EP62:清丸の事件簿「現世の輝夜姫(うつしよのかぐやひめ)」 その6
兄さまが眉を上げ興味をもったらしく
「確かにそうですね。参考までにお教え願えますか?金髪にする方法を」
小畝は誇らしげに笑って
「スダチ果汁を使う事を思いついて苦労して金色にしたのよ!かつて私は『現世の輝夜姫』と呼ばれ、五人の地位も富もある貴族たちに望まれた女ですよ!・・・それなのに!何てことをっ!腐っても!腐ってもそれだけの価値がある私に向かって、みっ、醜いだなんてっ!」
と怒りで卒倒しそうだった。
小畝の金髪は生まれつきではなく、スダチを塗って日光に当てることで人工的に作り出した金色だったので、今では痛み切って艶のないパサパサの髪だった。
その枯れかけた髪の毛のように、年老いて傷ついた自尊心を取り戻そうとして、『現世の輝夜姫』こと小畝が若い女性たちの誘拐・吸血事件を引き起こしたのだった。
若い女性の物色は海藍が行い、実際の誘拐や首を絞めたのは侍所にいた警備の下人だった。
兄さまは検非違使庁に小畝とその仲間を引っ立てて裁きを受けさせた。
大納言邸で目が覚めた私は兄さまの話を聞き、自分の腕にある傷をみて
『他の人はここから血を吸われたのか・・・、私は兄さまに早く助けだしてもらってよかった。』
と安堵した。
私はどうしても聞きたかったことがあったので
「ねぇ、兄さま?海藍の胸が大きかったのは、小畝が考えたように若い女性の血中にある媚薬を分けてもらっていたせいなの?」
兄さまは照れもせず
「そうかもしれないな。海藍も小畝の言いなりになっていたからにはおこぼれをいただいてただろうからなぁ。」
・・・その媚薬を試したいと思ってることは兄さまには悟られていませんように。
でも、胸が大きいと肩がこるとか、走りにくいとか聞くし・・・、やっぱりそんなに大きくなくてもいいわ!・・・ホントよっ!ホントにっ!・・・負け惜しみじゃないからね!・・・・。
後日、宮中に帰った私に兄さまが贈ってくれた香を焚いていると、沈香の匂いの中に変な獣のような臭いがしたのでナニコレ?と思っていると、私の房を訪れた兄さまが鼻をヒクヒクさせ
「どう?効いてきた?気分はどう?どんな気分?」
とキラキラとした瞳で聞くのでワケが分からない私は
「何の気分?別に・・・変なにおいの香ね。」
兄さまはがっかりした顔で
「何だぁ。やっぱり嘘か。催淫作用なんて。」
とため息をついた。
私は小畝の作った香だと知って驚いたけど、小畝が考えたことはまるきり間違いではないなぁと思った。
だって、そうしたくなって思わず兄さまの首に腕を絡めて
「発酵した果実に蠅がひきつけられるように、人間も異性が放つ物質に操られていると思うわ」
と頬にそっと口づけた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
フェロモン香水の中に入っていた、人間のフェロモン様物質は偽物と判明したらしいですねぇ。
でも男性・女性ホルモンの血中濃度はやっぱり人間の性行動を操っている気はします。