EP59:清丸の事件簿「現世の輝夜姫(うつしよのかぐやひめ)」 その3
侍女は
「実は、市で会った女性に『那奈夜さんが美人だという噂を聞いて、彼女に憧れているので、彼女のことを教えてほしい』と頼まれまして、寝ている場所とか食べるものとか、白粉や紅や整髪料の種類などを聞かれまして何も考えず答えてしまったのです。」
ウンウンと私たちが頷くと続けて
「そうそう!一つおかしいなと思った質問があって、それが『彼女の月経が始まった日を教えてほしい』という事でした。」
兄さまがそれを聞いて固まったので、私が
「那奈夜さんの月経が始まった日をあなたが知っているなんてよっぽど親しいんですね?月経の日が誘拐に関係があるのかしら?その誘拐された日は月経が始まった日から数えてどれくらいでした?」
侍女は思い出そうと考えこんで
「ええと、誘拐された日は月経からちょうど二週間ぐらいだと思います。自信はないですけど。」
私が
「那奈夜さんのことを訊ねてきた女性はどんな風貌でした?名前や勤め先といった身元がわかりますか?」
侍女は
「私と同じように貴族のお屋敷の下働きをしていて、名乗らなかったけど、夫が竹細工の職人だと言っていました。風貌は・・・そうそう!胸がとっても大きかったわ!」
と私の胸をチラッと明らかに盗み見して言った。
・・・私が女だと気づいていてかつ、今あからさまに比べたでしょ!?
他の誘拐被害者の元を訪ねて話を聞くと、那奈夜と同じように肘の内側に傷跡があり、失神させられその間に誘拐され元の場所に戻されたという証言だった。
自宅や住み込み先などの普段の寝所で誘拐されているという事は、屋敷内部に手引きした者もしくは情報を漏らした者がいるという事なので犯人は下調べを入念に行っており、屋敷の者全員に話を聞く必要があった。
那奈夜の侍女のように出かけ先で出会った見知らぬ女性に誘拐被害者の情報を漏らしたという家人が全ての被害者宅にいて、その見知らぬ女性の特徴はやっぱり『胸が大きい』だった。
誘拐被害者自身が出かけ先でその見知らぬ胸の大きい女性に自分のことを話した場合もあった。
被害者がことごとく普段の寝所で誘拐されているという事実に身震いして
「どうして簡単に人の情報を見知らぬ他人に教えるのかしら?誘拐されたらどうしてくれるの?」
と不機嫌に言うと兄さまが素知らぬ顔をして
「少なくとも我が家では私と寝ていれば大丈夫だよ。」
と言うので、
「年子様と三人で寝るの?」
と真顔で言うと、兄さまは青い顔をした。
「被害者の情報を集めた見知らぬ女性の特徴は、夫が竹細工職人で、ある貴族の下働きの『胸の大きい女性』だから、彼女を探すのが最優先よね。」
「ああ。市で竹細工を売る商人から話を聞いて夫からだどってみよう。」
と兄さまが言ったあと、ジッと見つめる私を見返して
「どうかした?」
と聞くので、さっきから何回も『胸の大きい女性』と強調して言ってみて兄さまの反応をうかがっていたことにも気づいてない様子だったので
「本当に気にしていないのね?」
というとキョトンとして
「何が?」
と言ったので私はニッコリと微笑んだ。
(その4へつづく)