表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
502/505

EP502:伊予の物語「一心の呂布(いっしんのりょふ)」その3~伊予、影男に八つ当たりする~

無性にイライラしたり、クヨクヨ悩んだり、(こずえ)や文を届けてくれる大舎人にもぶっきらぼうな態度になったり、そんな自分にもまた腹が立ち、どうしようもなくて(へこ)んだり、ちょっとしたことで悲しくなって涙を浮かべたり、無口になったり、不安定な状態で過ごしてた。


(もみじ)更衣が私の異変に気付いて


「どうしたの伊予?

悩み事があるなら相談に乗るけど?」


って(おっしゃ)ってくれたけど、


「私が悪いんです。

左大臣さまに申し訳ないことをしてしまったんです。」


って言ったあと、悲しくて情けなくて涙がこぼれてしまった。


(もみじ)更衣は驚いて、私の背をさすりながら、顔を覗き込み


「左大臣が冷たいの?

新婚なのに?

(かよ)ってこないとか?

無視するとか?

まさか、暴言を吐くとか暴力を振るうとか?!」


ウウンと首を横に振り


「優しくて、上機嫌で、楽しそうなのに、・・・その、」


恥ずかしくて言い出せない。


(もみじ)更衣がじれったそうに


「どうしたの?

ちゃんと(かよ)ってくるんでしょ?

何が悲しいの?」


ハッキリ言うべき?


夜離(よが)れで困ってます!って?


でも、『新婚』なのに、『昔からずっと一番愛されてる!』ってさんざん自慢?!してたのに、あっさり見捨てられるなんて、惨め?悲惨?哀れ?としか言いようがない。


(もみじ)更衣がう~~~んと顎に指をあてて考え込んで、ハッ!と気づいたように、クリッとした目を輝かせ


「愛され過ぎてて困る!とか?

体がもたないとか?!

経験は無いけれど、一夜に何度もアレをすれば、疲れて起き上がれなくなるって聞いたことがあるわ!

左大臣は伊予に夢中だからそうなんでしょ?」


真逆の言葉がグサッ!と胸に刺さった。


ウウンと首を横に振り、力なく


「そんな・・・・・!そんな経験一度もありません。」


それならまだよかったのに。


とはいえず、気まずくなって黙り込んだ。


(もみじ)更衣は私の(うつ)状態の原因究明をあきらめ、それでも頭を優しくポンポンして


「でも、どんなに嫌なことがあっても時間が経てば忘れるわよきっと!

つらいのは今だけって信じてみて!」


前向きな温かい言葉をくれた。


そのとき、雷鳴壺の庭から


「あの~~~、伊予さんに文です~~!」


文使いの大舎人が、文を届けてくれた。


「ありがとう!ご苦労様!」


廊下に出てお礼を言って文を受け取り、開いてみると


『今夜こそ逢えますか?

愛しいあなたの麗しい顔が、目に焼き付いて離れません。

恋の病で涙の淵に沈まないように、一刻も早く救いの舟を出してください。


 影男(かげお)


はぁ?


何をちょっと、文学風?に比喩(たとえ)てるのよっ!!


誰のせいでこんなに悩んでると思ってるのっ?!


影男(かげお)さんに八つ当たりしそうになったけど、フッと息を吐き、冷静になり、


『今から梅壺で会って話をしたい』


と返事の文を、今にも立ち去りそうになった大舎人を大声で呼び止めて引き留め、届けてもらった。


 しばらくして、梅壺に影男(かげお)さんがやってきたので、几帳と屏風で囲った空間から頭を出し、チョイチョイ!と手招きして呼び寄せた。


影男(かげお)さんはニヤニヤして嬉しそうに烏帽子からはみ出た後ろ頭を掻きながら入ってきて


「昼間から?逢引きとは思ってもみませんでした。

伊予さんもやっと私を恋人だと認めてくれたんですね?」


ムッ!


として思わず尖った声で


「もう影男(かげお)さんとは二度と会いませんっ!

文を出すのもやめてくださる?」


思いっきりつっけんどんに言い放った。


影男(かげお)さんはキョトンとして


「どうしたんですか?怒ってるんですか?なぜ?」


目頭(めがしら)が熱くなり、涙がジワッと(にじ)んでる気がした。


「だってっ!だって、影男(かげお)さんとの事がバレて、兄さまに嫌われたんだものっ!!」


涙がボロボロ溢れる。


「あのあと、兄さまが、兄さまと、一緒に寝ても・・・・っくっ・・・っうっ」


惨めすぎて言葉が出ない。


頬を生温かい液体が流れる感触だけが、私を現実につなぎとめてる気がした。


影男(かげお)さんが眉を上げ、三白眼の黒目を大きくして、驚きの感情をあらわにして


「あなたを責めたんですか?

私と寝たことを?

浮気したあなたを許さないと言ったんですか?

最後の一線は超えていないとちゃんと説明しましたか?

あんなのは按摩(あんま)の延長にすぎないのに?」


私は涙と鼻水でグチャグチャになりながら、ブンブン首を激しく横に振り


「言ってない!

だって、兄さまに責められてないものっ!!

ひと言だって私にそんなこと聞かないっ!

優しくて、上機嫌で、でもっ・・・!」


影男(かげお)さんがため息をつき


「態度は変わらなのに、男女の肉体的な結びつき、触れ合いだけが無くなったんですね?」


ウンと頷いた。


「きっとっ、私のことをっ、っうくっ・・軽蔑っしてっ・・・っひっくっ・・汚らわしくてっ、っうっ、触れたくないんだわっ!」


泣きながらやっとのことでそう言うと、影男(かげお)さんは肩をすくめ


「だから私と別れるんですか?

一生男女の情を交わすことなく彼と生きていくつもりですか?

嫉妬深く狭量で、自分以外の男性と性的な経験があるというだけで、女性をそんな風に(さげす)見下(みくだ)すような男と?

奴隷のように一生を捧げ、自分を卑下して彼に尽くすつもりなんですか?」

(その4へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ