EP61:清丸の事件簿「現世の輝夜姫(うつしよのかぐやひめ)」 その5
落ちていた紐はそもそも何のために使われたかというと、私の肘より上で腕を縛り、肘の内側にうっ血させ静脈に針を刺して血を出すためだった。
小畝はフフンと鼻で笑って
「あら?恋人のために必死の形相ね?男を虜にしている彼女にはさぞかし、効果のある、いい媚薬が体内に出来ているはずだわ。惜しいことをしたわぁ~もう少しで頂けたのに!」
とペロリと舌なめずりをした。
一緒にいた従者の竹丸は、はじめて小畝の姿を見たときあっ!と驚いたらしい。
右大弁が噂していた『現世の輝夜姫』は彼女のことだったから。
なぜ一目でそれがわかったかというと、彼女の長い髪の毛が黒ではなく金色に輝いていたから。
彼女は五人の求婚者を拒否しただけでなく、その金髪が光り輝く様子から『現世の輝夜姫』と呼ばれたとか。
しかし、当時の美貌は見る影もなく、年齢の割に肌つやはよかったそうだけど、深く刻まれた皺は隠せず、派手な単衣を身に着けることで中年女性の衰えがかえって目立った。
・・・派手な色は似合わないとわかっていても、どこかに『もしかして若く見られるかも?』という期待感があるのよね、きっと。
小畝は一同に向かって
「あら、若々しい男性方に囲まれて久しぶりに嬉しいわ!たとえ私を捕まえに来たとしてもね。」
と高揚した表情で微笑んだ。
兄さまが苦い顔で
「なぜ、若い女性を次々と誘拐し血を啜ったのですか?あなたは生活にも苦労せず気ままに暮らして楽な余生を過ごしているでしょう?」
小畝は兄さまに色気たっぷりの表情で
「なぜ?と聞くの?年老いて男に相手にされなくなった女にとってこの世は地獄以外の何物でもないからです。若い女の血中にある媚薬を飲めば若返るのよ。
私がいろいろ試した結果、月経から12日から14日後の若い女性の体内にその媚薬が一番高濃度に生成されているの。
その媚薬があれば女はいつまでも女性であり続けられるし、男から女として求められるのよ。私のように年老いて体内で生成されなくなると、こうやって他から血を啜るしか方法がないのよ!」
兄さまは信じられないという表情で
「そんなことをしても若返ってないじゃないですか。それに肉体が少し若返ったからといって心まで若返るわけではありません。失った時は戻せない。」
小畝は馬鹿にしたように笑って
「あなたは何も知らないのね。人間とは蠅や蜂のように簡単な生き物で、男には汗と精液の中に、女には血液と尿のなかに、男性らしくと女性らしくするそれぞれの媚薬(男性ホルモンと女性ホルモン)が含まれているのよ。私は男性の精液と女性の尿を使って催淫作用のある月兎香を作ったのよ。皆効果があるといって買い求め飛ぶように売れているわ!」
・・・小畝の話によると媚薬(男性ホルモンと女性ホルモン)を体内に取り込むと、若返るし、性的魅力が増し、かつあの牡蛙のように元気になるのね!ふむ。
兄さまは悲しそうに
「派手な衣が今のあなたに似合わないように、もしできたとしても若い肉体にその老いた邪な精神は不釣り合いで醜いだけだ!」
小畝は怒り狂って
「な、何ですって!見てごらんなさい!この黄金の髪を!この世に私の他に誰が、黄金の髪を持っているというの?!これこそ私が『現世の輝夜姫』と呼ばれた所以よ!誰も真似できないっ!私だけの、卓越した発想の賜物よ!」
と長い髪を振り乱して見せつけた。
・・・私もこの目で見てみたかったぁ~~~!
けど、いったいどうやって金髪にしたのかしら?
(その6へつづく)