EP556:伊予の物語「修築の柵(しゅうちくのしがらみ)」 その5~伊予、雨宿りに戸惑う~
竹丸が助けを求めた屋敷は、その郡の郡司の屋敷のひとつで、何人かいる側室のひとりがそこの主だった。
助けてくれた雑色に案内されその屋敷を訪れると、主である郡司の奥様は快く私たちを屋敷に上がらせ雨宿りさせてくれた。
ずぶ濡れになった私と忠平さまに、乾いた小袖と単を貸してくれて、火桶を用意してくれた。
私と忠平さまが髪の毛を布で挟んで乾かしてる横で、竹丸は火熨斗(*作者注1)を借りて私たちの衣を乾かしてくれた。
髷をほどいた、艶のある長髪を後ろに伸ばしたまま、小袖の上に単をはおり、裾を後ろにたるませ、くつろいだ姿で座る忠平さまが、様子を見に来た奥様と対面し
「ありがとうございました。
助かりました。
このお礼は後日、必ずさせていただきます。」
礼儀正しい微笑みを浮かべ、頭を下げると、奥様は頬を赤く染め、慌てて扇で鼻から下を隠し
「いえいえ!遠慮なさらず!
体は温まりましたか?
火桶をもう一つ持ってこさせましょうか?
それとも温かい汁物などはいかが?」
忠平さまは心から嬉しそうに顔をほころばせ
「それはありがたい!是非とも頂きたい!」
突然、目の前に現れた、精悍で瑞々し(二つの意味で?)く、上品な美男子が、不意に、親しみやすい少年のような腕白な笑顔を見せれば、ウットリと心を奪われてしまう!気持ちはわかる。
現に奥様は、顔を隠していた扇を持つ手をダランと下におろし、
ぼぉ~~~~~~っっ
と忠平さまの笑顔に見とれてる。
艶やかに浅黒い、パンと張った筋肉質な胸元が、小袖の開いた衿からチラ見えしてるのや、盛り上がった筋肉質なふくらはぎと脛が胡坐をかいた小袖の裾からチラ見えしてるのにも、視線を奪われるのは致し方ない。
奥様が見とれるだけでなかなか立ち上がろうとしないのを不思議に思った忠平さまが、顔を覗き込むように首を傾げ
「どうかしましたか?
温かい汁物を・・・・頂けるとありがたいのですが?」
ハッ!と我に返った奥様がそそくさと立ち上がり、
「で、では、今すぐ作らせてまいります。
どうぞ遠慮なさらず、好きなだけゆっくりしてらしてね。」
扇で顔を隠すことを思い出すと、優雅に言い残しつつ、サヤサヤと衣擦れの音をさせながら立ち去った。
忘れるまでもなく、忠平さまは時平さまとそっくりな美男子で、育ちがいいことからくる上品さや正義感、鍛錬のたまものである俊敏で強靭な身のこなし、最高の教育をうけた証であるすぐれた知性、豊富な知識と機知にとんだ楽しい会話・・・・・どれをとってもこれ以上は望めないぐらいの高性能男子。
一目惚れする女子は数知れないだろうな~~~~!
つくづく罪づくりな男子だな~~~~~!
と、見るともなくボンヤリ眺めてると、忠平さまが私のほうをみて、ハッ!と目を見開くと、照れたように慌てて目を逸らした。
えぇぇっっ??!!
何っ??!!
私のどこかが変になってるっ??!!
髪の毛はまだ濡れてるのを集めて片方に寄せて布で挟んで乾かしてる最中!!
だけど、『変』ってほどでもないと思う。
もしかして小袖が乱れてるっ??!!
自分のじゃないから、ちゃんと着付けできてないのかと気にして、小袖の胸元とか腰のあたりとかがちゃんと隙間なく重なっているのを確認する。
隙間ができてると乱れた感じでなんかイヤラシイ!!から。
さらに単の前身ごろをしっかりと重ね合わせて体に巻き付けた。
何度も小袖姿で対面してるのに、今さら下着姿だとか気にする??
忠平さまに意識されて、いつも以上にドギマギしてる自分に気づいた。
アレ??
ヤバい??
変に意識してるっ??!!
今まで何っっっとも思わなくてどっちかっていうと『嫌い』だった忠平さまのことをっ??!!
まさかっ!!!
それに、忠平さまも近頃変っ!
昔は時平さまに張り合うためだけに私にちょっかいかけてきたのに、最近は態度の節々に真剣さが伝わってくる。
この間だって私の衣についた雑草の種を、庭の花壇にひそかに蒔いて育てようとしてるし。(*作者注2)
それに、今日だって水の中で凍えそうなのに、自分より私の体を心配するなんてっ!!
『己の目的のためなら全てを手駒にする!』のが忠平さまの信条じゃなかったのっ??!!
『私を手に入れて時平さまの鼻を明かす!』のが目的なら、自分の身を危険にさらす!なんてバカなことしないはずよね?!
どーーーしちゃったのっ??!!
そんなことされたら、時平さまぐらい本気で愛されてしまったら・・・・・・どうすればいい?
忠平さまを意識してぎこちなくなった自分にドギマギしてブンブンと頭を振り、雑念を追い払った。
ダメダメッ!
忠平さまに浮気心を湧かせてる場合じゃないっ!!
私がここへ来た目的は、『都近郊のため池堤防修復工事件数の増加問題』を解決して時平さまに尊敬されることっ!!
余計な事考える暇は無いっ!!
う~~~~ん。
と考えてみる。
今日視察したxx池では予定されてる堤修復工事はまだ始まってなかったし、そもそもどこが損壊してるのかさえ分からなかった。
つまり収穫は皆無っっ!!
って威張ることじゃないっ!!
ちょっと凹んでると、
・・・・・ドンッドンッドンッドンッ!
廊下を踏み鳴らしながら近づいてくる足音と、しわがれた男性の大声で
「なにっ!!奥様が男を引き入れた、だとぉっっ?!
間男かっ?!
うむっ、不届きな奴めっ!
目にもの見せてくれるわっっ!!」
と不穏な言葉が耳に届いた。
(その6へつづく)
(*作者注1:金属でできた柄杓のような形の道具。器の中に炭を入れ、平らな底の部分を布にあて、熱で洗濯物のしわを伸ばすことができる)
(*作者注2:EP526:伊予の物語「眷恋の種(けんれんのたね)」にあります!)




