EP65:清丸の事件簿「太古の九頭龍王(いにしえのくずりゅうおう)」 その3
帝の親書を持ってきた検非違使の平次という事にしてある兄さまは神社では丁寧に持て成され、私たちは宿坊を使わせてもらえたし、食事もいただけた。
帝の親書を読んだ宮司が一辺が二寸(約6cm)ぐらいの大きさの木箱を持ってきて兄さまに渡して
「これを、確かに、帝に届けてくださるように。お願いいたします。」
兄さまが宮司の顔をうかがい
「開けて中を確認してよろしいですか?」
宮司が『はい』と頷くので兄さまが木箱を開けると、中には綿の上に石のようなものが置かれていた。
兄さまが手に取っていろいろな角度から眺めているのを、私も横で見ていたけど、直径一寸(約3cm)ぐらいの平べったい石の中に、棒のようなものが入っているように見えた。
ナニコレ?帝はわざわざ越前国までこんな石コロを取りに来させたの?とますます疑問。
価値のある石だとしても、宝石でもないし・・・もしかして中に宝石が入っているの?夜光るとか?水をかけると発熱するとか?砕いて火を点けると爆発するとかそういう役に立つ系の石?
宮司がふとキョロキョロと私たち従者を見渡して
「ところで、伊予という女子はどちらですか?」
と聞くので、なぜ?と不思議に思ったが
「私です!」
と名乗ると、宮司は『あぁそうですか』、と頷き、微笑んで
「間に合ってよかったです。ちょうど明日から、下の九頭竜川流域の集落で豊穣を祝う秋祭りが始まります。平次殿と従者殿、皆でご覧になってはいかがですか?九頭龍王を模どった山車は一見の価値があるものです。」
宮司が私を見た目で女子だと分からなかった問題は無視して、『九頭龍王!』ってきっとイカツイ龍の形をした、ザ・ヤンチャ!みたいな派手な山車でしょうねぇ~~!とテンションが上がり、
私も竹丸も綿丸もワクワクして目を輝かせ、声を合わせて
「はいっ!」
といい返事をした。
竹丸がふと思いついたように兄さまに向かって
「ところで山車って何ですか?」
と聞くのでえっ知らないの?何?天然?と思ったけど、そういえば私も山車の意味も由来も知らなかったので兄さまを見つめて答えを待つ。
兄さまが苦笑しながら
「昔から、神は山岳や山頂の岩や木を依り代として天から降臨するという考えがあり、祭りの時に神が降臨するための依り代を作って曳きまわすことで神の加護と威光を村中に行き渡らせるというものだ。」
・・・へぇ~~~ただの憂さ晴らしにバカ騒ぎするため、じゃないのねお祭りって!
私たちを宿坊へ案内してくれたり夕餉を運んでくれたり、行水する場所へ案内してくれたりする下人の戸火毛はいつも私をジロジロとみてニヤニヤするので嫌な予感がした。
行水することを一応、報せてからと思って兄さまに
「川の上流に行水にいってもいいかしら?」
と訊ねると、兄さまはそばにいる戸火毛をちらっと見て
「私もついていく」
と言って案内してくれる戸火毛に私と一緒についていくことにした。
川の浅瀬から中に入れる場所につくと、兄さまが
「ありがとう。後は二人で帰れるからもう帰ってくれていいよ。」
と戸火毛を追い払った。
私は
「兄さまも見ないでね!」
と衣を脱いで川に入って旅の垢を落としていると兄さまが背中を向けながら
「足を滑らすと危ないから、見てもいい?」
とモットモらしく言うので
「溺れそうになったら見てもいいわよ!」
と言い返しながら手早く身体と髪を洗って川から上がり、衣を身に着け、髪を絞ってまとめていると、寒さで震えが全身に広がった。
今は十月だから、こんな上流の川に入ると水も空気も冷たいし当たり前っちゃ当たり前。
バカだと思われるかもしれないけど、一週間も体を洗えなかったなんて拷問だもの!寒いほうがマシっ!
兄さまがまだ背中を向けてのんきに
「浄見、弱音を吐かずによく頑張って最後まで歩けたねぇ。偉かったよ。」
としみじみと呟くので
「兄さま!寒いから早く帰りましょ!」
とガチガチと歯を鳴らしながら答えて、歩きにくい河原の石を転ばないように慎重に踏んで歩きながら兄さまのところへ行き手をつないだ。
そのまま手を引っ張って歩きだそうとすると、兄さまが突然、私を引き寄せ抱きしめ
「馬鹿だなぁ。こんなに震えるくらい寒いなら行水なんてしなければいいのに。」
と少しでも温めるために背中をさすりながら言うので
「だから、早く帰って火にあたりたいわ。凍え死んでしまう!」
と言いつつも兄さまの手の感触にうっとりとして、胸に抱き着いた。
そのまま口づけしようと二人が唇を寄せると近くで
「早く帰らないと、体が冷えて風邪をひきますよ」
と戸火毛の声がし、ニヤニヤ笑ってそばに立って手を振っていたので、ビックリした私たちは慌ててパッと離れた。
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(その4へつづく)