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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)

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EP63:清丸の事件簿「太古の九頭龍王(いにしえのくずりゅうおう)」 その1

【あらすじ:ある女房と公卿の内緒話を盗み聞きしてしまった私は、せっかくの旅行先の越前国で命を狙われるハメになった。豊穣を祝う秋祭りは熱狂的でワクワクするけど、荒れた九頭竜川の波濤のようにどこか狂気じみている。時平様は私を無事救出できるの?私は今日も心配で青ざめる。】


 ある日、私・浄見(きよみ)(もみじ)更衣のお使いで、女房・伊予(いよ)として、唐花殿(とうかでん)唐花殿(とうかでん)女御(にょうご)に反物をお届けに上がった。


唐花殿(とうかでん)に着いて、御簾越しに中の様子を(うかが)い話しかけようとすると、御簾の中から女性の声が聞こえた。


「まぁ、それは好都合ですわね。じゃあ偽物を本物と偽って売ればいいのですわ!」


「・・・うむ。ではそう致すとしよう。」


「しっ!・・・誰っ?誰かそこにいるのっ?」


私はギクッとして慌てて


雷鳴(らいめい)壺の女房、伊予(いよ)と申します。(もみじ)更衣より唐花殿(とうかでん)女御(にょうご)に贈り物をお届けしたく参りました。」


と言うと、御簾の中からさっきの女性がため(いき)()じりで


「あぁ・・・。わかりました。そこに置いておいてください。唐花殿(とうかでん)女御(にょうご)にはわたくしから伝えます。下がってくださいな。」


と少し苛立った声がした。


私は、『聞いてはいけないものを聞いたのかしら?』とちょっと怖くなってすぐに雷鳴(らいめい)壺に帰った。


 そんなことがあった数日後、帝にお(とも)して大納言である兄さまが雷鳴(らいめい)壺に(もみじ)更衣を(たず)ねたので私も白湯と菓子を給仕した後、几帳の陰で話を聞く。


帝が


「大納言、確か十年ほど前(889年)、『平泉寺(へいせんじ)白山権現(はくさんごんげん)衆徒(しゅうと)の前に示現(じげん)され、その尊像(そんぞう)を川に浮かばせたところ、一身九頭の竜が現れ、尊像(そんぞう)を頂くように流れに下って、黒龍(くろたつ)大明神の対岸に着かれた』ということがあっただろう?」


とおっしゃると、兄さまは思い出すようにして


「それ以来、その黒龍(くろたつ)川を九頭竜(くずりゅう)川と呼ぶようになったんですね。確か、雄略天皇21年(477年)に越前国(えちぜんのくに)(現在の福井県のうち南部 (若狭国)を除く部分)の北陸随一の大河である黒龍(くろたつ)川(後の九頭竜(くずりゅう)川)の治水工事が行われたときにその黒龍(くろたつ)大明神は創祀(そうし)されたのでしたね。」


(*作者注:『九頭竜(くずりゅう)川は急峻な地形の上に上流の奥越地域は多雨地帯であること、また中流部の鳴鹿地区から扇状地となり、放射状に流れが変遷していたことから、有史以来氾濫を繰り返し「崩れ川」と呼ばれるほどであった。その一方、有数の穀倉地帯でもあり、古代より治水・利水のための開発が繰り返し行われてきた。古代には福井平野は大きな湖であり、洪水のたびに水害が起きていた。5世紀から6世紀に掛けて越前を支配していた男大迹王(継体天皇)は九頭竜(くずりゅう)川河口を広くして湖の水を海に出やすくしたといわれている。』)


私が思うにつまり、急峻な地形の上流の山岳地帯に雨が多く降ると、九頭竜(くずりゅう)川は氾濫しやすく洪水が頻繁に起きたけど、下流の平野は米がよくとれる穀倉地帯なので、川の水を利用しようと、時の支配者は治水工事を頑張ったってことよね?


流れが速い川にはどこでも大抵、龍神が祭られているので全国各地の龍神様を一カ所に集めればきっとウジャウジャと芋洗い状態ね!・・・想像してゾッとした。


帝が


「大納言よ、朕の代わりに越前国(えちぜんのくに)へ行って九頭竜(くずりゅう)川の治水・利水開発の様子を視察してきてくれないか?」


兄さまが少し驚いたように


「私が?ですか?確かあの辺りは東大寺領の墾田(こんでん)(自分で新しく開墾した耕地)が多数あり、彼らが用水路整備していると聞きましたが?」


帝が少し悩んだ表情で


「あ~~公田(くでん)(律令制において公(国家・朝廷)が所有している田地・畑地のこと。)の用水路整備も進めるためにな、方法を視察してきてくれ。」


兄さまは少し違和感を覚えたようだが


木工寮(もくりょう)の役人ではなく?私に?私は土木工事は門外漢(もんがいかん)ですがよろしいのですか?」


と念を押すと、帝はウンウンと頷くと、ハッと思い出したように付け加えて


「それと、平泉寺(へいせんじ)白山(はくさん)神社にいって、朕の親書と引き換えにあるものを宮司から受け取ってきてくれ。」


兄さまは何かを察したように


「はは。承知いたしました。」


と頭を下げた。


それにしても、土木工事に詳しくない兄さまをなぜ帝は視察に行かせようとするのかしら?

(その2へつづく)


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