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EP46:番外編:兵部卿宮②

時平が

「まだ、宮の期待にそえるほどの女性ではないようですが。無理やりとなれば宮の名声に傷がつくのではないですか?」

宮は

「ははは。あなたは知らないでしょうが誘ったのはこの女房の方ですよ。」

「しかし、どうみても嫌がってるようにしか見えませんが。それより、女房の桜が宮のお誘いを待っていると言っていましたよ」

宮はふうんと納得した表情で立ち上がると浄見を見て

「では、今日はあきらめましょう。」

というや否や浄見は素早く身を起こして時平の背中に隠れ、衣をつかんだ。

宮がおや?という顔で

「大納言は伊予とお知り合いですか?」

時平が

「妻の妹が椛更衣ですから。妻の実家で何度か会っています。」

「ではあなたの恋人だから、私を止めたのですか?」

時平は少しもためらわず

「いいえ。違います。彼女にはいい結婚相手を探しているところです。だから、宮の遊び相手にはしたくないんです。」

というのを聞いて、浄見はさっきのショックの上にさらに傷ついた。

宮は信じられないという顔をしたが

「まぁいいでしょう。今日は別の女性にします。」

と言って立ち去った。


 時平と二人きりになると、浄見は時平からのお説教を予想して落ち込んだ。

そうでなくても涙でぐちゃぐちゃの顔や、乱れてぼさぼさの髪を見られるのが苦痛なうえに、自分の愚かな振舞を(とが)められることは耐えがたかった。

時平が何か言うのを待っていると、時平が体を近づけてきたので浄見は後ろに下がろうとすると、衣を足で踏まれていたので、それ以上、後ろにさがれず転んだ。

浄見が転んだ上に、今度は時平が馬乗りになり、宮がしたように、浄見の両手をつかんで床に押し当て、覆いかぶさるように浄見の耳に唇を寄せた。

浄見は驚き戸惑って

「兄さま?何をするの?どうしたの?」

と聞いた。

時平の荒い息遣いを耳で感じ、時平の体臭と香が混じった匂いが浄見の鼻をついた。

さっきの宮と同じことをされているにもかかわらず、浄見は思わず胸が高鳴り、体中を興奮が駆け抜けた。

体中から力が抜け、耳に触れる時平の唇の柔らかい感触と体温だけを意識した。

時平の重みに幸せを感じ、目をつぶりうっとりと身を任せていると突然、時平が唇を離して立ち上がり

「やめてといってやめてくれる男ばかりじゃないぞ。自分の発言に責任を持て。」

と言い放った。

浄見は何が起こったのかがわからず、呆然としていると時平が続けて

「気持ち悪かっただろう?男に油断するな。決して男がつけあがるようなことを言うんじゃない。わかったね。」

と念を押した。

浄見は寒さに身を震わせた。

騙されたと思った。

やめてとは言ってない。

気持ち悪くなんてなかった。

ショックだったのは時平が襲うフリをした事だった。

傷ついたのは、時平にとって浄見は本当に襲いたくなるような女性ではないという事だった。


 浄見を雷鳴壺まで送り届けた後、時平は一人でぼんやりとしていた。

浄見をあのまま襲わずに済んでよかったと思った。

兵部卿宮に襲われているのを見たときは、宮を殴り倒してやろうかと思ったがこれも思いとどまってよかった。

浄見を押し倒し、馬乗りになったところまでは無意識だった。

宮と同じことを自分がしていると気づいた途端、我に返った。

浄見が宮の時ほど抵抗しなかったように見えたのも悪かった。

あのままズルズルと犯していたらどうなっていたことかと時平はぞっとした。

時平は先ほどの浄見の柔らかい腕と、かぐわしい香りと、しっとりとした頬の感触を思い出し、浄見の衣を脱がせ、白い肌を露出させる想像をした。

白い乳房を手のひらで包み込み、その先を指で愛撫すると、浄見の口から吐息が漏れ、それを口で受けようと口づけた。

舌で中をまさぐり、浄見の体液を飲み込み、自分のものにするという想像を。

浄見が処女でなければ、先ほどの行為の真意を時平の体の反応から読み取れただろう。

時平の身体がどれほど正直に反応していたかを。

今も想像するだけで痛いほどだった。

時平は自分で自分を慰め、深い虚無感に浸った。

この先に待ち構えるのが今以上の虚無ではないことを願い、目星(めぼし)をつけてある結婚相手に、浄見への接近を()かそうと思った。

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