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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)

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EP54:清丸の事件簿「虚ろの鉄地蔵菩薩(うつろのてつじぞうぼさつ)」 その2

 私は従者・清丸として、水干(すいかん)(くく)(ばかま)を着て、角髪(みずら)を結った少年風侍従姿で、もちろん、殿(との)の乗る馬に鞍をつけたり、口を引いたりして歩いていく。


想像以上に完璧な少年への変装に、兄さま以外の誰も私が伊予だと見抜けなかった。


・・・なぜなのっ?こんなに女性らしいのにっ?断じて私の胸が平坦だとか、お尻がペッタンコだからとか、そーゆー理由じゃないはずっ!変装が完璧だからよっ!


長い距離を歩き慣れてないので初めはすぐに息切れしたり、へとへとになったけど、何とか別荘までもう少しというところまでは頑張って歩いた。


私の足が止まりがちなのを兄さまが見かねて


「少し休憩するかい?」


と言うので意地でも歩き通すつもりだった私は


「結構です。だいぶ慣れてきたので平気です。」


ときっぱりと答えたのに、兄さまはひらりと馬から降り、私を抱き上げて馬に乗せた。


その後ろに自分も乗ると、


「時間がいくらあっても足りないからこれで行く。」


と馬を駆けさせた。


背中に兄さまの体温を感じてドキドキしたが、それを見抜かれないように


「兄さま、菅公(かんこう)の手下はなぜ鉄の鋳造仏を盗んだのかしら?高値で売れるの?」


兄さまはう~~んと考えて


「その鋳造仏が見事な物なら転売できるだろうな。鋳つぶして鉄として売るなら、鉄は農具や武器になるから、最近新しく発明された農具の流行や、もし戦が起きたりすれば、鉄の需要は一気に高まり価格も跳ね上がるだろう。持っておいて損はない。

だが、鋳造仏は中が空洞で、言わば薄い鉄板だから、鉄の量としては少ないはずだ。売って儲かるほどの量じゃない。」


「鋳造仏の数が多いのかもしれないわ」


「いや。強奪失敗のリスクと鉄の加工の手間を考えれば、薄い鉄板を盗んでも利益はない。」


「じゃあ何か仏像に恨みがあるとか?そういう信仰上の問題かしら?」


「他の仏像が盗まれたとは聞いたことがないのでそれもどうかな。」


兄さまはちょっと考えてから


「実は菅公(かんこう)の手下が盗んだという藤原清貫(ふじわらきよつら)の話も疑わしいと思ってる。」


と呟いた。


しばらくすると


「・・・着いたぞ!浄見っ!いい加減に起きろっ!」


と兄さまの苛立った声が聞こえ、馬の単調なリズムに揺られてすっかり眠りこんでいた私は肩をゆすぶられて目が覚めた。

やだっ!洗ったばかりの水干にシミができたわ!また洗わなくちゃ。


都のはずれに位置するその菅公(かんこう)の別荘は広さは普通だけど、お堂や立派な校倉造(あぜくらづくり)の倉庫があるところが少し変わっていた。


私たちが到着すると、藤原清貫(ふじわらきよつら)が既に待っていて、さっそく倉庫に案内した。


兄さまが


「この別荘の住人は誰だ?話は通してあるのか?」


藤原清貫(ふじわらきよつら)


「はい。検非違使(けびいし)にかわって、大納言が直々に調査するといってあります。住人は菅公(かんこう)から管理を任されているそうです。ここは菅公(かんこう)が様々な寺に寄進するための仏像や、私的な宝物や調度品などを置いておくための別荘だそうです。」


兄さまは険しい顔で


「しかし、菅公(かんこう)にやましいところがあるなら、簡単に調査させないはずだが、簡単に許可したのもおかしいな。証拠を他へ移した可能性もある。」


藤原清貫(ふじわらきよつら)は平気な顔で


「いえ。大丈夫です。さあこちらへ」


と、倉庫の梯子(はしご)を上り中へ入った。


藤原清貫(ふじわらきよつら)勝手知(かってし)ったるという風に奥に入り、五尺(150cm)ぐらいの背の高さの真っ黒い仏像の前につくと


「これです。」


と指さした。


その仏像は坊主頭が特徴のお地蔵様の立ち姿で、真黒なのは鉄で作られているせいだった。


鉄の鋳造技術が未熟なせいか、袈裟や顔の細工も木彫りや金銅仏ほど精巧な作りではなく、表面もザラザラごつごつしていた。


私は藤原清貫(ふじわらきよつら)の手前、言葉遣いに気をつけなくては!と


「素朴というと聞こえがいいけど、単純というか、なんだか手早く作った感じがしますね」


と従者っぽく呟くと、兄さまが


「鉄の鋳造仏は技術が未発達のままだから仕方ないのかも。だけど尾張(おわり)国からの調副物(ちょうのそわつもの)にしては雑な作りだな・・・」


と言いながら、仏像を指でコンコンと叩いた。


・・・金属でできた仏様の中は空洞が当たり前なので、高くて軽い音がする。


そういえば仏様って観音様とか菩薩様とか明王とか次々と種類が増えていく気がするけど、誰が増やしているのかしら?


きっと収集癖のある人に向けて次々と新作(しんさく)(ほとけ)を開発して、全収集(コンプリート)させ射幸心(しゃこうしん)(あお)って、誰かが甘い汁を吸っているのね。


藤原清貫(ふじわらきよつら)はじれったそうに


「もうこれで証拠は(そろ)ってるんですから、早く上奏(じょうそう)してください!」


と言うので、また疑わしそうに兄さまは藤原清貫(ふじわらきよつら)をみて


「東国からの租税の運輸を担うはずの僦馬(しゅうば)が群盗化し峠で馬を奪うなどの強奪が横行しているらしいが、私が調べたところによると鉄仏の調副物(ちょうのそわつもの)としての輸送は過去から数えて十回近くあったのに、なぜ今回だけ盗まれたんだ?

鉄仏に価値があるなら僦馬(しゅうば)がもっと早くから盗んでもおかしくない。」


というと、藤原清貫(ふじわらきよつら)はさあ?と首をかしげて


菅公(かんこう)がやったことなので菅公(かんこう)に聞かねばわかりませんね鉄地蔵の価値なんて。」


「仏像をいろいろな神社に寄進するくらい信心深い菅公(かんこう)が盗むことは考えにくい。盗んだ仏像を寄進するなんて不徳なことはしないだろう。」


藤原清貫(ふじわらきよつら)を疑惑の目でみると、藤原清貫(ふじわらきよつら)


「バレなければいいと思ったんじゃないですか?そういう器用なところが菅公(かんこう)にはありますから」


と悪びれず答えた。

(その3へつづく)


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