ!」

と頭を抱えて(ひと)(ごと)をつぶやき、尋常(じんじょう)な様子ではなかった。

・・・私はいつもお腹いっぱいになれば五秒でぐっすり眠り込んでしまい、簡単には目覚めないので、隣で鬼に喰われて泣き叫んでいる人がいても気づかない自信がある!

ので夕餉(ゆうげ)に眠り薬が入っていたかどうかは知る由もない。

そうこうしているうちに夕方になり、下の集落から秋祭りの笛や太鼓の音が聞こえてきた。

もちろん我々は秋祭りどころではなかったが、綿(わた)丸が

「もしかしたら、祭りに集まっている人々の中に清丸を見かけた人がいるかもしれません!話を聞いてみましょう!」

と言うので、祭りの人混(ひとご)みを目指した。

人の背丈より高く盛り上がった九頭竜(くずりゅう)川の堤防を背に平泉寺(へいせんじ)白山(はくさん)神社のある白山(はくさん)を眺めると、その間には稲刈りが終わった田んぼが見渡す限り並んで広がっている。

その畦道(あぜみち)山車(だし)()り物が練り歩いた。

人々は所々で足を止め、その行列を眺めていた。

三十間(さんじゅっけん)(約54m)ほど先にある、その山車(だし)の全貌はまだうっすらとしか見えないが、宮司が言ったように、とぐろを巻く龍が張リボテで作られており、その中心には切っ先を上に向けた(ほこ)(かたど)った木が立てられていた。

(ほこ)の先端部分に、何かが(くく)り付けられているように見えた私は思わず

若殿(わかとの)山車(だし)(ほこ)の先に人が(くく)り付けられていませんか?」

若殿(わかとの)が目を細めて山車(だし)の先端を見つめ

「確かに、人のように見える。まさか!竹丸!綿(わた)丸!山車(だし)のそばに行くぞ!」

我々三人は急いで畦道(あぜみち)を駆けぬけ、山車(だし)の後ろに近づいた。

その山車(だし)は近くで見ると、重心の低い四輪の荷車の上に、竹ひごに紙を貼ってつくる張リボテでとぐろに巻いた龍を作ったものだった。

直径一尺(約30㎝)ぐらいの太さの龍が、一間(いっけん)(約1.8m)x二間(にけん)(約3.6m)ぐらいの荷車の上にクルクルと巻いておかれており、その中心には(ほこ)(かたど)った木が立てられていた。

龍の顔がある二間(にけん)(3.6m)ぐらいの高さの部分に巫女の恰好をした女性が足や胸や腹で(ほこ)(くく)り付けられていた。

龍のウロコの一枚一枚は黒く塗られ金で縁取られ、腹は白くて赤い縞があり、(ひげ)(たてがみ)(つの)は金色に輝いて目をギョロリとさせ、ガッと開けた口には牙がびっしりと並んでいる。

その龍があたかも噛みつこうとしているような口先に(くく)り付けられている女性はぐったりと(うつむ)いて意識が無いように見えた。

となりで若殿(わかとの)がゴクリと息をのむ音が聞こえ

「浄見・・・・!なぜっ!誰がやったんだっ!」

と言うので、目を凝らしてよく見ると確かに宇多帝の姫だった。

活気づいた十人前後の青年たちが大きな掛け声をあげながら、息を合わせてリズムよくその山車(だし)()いていた。

青年たちの全身から汗が噴き出て、黒い肌がテラテラと光っていた。

若殿(わかとの)は周りをキョロキョロと見まわし、近くで見物していた三十前後と思われる男性の肩をつかみグイと引き寄せ

(ほこ)(くく)り付けられている女性は大丈夫なのかっ?あの山車(だし)はどこへいく?この後、彼女はどうなる?」

とすごい剣幕でまくし立てるのでその男性は驚いたように

「お前はよそ者か?あの巫女は神の()(しろ)だ。神が乗り移ったら、曳手(ひきて)の男たちが巫女と(まじ)わって、神の力を分けてもらうんだ。そうすれば一生、()いないし健康で強くたくましくいられる。」

(その5へつづく)

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