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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
番外編(恋愛)

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EP43:番外編:有馬①

「Ep10:更衣入内」の後です。

 (もみじ)更衣のおつきの女房として浄見が伊予という名で宮中に上がって以来、はじめて大納言・時平を雷鳴(らいめい)壺で几帳の陰から見たとき、浄見は十五、時平は二十七であった。


美人と評判の伊予を一目見たいという帝の要望を(かわ)すため、浄見が仮病を使った後、時平が本当の病かと心配して伊予を訊ねたのだが、浄見の恐る恐るのアプローチと、時平の子供じみた狼狽(ろうばい)のせいで二人の間はギクシャクしてしまった。



 時平は自分が以前とは違って、浄見と意識せず話すことすらままならなくなった臆病さに腹が立ったし、あきらめると決めた今、臆病であってもかまわないはずなのに狼狽している事にも怒りを覚えた。


十五になった浄見は以前の幼い少女とは全くの別人と言っていいくらい変わっていた。


容貌が変化したのは当たり前だが、時平にとっては守るべき・か弱い・はかなげな・子供から、欲望を掻き立てる・妖艶で・官能的で・神秘的な・色香をもつ女性になっていた。


時平は改めて、再び、浄見に恋したのだった。


時平が触れるのに怖気づくぐらい、浄見は美しかったし、はじめて浄見に男として認められたい、切望されたいという気持ちになった。


ふと見つめられたその瞳は以前と同じものなのに、なぜか時平の呼吸を止めるぐらい魅力的だった。


子供の頃であっても充分、時平を翻弄するほどの魅力があったものが、狩人が獲物をしとめるときの狙いすました目つきのような女性特有の誘惑のまなざしを、もし浄見が時平に向ければ、時平はこれ以上、(あらが)うすべがないと思われた。


と同時に、浄見がそのまなざしを他の男に向ける事を考えると、耐えられないほどの嫉妬が沸き上がった。


浄見が他の男に微笑みかけ、他の男を触り、他の男の目を見つめる、と考えただけでおかしくなりそうだった。


浄見にいい結婚相手を見つけるという計画は自分が思いついたことなのに、想像するだけで苦しくなるなんて、この先どうなるんだ?と絶望的な気持ちになった。


 そして浄見に愛されることに関してもはじめて自信がなくなった。


よく考えれば、自分より容姿のいい貴族は山ほどいるし、血筋のいい貴族も山ほどいる。


性格も冷酷だの非情だのと言われる自分よりは、ましな男は数えきれないくらいいるだろう。


女遊びが激しいところも自分が求める浄見の結婚相手としてまったくふさわしくない。


考えれば考えるほど客観的に自分は浄見の恋人に名乗りを上げる価値もないと思えた。


浄見が冷静になり、交友関係と視野が広がり、様々な男性貴族と知り合うにつけ、自分のことなんて歯牙にもかけなくなると思われた。


 そんなことに思い悩みながら時平は、宿直だというのに直廬(じきろ)で浴びるほど酒を飲んでいると、サヤサヤと衣擦れの音がして、誰かがそばに立っている気配がした。


時平がふと横を向いて顔を上げると、雷鳴壺の女房・有馬がそこに立っていた。


有馬は唇がぽってりと厚くて赤く、しまりのわるいのが男たちの間で色気があるともてはやされる部分だった。


時平が有馬に


「あぁ、どうも。先ほどは。恥をかかせましたか?」


有馬はにっこりと微笑んで


「いいえ。大納言様のお心遣いにはいつも感心していますわ。あのように粋に女性を扱える殿方はあまりいませんでしょ?」


時平は正面を向いて酒をあおりながら


「別に。だからといってうれしくもありません。」


有馬は時平の横に座って、胡坐をかいた腿に手を乗せ、もう片方の手を伸ばして酒器をつかみ


「わたくしが酌をしますわ」


と時平の器に注いだ。


 いつもの時平なら腿に手を乗せられた時点で女性の誘いだと判断し、自分内に欲望があれば、女性の誘いに(こた)えてきたが今日はそんな気分にはならなかった。


絶望的な気分にさせるほど自分を苦しめる女性が恨めしく、女性という存在のことを考える事すら煩わしかった。


有馬が時平の肩に頭をもたせかけ


「時平様?夜はさみしくないですか?わたくしでよければ温めて上げましょうか」


と、鼻にかかった声で言った。


時平はうるさそうに


「いいえ。寂しくないし寒くもないです。ただただイライラするんです。」


有馬が顔を上げ時平を見つめ


「どうしていつも苦しんでらっしゃるの?」


というと、時平はギクッとして有馬を見返した。


辺りを見回し


「そこの几帳の陰にいきましょうか?」


と時平は有馬の手を引いて立ち上がり几帳の陰にくると有馬を押し倒して口づけた。

(②へつづく)



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