EP504:伊予の物語「一心の呂布(いっしんのりょふ)」その5~伊予、浮気を白状する~
睫毛は短いけれど、整然と密に並び、目じりが切れ上がって端が細くなり玉のような肌の中に消える。
スッと通った鼻すじと細い鼻梁は真っ直ぐで、その下にある形のいい薄い唇とあわせて、純白の陶器人形の顔に腕利きの絵師が一本の潔い線で素早く引いた線画のような、均整の取れた芸術的な美しさだった。
こんなにも端整で、高貴で、秀麗な殿方に、触れることができる立場ってだけでも、舞い上がりそうになるほど幸せなのに、私は何て贅沢なことを望んでいたんだろうと反省し、このままの幸せが続きますようにと祈った。
兄さまの頬に触れ、手のひらで包み込み、伸びかけた髭のザラザラと、生えてない部分のツルツルな手触りを楽しみ、人さし指で額から鼻筋をなぞり鼻先で止まり、ツン!と唇に移動して唇の湿った部分に指先で力を加えた。
ゆっくりと唇の全周を指先でなぞり、親指と人差し指で下唇を摘まんでみた。
「・・・んんっ・・・」
兄さまが煩わしそうに首を振り、私の指をハエか何かみたいに振り払おうとする。
ホントに眠ってる??!!
チョット疑って、今度は顔を近づけ、兄さまの下唇を唇でハムッ!とくわえた。
まだ目をつぶったまま、う~~~んと唸るだけなので、頬に唇を押し当て、
チュッ!
と音を立てて口づけた。
何の反応もないので、
やっぱり眠ってしまったの??!!
とあきらめて、ゴロンと仰向けになろうとすると、
グッ!
腰に腕が回された感触があり、グイッ!と引き寄せられた。
兄さまの胸の上に、私の上半身がのしかかるような形になり、私の顎のすぐ下に兄さまの顎があった。
「あのっ!ごめんなさいっ!重いでしょ?」
パッチリと眼を開いた兄さまが、不機嫌そうに口をとがらせ
「重くない、全然。」
兄さまの胸に重みがかからないようできるだけ腕で支えようとモゾモゾしてるとまたグイッ!と引き寄せられ、胸の上に乗せられた。
居心地が悪くて、でも話をするチャンス!なので、思い切って
「あの・・・ずっと、怒ってる?
私が浮気したから?」
兄さまはふぅ~~~~~と長い溜息を吐き
「影男とのこと?
十日ほど?もっと前かな?有馬が文で
『隣で影男と伊予がむつみ合う声が大きくて眠れない』
と書いてよこした。
あ!そうか!今気づいたけど、あれってホントの事だったんだ!」
棒読みで白々しく言ってのけるけど、そのせいで私に一切触れなかったんでしょ??!!
って責めたくなったけど、後ろめたくって、喉がつっかえるような感覚なのを振り絞ってやっと小さな声で
「その、按摩してくれるって言うから、安心してたんだけど、それが、その、変なところまでってなって、でも、子供ができるようなことはしてないから!
それだけは絶対ダメって、影男さんも分かってたみたい。」
「・・・・・・」
兄さまが無言なのに焦って
「ごめんなさいっ!!
もう二度としないからっ!!
でも、兄さまはイヤなのよね?
純潔な、無垢な、汚れのない女子が好きなのよね?
私がそうじゃなくなったら、もう、触れたくないのよね?
でも、いいの、例え侍女でも妹でも、兄さまのそばから離れたくない!
男女の関係がなくても、これからも近くに居てもいいでしょ?」
涙があふれそうになった目をパチパチと素早く瞬きしてゴマかした。
ゴロンっ!
兄さまが私を乗せたまま寝返りを打ち、今度は私が下敷きになり、兄さまが上から覆いかぶさるようにして、腕で体を支え、私を見つめた。
「浄見が汚れてる?
影男とそうなったぐらいで?
じゃあ私はどうなる?
多くの女子と関係を持ってきた私は、純白な浄見に触れる資格はなかったのか?」
・・・・確かにっ!!
って納得しそうになったけど、
「じゃあどうしてっ??!!
この頃、私に触れようとしないのっ??!!
浮気にガッカリして軽蔑したんじゃないの?」
兄さまの手が頬に触れ、親指で涙をぬぐいながら
「浄見こそ、私より影男の方がいいなら、そっちにすればいい。
男女の交わりが無くても、私は満足だから。」
「嘘よっ!!
幻滅したんでしょ?!私に?女子として見れなくなったんでしょ?」
(その6へつづく)