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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
60/504

EP60:清丸の事件簿「現世の輝夜姫(うつしよのかぐやひめ)」 その4

 (いち)で竹細工の職人たちに聞き込みを行った結果、ある職人の妻が『胸の大きい女性』で、かつその妻が(いち)でいろいろな女性に声をかけている事が判明した。

その職人の妻は海藍(はいらん)という名前だった

海藍(はいらん)はある官位の低いが遺産をたくさん残した貴族の未亡人・小畝(こうね)に仕える侍女で、小畝(こうね)の屋敷に住み込みで働いているらしい。

兄さまと私は早速その未亡人・小畝(こうね)の屋敷を訪れた。

侍所(さむらいどころ)でまず海藍(はいらん)という名の侍女と面会したい(むね)を伝えると、警備の下人が

「何の用ですか?海藍(はいらん)は今外出中です。」

と言うので、兄さまは

「ある事件について話を聞きに来た検非違使(けびいし)の平次という者です」

と名乗った。

警備の下人はうさん臭そうにジロジロと見たが、(あるじ)である未亡人の小畝(こうね)(うかが)いを立てにいった。

小畝(こうね)が面会してくれると言うので、出居(いでい)で御簾越しに面会することになった。

まだ昼間なのに、その(たい)は御簾がない三方を遣戸(やりど)で締め切っているらしく中が暗いので御簾の中の小畝(こうね)を見ることはできず、声で小畝(こうね)の様子を探ることしかできなかった。

暗い影にしか見えない小畝(こうね)

海藍(はいらん)に一体何の御用でしょう?彼女はいつも私のために忙しく働いてくれますのに、事件とおっしゃるのは何のこと?」

と言った。

少し枯れた声から察すると年は四十半ば?で何だか()だるそうに沈んだ雰囲気の女性。

私は『遺産として銭を残してくれても夫のいない生活は(わび)しいものかしら?』と勘繰(かんぐ)った。

それがたとえロクでもない浮気(おっと)でも?・・・兄さまは違う!と信じたいけど。

兄さまが

「実は、最近、洛中(らくちゅう)で、ある事件が相次(あいつ)ぎまして、事件前に被害者たちに声をかける海藍(はいらん)の姿が複数回目撃されているものですから、話を伺いたかったのです。」

小畝(こうね)の影が

「被害者は若い女性でしょう?海藍(はいらん)が彼女たちに話しかけることが悪いことですの?彼女が(いち)へ行くのは夫の竹細工を売るためと、お友達を見つけるためですわ。それが何か問題でも?」

とゆっくりと言うと、兄さまは険しい表情で

「いいえ。つかぬことを聞きますが、いつからお一人で暮らしてらっしゃるのですか?」

小畝(こうね)は少しためらって

「夫は二年前に亡くなりました。それ以降ですわ。」

兄さまは少し愛想笑いをうかべて

「それ以降は男を通わせていらっしゃいませんね?」

不躾(ぶしつけ)な質問をすると、小畝(こうね)苛立(いらだ)った声で

「だから何ですの?失礼ですわね。老人だと私を馬鹿にしているの?」

と言うと私の方をちらりと見た気配がし、続けて(とが)った声で

「隣にいる男装している従者は女でしょう?若い女と連れ立ってどんな捜査をしていることやら。いかがわしいっ!」

と吐き捨てた。

・・・やっぱり男装しても女だってすぐバレるものねぇ物語と違って。

だって(のど)ぼとけもないし、私の体つきだって立派な女性のはず!とウンウンと納得した。

兄さまは小畝(こうね)を怒らせたことに満足した(?)のか

「これは失礼いたしました。では我々は御暇(おいとま)致します。海藍(はいらん)に話を聞くのはまた日を改めます。」

といって屋敷を辞した。


 大納言邸への帰り道、私は不思議に思ったので

「もしかしてわざと小畝(こうね)を怒らせたの?なぜ?」

兄さまはニヤリと

「彼女は怪しい。被害者が若い女性であることを伝えてないのに知っていた。この先動きがあるかもしれないから、見張りをつけることにする。」

と言った。

私が大納言邸の自分の(たい)で着替えようとすると、後ろから誰かに首を絞められ意識を失ってしまった。

だからここからは後日、兄さまに聞いた話。

 夕餉(ゆうげ)を運んだ侍女から兄さまが私の行方不明を告げられると、大慌てで小畝(こうね)の屋敷に向かった。

小畝(こうね)を怒らせたことを後悔したらしいけど、手遅れだったと言ってたわ。

小畝(こうね)の屋敷につくと、無断(むだん)で上がり込み私を探し回った。

「伊予!どこにいるんだっ!伊予っ!」

と行く先々で几帳を蹴倒(けたお)し、御簾を跳ねのけて大声で呼びながら、一緒に来た従者たちと小畝(こうね)の屋敷を探し回った。

・・・今思うと乱暴狼藉(らんぼうろうぜき)ね。

主殿の御簾を跳ねのけて中に入った時、ぐったりと意識を失い横たわる私のそばに座る小畝(こうね)海藍(はいらん)がいた。

小畝(こうね)は直径が一分(3mm)もあると思われる太い針を私の腕に刺し引き抜いたところだった。

小畝(こうね)は私の腕から滴る血に口を近づけ(すす)ろうとしていた。

兄さまは小畝(こうね)海藍(はいらん)を押しのけ私を抱き上げると、呼吸を確認し、腕から血がドクドクと(したた)るのを手巾(しゅきん)で押さえ、その場に落ちていた紐で手巾(しゅきん)を腕に縛って止血した。

兄さまが小畝(こうね)に向かって

「お前が若い女性を次々と誘拐したのは、血を(すす)るためか!鬼めっ!」

と怒鳴った。

(その5へつづく)

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